連続テレビ小説 オードリー 再放送 ④
大京映画 黒田社長の苦悩
(第10回・第12回 黒田社長の台詞を中心に)
大京映画は、幸太郎の ” 若侍七変化シリーズ ” 以外は、全て赤字。
モモケン、クリキンの白塗時代劇では、もう客を呼べない。
東映さんは、黒沢時代劇を意識しすぎて残酷表現に走り、女や子供を
映画館から遠去けてしまった。高倉 健、鶴田 浩二の「人生劇場 飛車
角」のヒットでこれから何とか任侠路線に活路を見出そうとしている。
大映さんは、市川雷蔵の「眠 狂四郎」「忍びの者」、勝 新太郎の
「座頭市」をシリーズ化して健闘しておるが、これも先行きが明る
いとは思えない。
このままでは、太秦(うずまさ)の灯は消えてしまう。
健全時代劇はテレビ、エロ・グロ時代劇は映画と言われたら、己の
首を絞めるだけ。落ちたりといえども、大京映画がピンクに走る
わけにはいかない。
秋のオリンピックからはカラーテレビも普及するだろう。もはや
テレビ時代の到来を認めざるを得ない。我が大京は、幸太郎の映画
で勝負をかける。
幸太郎も30代に入り、もう若侍の年じゃない。幸太郎の新しい魅力
を最大限に生かした企画はないか、、、
今すぐ名案を出せと言っても頼りにならない役員たちには見切りを
つけ、雀蓮という謎の尼僧占い師に頼った。そのご宣託は、
「椿の元、髭蓄えし文士あり。かの筆より生まれいずる、連らなりし物
語の遥か彼方に、洋犬を操る孤高の剣士あり。嵐山が火と燃える頃、
彼の筆より生まれいずる新しき人物が、必ずや弱き幹を天高く育てる
ことであろう。」というものであった。
” 灯台元暗し ” であった。黒田社長と秘書の関川は、さっそく「椿屋」
に逗留して売れない小説を書いている髭を生やした長髪の文士・中内
俊也(ベンガル)の連載時代小説「伊賀の風紋」に目を付けて訪ねた。
中内は、確かにこれから書こうと考えているところに、洋犬を操る
孤高の剣士で葉隠仙鋭(はがくれせんえい)という美貌の剣士は出てくる
が、まだ自分の頭の中にしかない登場人物。原稿にも何もなってい
ないのにどうしてわかるのか、あんたたちは占い師かといぶかる。
「企画はひらめきでございますから・・・ただいま連載中の先生の
お作『伊賀の風紋』を拝読しておりますと、判るのでございます。」
大京映画社長が直々に来訪して、葉隠仙鋭という孤高の剣士のエピソ
ードを映画化することをぜひ許可してほしいと懇願する。”葉隠仙鋭”
は、まだ原稿にもなっていない、小説の中でもチョイ役に過ぎない
剣士なのに、、、。 どうもおかしいが、、、。
「結構でございます。先生のご許可さえ頂ければ、後でうちの台本書
きが何とでも致しますんで。」
黑田社長は、葉隠仙鋭を禁欲的で孤独な剣豪として書いて貰うよう
お願いしたが、中内は、葉隠仙鋭のキャラクターを、大映の市川雷
蔵演じる「眠 狂四郎」のような色っぽいイメージで描くことを主張
した。社長は、「雷蔵は雷蔵、幸太郎は幸太郎」として、幸太郎フ
ァンが求めるあくまで清廉なイメージを崩さないことだけは譲らな
かった。
中内は、大京映画の看板女優と会わせて貰うことを条件に、黒田社
長の求めるキャラクターの葉隠仙鋭を主役にして小説を書き直すこと
を約束した。
幹 幸太郎の新企画を打開策とすることにした黒田社長は、今まで一緒
に大京映画を盛り立ててきた二人の御大に、早速今後の方針への協力
を求めた。
この黒田、大京映画のために申し上げているのではございません。
御大のために、ひとえに御大のために、、、。
佐田啓二、長谷川一夫、山本富士子、各社のスターは相次いでテレ
ビに進出し、成功しております。御大も今なら、テレビ局も喜んで
主役に迎えるでありましょう。戦前から我が大京映画を支えて来て
下さった御大のために、、。
ほな わしにテレビに出ぇちゅうのか・・・
B級映画に出すわけにはいかないと? 相変わらず口が上手いなぁ。
御大、残念ながらこれからはテレビの時代でございます。我が大京
映画もテレビに進出したいと考えております。どうかそこのところ
をご理解頂きまして、我が大京映画製作のテレビ時代劇の主役を、
どうかお引き受け下さい。
考えておこう。
二人の御大は、う~~ん、考えておこうと即答を避け、すぐには
結論を出さなかった。
戦前から共に大京映画を支えて来た戦友や。
自分の映画にはもう客が入らんことを、二人ともよ~う判っておる。
必ず、うんと言うてくれる。 よっしゃ~~ 。
両御大にテレビで稼いで貰うて、幸太郎の映画につぎ込むぞ~。
頼むで、幹 幸太郎。 お前が最後の切り札じゃ。