コンサート２０２３
― 舟木さんの愛の歌 ―
(2)
2⃣ 夢幻－ＭＵＧＥＮ－
舟木さんについての書籍を出版されている詩人、
なた としこ さんの作品を中心に。
『 虹を紡ぐ 舟木一夫 風、好きに吹け 』
なた としこ著 １９９７．２．２５ 東銀座出版社
なた としこ さんが、まだ一度も参加したことのない「流行歌手の
ライブ」に行かれたのは、１９９５年３月９日、福井県武生文化セ
ンターでの舟木さんコンサートであった。ご子息が用意して下さっ
た入場券をもち、ある時不意に目の前からいなくなった「舟木一夫」
の不在、空白の時間を問うために。
「舟木一夫」は、まるで昨日の延長線上にいるように何の気負いも
なく舞台で語り始め、帰りのロビーでは阪神大震災へのカンパを訴
えていた。 2時間余りのコンサートは瞬く間に過ぎ、揺れるような
思いで、ゆらゆらと駅への道を歩き幾十日が過ぎた頃、気づかない
うちに ” 熱い舟木一夫への旅 ” へと出発してしまっていた。本書は、
著者の生涯で初めての心さがしの旅の記録となった。
（参考：「虹を紡ぐ」はじめに）
1995年６月。
知らぬ間に出て来てしまった旅の出発点を見定めていくと、それは
『 WHITE 』から出発していることに気が付いた。著者は「ROCK'N
ROLL ふるさと」の歌詞通りに一宮市萩原町を歩き、上田成幸少年
がハモニカを吹いているような錯覚を覚えたり、「潮どき」」で少
年期から青年期への成長を想い、「下町どこさ」でふるさとの地の
どこかに残る下町を見出そうと探していった。しかし、突然いなく
なった「舟木一夫」の不在による著者の空白は、まだまだ埋められ
ることはなかった。
(参考：「同」Ｐ１５～Ｐ３５)
８ヶ月後、ふたたび『 WHITE 』へ
本書で取り上げられている曲は、
『 WHITE 』より、 「みんな旅人」「れ・く・い・え・夢」
「～糸車～」
『 WHITE Ⅱ』より、 「潮どき」 「つばさ」
著者による、『 WHITE 』『 WHITE Ⅱ』の詩を貫いているもの・・
孤独、乾き、喪失感、それらからの脱出、はばたき、底辺にうずく女
たちの嘆き
つきあげるようなリズムと交差してある時はにじんでくるようにうた
いだされるそれらの詩片は、低く哀調をおびて、心のひだにふれてく
る。
(参考：「同」Ｐ１１８～Ｐ１３０)
LP『 WHITE 』１９８２年６月発売 １９９５．４ CD発売
『 WHITE 』掲載の舟木さんからのメッセージ
LP『 WHITE Ⅱ』 １９８３年４月発売 １９９５．４ CD発売
『 WHITE 』『 WHITE Ⅱ』のCD発売からも十数年がたち、『WHITE Ⅲ』が
発売されたのは、1998年５月だった。
舟木さんからのメッセージ
「『WHITE Ⅲ』の歌たちは、『 WHITE 』『 WHITE Ⅱ』の流れとは
あまりかかわっていない。」と舟木さんは仰っている。そうではあって
も、今までその違いを明確には把握できずに、上田成幸作詞・作曲で展
開される素晴らしい歌の世界に ” ヒロインはわ・た・し ” とばかりに陶
酔し酔わされるだけで満足だった。『 WHITE 』にも『 WHITE Ⅱ』に
も、素敵な愛の歌、Love Song が煌めいていたから。
ただ、なた としこさんは 『 WHITE 』&『 WHITE Ⅱ』収録の Love
Song は、個別には採り上げてはおられなかった。しかし『 虹を紡ぐ』
出版の翌年、1998年に『WHITE Ⅲ』が発売され、次の著書『瑠璃の
ゆくえ』には、舟木さんの愛の歌が採り上げられていた。
『瑠璃のゆくえ —舟木一夫の雨情・夢二・八十世界によせて』
２００４．３．１ 東銀座出版社
本書で取り上げられている曲は、
『 WHITE 』より、 「都会の子守唄」「～糸車～」
『 WHITE Ⅱ』より、 「潮どき」
『 WHITE Ⅲ』より、 「さよならの朝に」「浮かれ笛」
「夢幻-MUGEN-」 「君よ振りむくな」
２０２３コンサートで歌われた「夢幻-MUGEN-」 について、著者は、
しっかりとこのように書いておられる。
そして私は、「夢幻-MUGEN-」に出会い、読み、聴き少し驚いた。
「夢幻-MUGEN-」
忍ぶ吐息 のどを走り
うねりくる 肌もあわだち
男と女 女と男
そして嵐 夢幻
狂おしく 身体（からだ）ぶつけて
溶けあえば
静寂（しじま）あつく 夜露深く
～～～～～
「夢幻」の詩の背中を流れる音は、まるで交響曲のような荘厳な響き
を持っていた。男女の出会いとは、求めあう熱と熱とはこれほどにも
荘厳さを持つものだと、真実思ったのだった。
（「瑠璃のゆくえ」P53～P54）
本当に、ファンタジックな何と美しい世界なのだろう。舟木さんが繊
細に選び抜かれた言葉の連なりには、想い合うことで情熱的に心情を
交わしあっていく深い歓びがほとばしっていく。なた としこ さんは、
それを「荘厳」と表現されたのだろう。舟木さんの詩の言葉も、それ
を「荘厳」と表現された なたさんにも、侵しがたい綺麗な世界だな、
と純粋に思う。
こうして、コンサート２０２３では、1⃣ 29小説の挽歌、2⃣ 夢幻 -MU
GEN- 3⃣ 序曲だけのコンサート と、3曲もの究極の愛の歌が並んだ。
舟木さんの愛の歌、直球ど真ん中ともいえる Love Song だ。舟木さん
の歌唱を盛り上げていく、うねるようなバックの女声ソロの響きととも
に、幻想的で幽玄な世界が出現していく、舟木さんだからこそのステー
ジ。
しかし、この前のアクトシティ浜松では、思わぬ変化球の Love Song
の登場となった。もちろん、ステージで何度もお聴きしている曲である
し、各種変化球のLove Song のお出ましは、楽しみでもあるが、次回コ
ンサート２０２３では、3⃣ 序曲だけのコンサート になるのか、斜/me/
節 になっていくのか・・・もう少し3⃣ 序曲だけのコンサート を聴かせ
て頂きたい気もしている。
(3⃣ 序曲だけのコンサート 、斜/me/節 へ ）