少年が眠る永い夜 | マンタムのブログ

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この世にタダ一つしかないカタチを作ろうとしているのですが出来てしまえば異形なものになってしまうようです。 人の顔と名前が覚えられないという奇病に冒されています。一度会ったくらいでは覚えられないので名札推奨なのでございます。






 少年が眠る永い夜

少年が生まれた世界では足は空から降って来るものだった。
もちろんそれは作り物の足ばかりだったが少年にはそれが神が造ったものとしか思えなかった
少年の村の多くの人達には足が無くて空から降ってくる足が無ければ満足に歩く事さえできなかったからでそんな事を理解して村人の願いに答えられるのは神しかいないからだ
神はきっとなにかの手違いで予め与え損なった足を後から送ってくれているのだと少年は考えていたのだ。


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少年も物心ついた頃から片足が無かったがそれについて特に苦痛に思う事は無かった。
だから足が欲しいと思った事は無かったのだがある時父親が少年の為に足を持って来たのだ
それは深夜月の明かりに照らされるようにして夜空から降って来た
だから誰にも気づかれず父親はそれを自分のケープに隠して家に持ち帰ることができたのだ
その足は金属でできていて不格好であまり好きになれなかったがそれでも少年は持って来くれた父と神の為にその足をつけた。
だが足はなかなかうまく少年の体に馴染まなかった。
歩くのには酷い痛みに耐えねばならなかったし暫くすると接合部の皮膚は擦れて腫れ上がり化膿し始めたのだ。
それでも神からの授かり物でありいつかは本当の足になるものと少年は思いその苦痛に耐え続けていた。
だがやがて腫れ上がった接合部から崩れ始めた少年の血肉が金属の足と癒着し外せなくなると少年は熱を出して動けなくなってしまった。
彼は小さなベッドに寝かされて時間の大半をそこで過ごすようになったが医者を呼べる程のお金がなかったので父親と母親が交代で看病を続けていた。
少年の生活の殆どが少年の夢の世界へと変ったがそこでは少年は自由で融合した新しい足を使って砂の荒野を走っていた。
少年は行きたかったあらゆる場所に行き鼠や蜥蜴を追いかけた。
風が舞う崖の下で父親が作ってくれた凧を飛ばし隣の痩せた犬と遊んだ。
杖をもった老人をからかい露店に並べられたパンを盗んで食べた。
でも 現実の世界ではベッドに横たわり寝返りさえ満足にうてないような状態だったのだ。
病状は日に日に悪化していてそれに不思議な事だが少年は足に侵蝕され始めていた。
太ももの先についていた筈の足はいつの間にか付け根部分に迄達していてそれは足が少年を食べているようにしか見えなかった。

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だがそうなってさえ足を外す事ができず父親は村の長老の1人でありウラマーでもある老人を呼んで少年を見せた。
老人は3日間をかけて足を調べあげ 
「これは普通の足ではない 途方も無い知識と技術をもった者が造った物でこれを外す事は私にはできない だがこれが着いていればこれが着いている間この子が死ぬことは無いだろう」
少年は夢の中で過ごす時間がだんだんと長くなりそれにあわせるように足に取込まれて行った。
それに対して抗う方法は無く父親も母親もただ少年が生きていると言う事だけで満足するしか無かった。
そうだ それでも息子は生きていて夢の中とはいえ自由に暮らしているのだ。そのことを誰が非難出来ると言うのだ。
少年が足をつけてから大凡3年が経過して少年は家中が見渡せる明るい壁に吊るされていた。
そこからならいつでも父親か母親のどちらかを見る事ができるし窓やドアもみえるから天気のいい日なら少年が好きだった遠い瓦礫のような山も見る事ができる。
夢の中で少年は鳥のように自由でその山の頂きにも何度か訪れていた。
自分の現在の状況もわかっていたがそれは大した苦痛ではなかった。
少年の意識はいつでも自由に飛びまわる事が出来てそれが彼にとっての現実そのものだったからだ。
もう足と頭部だけの存在となりすっかり軽くなって壁に吊るされていたが 起きている僅かな時間の間でさえ少年は自分の事を不幸だとは考えていなかったのだ。


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