去年の何月だったか。
月明りに誘われて、福を抱いてベランダに出た。
空には、まんまるお月様。
福、見て見て、お月さん、まんまる。
福は、外を見るのが好きな子だったけど
お月様は流石に遠すぎたみたい。
でも、風に当たって気持ちよさそうだった。
福、福、きれいなあ。
今日は、お月さん、きれいなあ。
今日の、お月さん、きれいなあ。
お月さん、きれいなあ。
(福と見る月はきれいだ)
お月さん、きれいなあ。
(こんなにきれいな月を一緒に見られて嬉しい)
お月さん、きれいなあ。
(だいすき)
私が何回も話しかけるのを、福は、
私の腕の中で身じろぎもせずに聞いていた。
きれいな月だった。
夜風が福に障るので、部屋に戻った覚えがあるから
10月か、11月だったんだろう。
このしばらく後、福が失明していたことに気付いて
一緒のお月見は、この時が最後になった。
円なる 月を見上げて「きれいね」と
幾たび言ひけり 共見し汝に
福たん、だいすき。