感覚的な情緒。
それは簡単に養えるものではないだろう。
それでも自分などは、ドビュッシーやラヴェルの音楽を聴くようになってから、自然の草木や花、景色が何か匂い立つもののように感じられるようになった。花などを見ても、あれ、いつもより色彩が気になってしょうがない・・・?
妙なもので、何だろう、この感覚・・・と思って自分の心の中を探ってみると、彼らの音楽の影響があることに気付く。
そんな馬鹿な・・・なんていう人もいる。まあ・・・それはそれ。興味のある人は試してみるとよいでしょう。
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今回は書かなかったが、ドビュッシーのピアノ曲なども素晴らしく、部屋で一人のときにその音楽をかければ、まるで大理石で出来た美術館にでもいるような気になれる。
現代、「ポエマー」なんていえば、頭の弱い夢見がちの人間として馬鹿にされるかもしれないが、こうした音楽の「生きた詩情」を体験すれば、「詩人」もそう簡単に馬鹿にはできないに違いない。
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最後にラヴェルの音楽を二曲。
モーリス・ラヴェル、「夜のガスパール」。ピアノ、マルタ・アルゲリッチ。
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情熱的なアルゲリッチのタッチで描く、ラヴェルのピアノの詩。
1908年に作曲された。
ライナーノートによるとこの作品はフランスの詩人、アロイジェス・ベルトランの散文詩をもとにした作品だそうで、超絶的な名人技が要求されるという。一曲めの「水の精」はガラスをつたう時雨となって消える水の精を描く。
しかし、僕にとってみるとこの美しくも涼しげな音楽は、夜のしじまに細かい水滴をあげて、零れ落ちる噴水の素晴らしい情緒を思わせる。パラパラと鳴るピアノの音は夜の涼しさをいっそう際立てて、劇的で高貴に水の香りを振りまいていく。
その様はとても美しい。
そして、一転、しっとりと雅な感触の二曲め「絞首代」。不気味で不安げな描写のはずなのだが、じっくりと進められる不安感の中にもまた、気品のある詩情を感じずにはいられない。
・・・そしてリアルで情熱的に描かれる3曲め、こびとの「スカルボ」。ピアノの高い技巧的な要求が作り出す動きの多いこの曲は、ラヴェルの激しい詩情の発露だ。
その外、このアルバムにおさめられた優しい「ソナチネ」や情熱的な「高貴で感傷的なワルツ」も捨て難いものがある。
モーリス・ラヴェル、「子供と魔法」。エルネスト・アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団。
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ラヴェルは生涯に50分足らずの一幕ものの短いオペラを二曲残した。この「子供と魔法」はそのうちの一曲。
我がままな子供をたしなめるのは、家の中にある大時計、カップ、あるいは庭に住む、トンボやらリスやら・・・アマガエルやら。
それは物静かな田舎の家の中で繰り広げられる、おとぎ話。
場面によっては、今日の我々ならウォルト・ディズニーのアニメのキャラクターが音楽に乗って踊りだしてくる様子を思い出すような展開があり、ラヴェルの書いた動物の声を真似た歌の数々は、珍しいフランス語のオペラと相まって、コミカルで不思議だ。
しかしこのオペラで一番感動的なのは物語のラスト、改心した子供を思いやって、歌う動物達の合唱だろう。
まるで宗教音楽のようにしっとりと歌いだす、動物達の真摯な思いやりはいかほどか・・・。
そして最後、子供は今までの悪夢から覚めるように、一言「ママ!」と叫んで、このラヴェルの、小さな物悲しいオペラを終えるのである。
1920年から1925年にかけて作曲された。
