福は、私の命綱だった。
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始めに、この記事が私の半生記に近い内容に
なっていることをお断りしておく。
猫の記事以外興味がない方は飛ばして下さい。
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会社員の頃、過労で体を壊して、休職していた。
私の親は、私が病気や怪我をすることを許さず、
すぐに大声で叱責するのが常だった。
なので、自宅療養は針の莚だった。
福が来てくれたのは、そんな時だった。
猫なんて触ったこともない。
友人知人に相談しながら、全部手探りだった。
私が隠れて猫を育てていると知った親は
激高して怒鳴り続けた後、福を処分しようとした。
私は泣いて抵抗した。
私は福にべったりだった。
私を必要としてくれて、
私が絶対に嫌なことをしないと信じてくれている。
大好きだと懐いてくれる。
可愛くて愛おしくてならなかった。
親はしょっちゅう大声を出していたし
「オカアチャン」はその度にメソメソ泣いていたし
福にはあまり良い環境ではなかったと思う。
それでも、福は元気に素直に育ってくれた。
精神的に参っていた時期だった。
福のお蔭で、どれだけ慰められたか判らない。
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福が仔猫の頃、猫好きな外祖母に見せて、
「猫の恩返して、あるんやで」
と言われた。
その通りだった。福を育てることで、私は福に守られた。
私の病状が多少なりとも改善したのは、福のお蔭だ。
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それから、復職と休職を経て、
元の職に戻れる見込みがないと判って、
親の叱責はエスカレートした。
何の価値もない、できそこないの失敗作。
それが同じ家に居るのが耐えられなかったらしく
「お前が居ると思うだけで腹が立つ」と怒鳴られた時、
ああ、もうここにいるのは無理だな、と思った。
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本調子でない時に、
１人暮らしをするのはためらわれたけど、
後押ししてくれたのは、福の存在だった。
福がいれば、何があっても、きっと何とかなる。
ペット可マンションに福とホタを連れて引っ越した。
もう怒鳴り声に怯えながら暮らさなくて良い。
症状は一気に改善して、
これで落ち着いて療養できると思った頃、
一度目のフラッシュバックが始まった。
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当時「フラッシュバック」と言う認識はなかった。
ただ、今まで感じないようにしていた、
過去の辛かったことが、ボロボロと降って来た。
怒鳴られた時、本当は恐かった。
叩かれた時、本当は痛かった。
大事な物を壊された時、本当は悲しかった。
自分宛の郵便物を、
勝手に開封したり捨てたりされたのは
本当は、すごくみじめで、泣きたかった。
全部我慢して平気だと無理矢理思い込んで、
思う事自体、禁止してきた感情が一気に出てきて
物凄く落ち込んで、お先真っ暗な気分だったけど
福のお蔭でなんとか乗り越えられた、と、思う。
福は、私が元気がない時、いつも寄り添ってくれたから。
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それから、再就職して、引っ越しして、
二度目のフラッシュバックが始まった。
これがものすごくキツかった。
目の前の相手からは逃げられても
自分の記憶からは逃げられない。
辛い体験が昼も夜も追ってくる。
こんな思いをするのなら、
生まれてこなかったら良かった。
もう無理、て思った。逃げるしかない。
どこへ？
あちら側しかないよね。
どうやって向こうに行こうか
真剣に考えるようになってしまって、
（部屋を事故物件にするのはマズイ、とか）
（変な所で冷静だ）
今思い返しても、
本気で危なかったと思う。
その危機的状況だった私を
繋ぎとめてくれたのが、福だった。
福ともっと一緒にいたい。
それだけのことで、私は思いとどまった。
私にとっては、何より大事なことだった。
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とりあえず、このままだとヤバイ。
駆け込んだ精神科で言われたのが
（あちら側に行こうとする＝鬱病、だと思ったの）
「PTSDのフラッシュバック（再体験）」
の可能性が高い、とのこと。
PTSDと言えば戦争の前線にいた人や、
凄惨な事故や命に関わる重大な犯罪に遭って
精神的にズタボロになった人の心の傷のことだ。
それは大げさなんじゃないの？と思ったけど、
フラッシュバックについては当てはまる気がした。
「フラッシュバックは、
過去の経験を思い出すんじゃなくて、
意識が過去に飛んで、過去の経験を
『今起こってること』として再体験するんです」
なに、その地獄。
連日連夜30年分の再体験、そりゃ逃げたくなるだろう。
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