ヒストリエ vol.5 (5) (アフタヌーンKC) ヒストリエ vol.5 (5) (アフタヌーンKC)
岩明 均

講談社 2009-02-23
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 このほど、実に一年半ぶりに、『ヒストリエ』の最新刊が発売された。多くの方がこれを心待ちにしていたことと思う。そして、正直久々すぎて流れを失念しちゃった方も多いんじゃないだろうか。

 と、いうわけで、本稿では5巻発売を記念して、これまでの『ヒストリエ』を簡単におさらいしていく。

作品情報

 本作品は『寄生獣』で知られる岩明均がデビュー以前から構想していた作品で、紀元前4世紀の地中海世界を舞台とした歴史マンガである。後にアレキサンダー大王の書記官となるエウメネスの生涯を主軸として物語が展開される。

 紀元前3世紀後半の地中海世界を描いた『ヘウレーカ』や、江戸時代初期の久保田藩のお家騒動を描いた『雪の峠』、戦国時代の剣豪・疋田文五郎を主役とした『剣の舞』など、同氏の最近の作品には歴史を題材にしたものが多い。

 本作品は第1話~第42話までが第1部、第43話以降が第2部という構成になっている。また、展開的には第1巻の前半部分と第5巻の最初がつながっていて、あいだの第1巻後半~第4巻までが回想パートになっている。さらに回想パートの中でも幼年期から青年期への時間の経過が起きている。

 巨匠がデビュー前から温めていただけあって、時系列が非常に入り組んでいる『ヒストリエ』。本稿では、展開に沿って、3つのパートに分けて本作品のこれまでの流れを整理していこうと思う(見出しが 黒色:現在パート 薄いセピア色:幼年期の回想パート 濃いセピア色:青年期の回想パート とする)。


 なお、このほど発売された第5巻では、ちょうど回想パートが終了し、物語が動き出すところから始まる。ヒキが気になって悶える思いもしなくて良いので、未読だが興味のある方はこれを機に一気読みをオススメしたい。


 (※)以降、ネタバレが多分に含まれています!まだ読んでいない方はご注意ください!

1.アリストテレスの逃亡・アンティゴノスとの出会い(BC343)

 本作は、エウメネスがトロイア遺跡からカルディアへと向かうところから物語が始まる。トロイア遺跡付近の浜辺にいたエウメネスは、ペルシアから逃亡中のアリストテレスと遭遇し、その手助けをする。エウメネスの機転によってアリストテレスは無事ペルシアからの追っ手を逃れ、馬車でカルディアへと向かう。

 蛮族(バルバロイ)の服装をしていたエウメネスは馬車には乗せてもらえず、歩いてカルディアへと向かう。

 エウメネスはカルディア市の門の前まで到着するが、門の前をマケドニアの大軍が包囲していたためにすぐには中に入れない。エウメネスはそこでも機転をきかせ、門を開けることに成功する。その際に門の前で出会ったのがペリントスの商人・アンティゴノスであった。

 カルディアの市内で思いを馳せるエウメネス。カルディアは彼の故郷であったのだ。以降、彼は回想を始める。

2.故郷カルディアでの日々(BC349頃?)

 エウメネスは幼少期、カルディア市の裕福な家庭・ヒエロニュモス家の次男として過ごしていた。しかし、市内に住む金貸し・テオゲイドンの奴隷であるトラクスが騒動を起こし、その混乱に乗じて、家人であるヘカタイオスとゲラダスによって父ヒエロニュモスが殺害される。

 また、ヘカタイオスの謀りによって、エウメネスがヒエロニュモス家の人間ではなく、戦闘民族スキタイ人の子供であることが発覚する。そして、そのためにエウメネスは奴隷身分になり下がる。奴隷となったエウメネスは、ヘカタイオスの紹介で、オルビアの商人・ゼラルコスに売られる。

 カルディアからオルビアへの移送中、奴隷の反乱によってゼラルコスとその従者が殺害される。人員が不足した移送船はほどなく難破し、エウメネスはティオスにほど近い小さな村、ボアの付近に漂着する。

