クロード・ドビュッシー、「海」。シャルル・デュトワ指揮、モントリオール交響楽団。
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夏になりました。夏になれば海を思い出す人も多いでしょう。
クラシック音楽にも海をテーマにした音楽がありまして・・・今回は印象派と呼ばれるドビュッシーの作品から「海」を紹介します。クラシック音楽を知らない人にはちょっと変わった音楽で難しいですが、興味のある人は一度聴いてみてほしい名曲です。
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19世紀後半から20世紀初めに賭けて活躍したフランスの作曲家、クロード・ドビュッシーはモーリス・ラヴェルと共に独墺系の作曲家とは違う、センス溢れた感覚的な音楽を書いた。
彼らの音楽は、ロマン派の後期からさらに進んで、厳しい理屈にとらわれないフランス人特有の感性を生かした音楽で、「印象派」と呼ばれている。
それは具体性に乏しいが、濃密な音彩による詩的な音楽の世界であり、センス満点の豊かな味わいで人々を魅了する。
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その印象派の作曲家、ドビュッシーの最高傑作と言われる、「海」。
「海」が好きだったといわれるドビュッシーのこの作品は、三つの交響的エスキス・・・と副題にあるように、ここで海の持つ三つの側面を、印象的に音楽化してみせた。それぞれの曲には次のような副題がつく。
第一曲、海の夜明けから、真昼まで。
第二曲、波の戯れ。
第三曲、風と海のダイアログ。
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冒頭、ドビュッシーは夜明けの海の様子を描くが、それは雅でノーブルな美しい印象を我々に伝えてくる。特にハープの音色は陽光に輝く、海のきらめきを伝え、滑らかにうねる弦は濃い海のブルーを伝える。それは我々日本人が「海」に持つのとは違う、エキゾチックで静かな海の印象だ。
まさにそれはフランスの「海」の印象。
セルジュ・チェリビダッケ指揮、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団。
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このドビュシーの「海」という曲は、初めて聴く人には必ずしも分かりやすい音楽ではない。しかし繰り返し聴き、慣れてくれば理解できる。
僕はシャルル・デュトワとチェリビダッケの指揮した2種類のCDを持っている。僕自身はこの2枚のCDでこの曲を覚えた。多分、僕以外の人達もこの2枚を聴いてみるとこの曲の魅力を理解できるのではないのだろうか。
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まさにフランス風の色彩的で感覚的な音楽なのはデュトワの方。しかし正直に言うと、この演奏を初めて聴いた時、僕もこの「曲」を全く理解できなかった。
ドビュシーの音楽が理解しづらいのは、それまで聴いてきた音楽の種類の毛色とこの曲の毛色が全く違うからだろう。クラシック音楽を聴きたての人がいきなりドビュシーやラヴェル、マーラー等の音楽を聴き始める事は珍しい。またポピュラーやロックなどを聴いている人にもこの曲は分かりづらい。
なぜなら我々は普段「音楽」というと、歌詞があることを抜けば、その音楽が持つ「リズム」や「メロディー」を思い出すからだ。しかし、「印象派」などと呼ばれるこの手の音楽には、明快な「リズム」や「メロディー」があることは稀である。だから我々は「音楽」に対する固定概念を一度捨てなければならない。
ここにあるのは、純粋な音そのものの魅力と、溢れる感性が作り出したイメージの世界なのだ。
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ここでデュトワは、涼しげな冴えた音彩で、美しいドビュッシーの「海」の世界を描き出す。あまり力みすぎる事も無く、鮮明な音響が美しい。
ただ、その分、立体感には乏しい嫌いもあるが、ドビュッシーの音楽なら、必ずしもそうした迫力は要らないかもしれない。それでも、後半は音の動きが大きいだけにちょっと平板に感じられた。
もう一組はチェリビダッケの演奏。
こちらはどちらかと言えば玄人向きのCDなのだと思う。
チェリビダッケの演奏は大柄で、奥行きの大きい、大音響の世界だ。いつも通り、みずみずしいが墨絵のようなタッチで、壮麗にドビュッシーの音楽を描いていく。強力なスローテンポ、繊細な震えるような音楽で、立体感豊かな音響世界が構築されていく。
だから、デュトワの演奏がややボリュームを落としても楽しめたのに対して、チェリビダッケの演奏はボリュームを上げ、音響を広げないと、細部の音楽の美しさが把握できない。しかも、仏教の「禅」にこっていたチェリビダッケだけあって、その音響世界はどこか東洋的で、デュトワの音楽よりも、雅さが目立つ。
それは極めて個性的で、完成された芸術の世界と言えるだろう。
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このドビュッシーの「海」は彼の音楽には珍しく、大きな音の動きがある。
特に第三曲めあたりにはその傾向が強い。
いかにもドビュッシーらしいのはデュトワの演奏だが、チェリビダッケの音響を生かしたうねかえる音の世界も、音の動きが聴き取れて面白いと思う。
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ドビュッシーの感覚的な音楽による「海」の世界。それはまるで映像的な様であると同時に、まるで香り豊かな何者かの様でもある。
こうした音楽を聴くと、我々は何か新しい感覚を身に付けることが出来る。
それはまた新しい自分を発見する喜びでもあるのだ。
