ロマン・ロラン著、「魅せられたる魂」。宮本正清訳、岩波文庫。
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・・・清水書院の「人と思想」シリーズに「ロマン・ロラン」も混じっており、次のような印象深い挿話がある。
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フランスの作家、ロマン・ロランは第一次世界大戦が始まった時、戦争に反対して反戦論文を世間に発表した。
「ロマン・ロランはヨーロッパの文学者のうち、第一に戦争反対の声をあげた人である。このために彼は多くの人に憎まれた。真実を守る人を、一体誰が愛せるか、というわけである。」
と語ったのはゴーリキーである。
正義のため、ロランは世間が言いにくいことをはっきりと言える人間であった。
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また、ファシズムに対しても反対の姿勢をとり続けたロマン・ロランは、ヒトラーに嫌われ、著作を焚書にされた。
しかし、戦争が始まり、ロマン・ロランの住む、ベズレーの丘もドイツ軍に囲まれ、激しい戦火に包まれる。
ところが、そんな激しい戦火の最中、逃げ遅れたと思われたロマン・ロランは奇跡的に助かったという。
<その秘密はロランの死後、明らかになった。フランス占領当時の一ドイツ仕官が「ロマン・ロランの家には一指も触れてならぬ」と命令した事実があきらかになったからである。>(「ロマン・ロラン」、村上嘉隆、村上益子共著、清水書院。)
戦時中の敵方の仕官からも、ロマン・ロランは尊敬を受けていたというわけである。
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生前その生き方から、ロマン・ロランは「ヨーロッパの良心」と言われた作家であった。
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「魅せられたる魂」は彼の「ジャン・クリストフ」と並ぶ長編小説である。
「ジャン・クリストフ」の主人公がベートーヴェンをモデルとした男性の主人公を扱った小説なのに対して、「魅せられたる魂」はアンネットという一般の女性を主人公にすえて描く、大河小説である。
楽観的主義と神秘主義を愛したこの作家は、どこか女性的な要素があり、そのためかこの小説は、全体に「ジャン・クリストフ」より落ち着いたトーンで描かれており、面白さでは「ジャン・クリストフ」より劣るかもしれないが、内容そのものはかなりしっくりくる。
<「ジャン・クリストフ」の最後の巻のはしがきは1912年10月の日付になっている。同い年の同じ月に、決して休息を知らなかった精神は次のように誌していた。
「善も悪も拡大しなければならない」
そして彼は新しい行動の分野を、男性と女性の二世代の矛盾衝突の中に求めていた、この両世代は各々違った進化の段階に達していた・・・・・・同一の時代の男と女の間には平行ということはない(おそらくなかったであろう)。女性の世代は、その時代の男性に比して、常に一時代の隔たりをもって、進歩しているか、遅れているかである・・・・・・今日の女性はこの自らの独立を獲得しつつある。男性は発酵させつつある・・・・・・>(「魅せられたる魂」、宮本正清訳、新版への序から。岩波文庫。)
挫折と葛藤が人生の輩というのなら、この小説も理解されるに違いない。
人生が努力と苦労とで開拓されなければならないと知った時、必ずロマン・ロランという「魂の蜜房」はあなたを魅了し、癒してくれることだろう。