 その後、彼はボアの村で平穏な暮らしを始める。

3.ボアの村での戦争(BC343かそれより少し前)

 エウメネスはボアの村で剣を学び、逞しい青年へと成長する(この時点で既にBC343のエピソードの直前である。カルディアでアンティゴノスと出会った時点で18、19歳ほどであったこと・幼年期の時点で見たところ12、13歳であったことを考えると、6年ほどボアの村で過ごしていたのではないかと推測される)。

 このとき、ティオス市では、領主であるフィレタイロス家の当主・フィレタイロスが重病に倒れる。野心家であるその息子・ダイマコスは、領地を拡げるためにボアの村への侵攻を開始する。

 村を守るため、エウメネスは村人とともにダイマコスの私兵と戦う。そして見事ダイマコスを討ち取ることに成功する。しかし、その引き換えとして、エウメネスはボアの村を去らなければならないことに。

 村を離れたエウメネスは、以前書物で読んだトロイア遺跡に寄りつつ故郷カルディアを目指す。その途中、ペルシアから逃亡中のアリストテレスに遭遇し、回想パートは終了し、物語はその冒頭部分へと接続することになる。

これからの『ヒストリエ』

 というわけで、第5巻ではついに物語の続きが動き出す。アフラマズダーの印やら、バルシネが出会った変なオッサンやら、気になっていた部分もこれからやっと描かれ始めるのだろう。加速するであろう今後の展開に大期待である。


 次は早めに出るといいなぁ…。

家族愛というテーマを、美しいのではなく、つらく切なく描く。

オノ・ナツメ作品の根底にながれる温かみをあえて突き放したような展開。

可愛らしい絵柄の中に、狂おしさがにじみ出る。

not simple (IKKIコミックス) not simple (IKKIコミックス)
オノ ナツメ

小学館 2006-10-30
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『not simple』は、青年イアンのシンプルではない人生を綴ったオノ・ナツメの初期作品。

単行本一冊だが、読後には(言い古された表現だが)一本の映画を観たような感覚がある。

それはまさしく《人生》を見せつけられたような気分になるからだろう。


オノ・ナツメの画は特徴的だ。

bassoの名義でボーイズラブ漫画も描くが、一見してオノ・ナツメの画だと見極めることができるだろう。

アメコミ的なパーツ分けがデフォルメされたような絵柄でありながらも、直線的な部分は皆無で温かみのある線で、可愛くて善意に溢れたような造形のキャラクターが彼女の持ち味だろう。

しかし『not simple』のストーリーは、その善意の化身のような主人公が苛酷な運命に翻弄されていくというもので、洒落っ気が効いていて暖かい雰囲気の他のオノ・ナツメ作品とは一線を画していると思える。

果たしてそれがミスマッチなのかというとそんなことはなく、そこには奇妙な魅力がある。

おもちゃのようなどんぐりまなこが可愛らしいのに、その苛酷なストーリーに合うのはこの絵柄しかない、と感じさせる。


物語そのものはありきたり、想像の範疇を越えるものではないだろう。

だが描かれるキャラクターたちを見ていると、胸が苦しくなってくる。

その絵柄を含めて、キャラクターたちの中に読者に訴えかけるものが間違いなくあるのだ。

それを《心》が籠っている、と表現したら語弊があるのだろうか?


たとえどんなにありふれた物語でも、そこにいる人間は胸を搔き毟る。

シンプルじゃない、けれど決して複雑でもなく、聞きなれたような人生。


「本当に感じたいのは、もっと近くにいる人たちからのぬくもりなのに。」


シンプルな願いなのに。

ウホッ!!いい男たち~ヤマジュン・パーフェクト ウホッ!!いい男たち~ヤマジュン・パーフェクト
山川 純一

ブッキング 2003-11
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はじめに

 最近、youtubeでヤマジュンの作品に声とBGMをあてた動画をよく見ています。

 もちろん、僕はノンケです。

 ですが、アッー!!な要素を抜きにしても、ヤマジュン作品には引き込まれるものがあるんです。

 ネームやセリフ回しなんかは特にキレてて、1マンガ作品として、完成していると言ってもいい。

 この連載では、そんなヤマジュン作品の中で、特に素晴らしいものを紹介していきます。

 第1回は『教育実習生絶頂す』。

山川 純一(やまかわ じゅんいち)は、ゲイ雑誌 『薔薇族』 で活動したマンガ家。本名は不明。男性、現在の年齢はおそらく50代以上(後述)。愛称はヤマジュン。代表作は『くそみそテクニック』や実写映画化した『海から来た男』など。
まるで1970年代の少女マンガそのままの男性キャラクターに、過剰なセックスアピールや、ギャグとも取れる強引な展開を基本スタイルとし、尚且つ時代劇やミステリー、第二次世界大戦などの様々な題材を手広く同性愛と融合させアレンジしている。なお、作品が作品だけにアニメ化作品こそ存在しないものの、1991年に「海から来た男」という作品が実写映画として公開されている。(Wikipedia より)

作品情報

 『教育実習生絶頂す』(きょういくじっしゅうせいぜっちょうす)は「薔薇族」1983年夏増刊号に掲載された山川純一の一話完結のマンガである。

 とある中学校に教育実習に来ていた神谷は、生徒からの人気も厚く、指導担当の石井からも教師としての素質を期待されていた。しかし彼は同性愛者であり、体育倉庫で石井と二人きりになった時に神谷は突然自分の男性器を見せ、「あなたの様な同性愛者に抱いてほしい。」とせがむ。一方生徒の森下はしまい忘れた巻尺を体育倉庫にしまいに来た際に神谷の行為を見てしまう。神谷は森下を呼び出し「君も同性愛者だろう。俺を抱いてほしい。」と言う。言われる通り行為を始めた森下は神谷にこの快感に浸っている間に自分を殺せとせがみ、神谷は彼の首に手を伸ばした……。(Wikipedia より)

 とまあここまでは普通の筋書きなんですが、ここから怒涛の急展開を見せるのがヤマジュンの真骨頂。以降、その後の展開を追い、この作品に見られるヤマジュンのスタンスを読み取っていきたいと思います。

ご都合主義に対する反逆

 さて、その後の展開ですが…。(以降ネタバレです!自分の目で確かめたい方はググって下さい!


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 場面は変わって学校の保健室に。ベッドで佇む森下は真相を明かす。彼は神谷から、石井先生とセックスした事を告げられたが、実はあの時体育倉庫にいたのは自慰行為をしていた神谷一人だけで、一連の行為は神谷の見ていた幻覚であったのだ。また、森下は全くのノンケであった。彼が首を絞められたのは、行為の最中に自ら求めたからではなく、神谷のプライドを傷つけ、その怒りを買ってしまったが為だった。
 保健室を出た石井は、体育倉庫での神谷の申し出を無下に断ってしまった事を後悔する。
 「同性愛者であることをずっと隠して女性が好きなふりをしており、そのジレンマが一気に爆発してしまったのである」その場にいた保健教諭は神谷のことをそう分析した。
 その時、辺りが騒がしくなり、一人の女性教師が石井達の下に走ってくる。神谷を病院に連れて行こうとしたところ、突然暴れ出して裸になったというのだ。その直後、全裸の神谷がこちらに向かってくる。石井はこれを止めるが、神谷は一言残して、どこかに行ってしまう。


 「石井先生と森下君が、俺とのセックスを待っているんです…


 彼の精神は、すでに崩壊していた。

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 まさかの精神崩壊END!ここで読者を突き放すとは!


 いや、普通ならありえないですよこれ。マイノリティ嗜好とはいえ、曲がりなりにもエロマンガなんだから、大人しくリビドー丸出しのご都合主義にすべきなのでは?


 が、ここで常道におもねらないのがヤマジュンなんですね。その反骨精神がカッコいい。

まとめ

 『教育実習生絶頂す』という作品では、ヤマジュンの抱く問題意識が垣間見えるような気がします。性的マイノリティのエロを扱ううえで、単なる欲望のはけ口的な内容に止まらず、マイノリティが故の悲哀まで描き切る。「同性愛」というテーマに対して、大胆だけれど、あくまで真摯な彼の姿勢がそこにはあるんじゃないでしょうか。