

現在 名古屋大須の Sipka というお店に展示してあるオリンピアという作品の設定として作られた物語です。
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このお店で9月2日より28日迄展示を行います。
現在突貫工事で作品を製作中です。
フライヤーは金曜日頃出来上がるようですのでご希望の方はメッセージをくだされば発送致します。
自動人形(オリンピア)の再生と両腕を失った弟(ナタナエル)の融合
必要な◊魂の再生 + 一、 +
*夜明けに腕の千切れた弟が帰ってくる
トラックは泥濘でタイヤを滑らせ泥をまき散らす
撥ねた泥が家の中に入らぬよう慌ててドアをしめる*
+ + + +6
夜明けに弟は突然帰って来た。
両手を付け根から切断され棺のような箱に入っていたがそれでもまだ生きていて両目を見開いてゆっくり呼吸していた。
棺から出して汚れた体を拭いてやりそれから暖炉の前の一番暖かくて明るい場所に座らせる。
戦争に行く前は彼が一番気にいっていた場所だ。
だが それでも弟の反応はなく私はがっかりした。
弟がどの程度現在の状態を理解出来ているのか今は皆目わからない。
自分では身動きひとつできずただ横たわっているだけだからだ。
弟を連れて来た最初の兵隊は不用意に爆薬を扱ったから両手を失ったのだと言い棺のような箱を彼と一緒に運んで来た兵隊は 生きていただけ幸せだと 言った。
最期に助手席から降りて来た彼らの上官はテーブルの上で冷えていたサモワールからそれでもまだいくらかは緩い湯をポットに注ぎそれを啜りながら髯 をなでつけつつ付け加えた。
それによると軍は軍病院で充分な手当を施したが弟は魂を失ったかのようになにも反応できず遂に軍病院も為す術を失ったと言うのだ。
そして弟に目をやり彼の遺失による事故だから軍人恩給は降りないだろうと言った
弟はそれを聞いてさえピクリとも動かなかった。
これではただの肉の人形のようなものだ。
医師でもあり 従軍牧師でもあるペトル神父は弟が生死の境を彷徨う間に魂をどこかに置き忘れて来たのだろうと診断したのだそうだ。
軍としてはこれ以上のことは出来ないし神父の治療も祈りさえ効果がないのなら せめて家族のもとが良いだろうと連れてきたというのだ
すっかり日も高くなったころようやく彼らは帰り支度をはじめた。
きっと朝食にありつきたかったのだろうが勿論私にそんな義務はない。
どうせワインを出したところでお国自慢をはじめるだけのことなのだ。
道はすっかり雨でぬかるんでいて軍用トラックは後輪を滑らせあたりに泥をまき散らしたので私は慌ててドアを閉めた。
それでようやく椅子に持たれたまま身動き一つしない弟をベッド迄運び目をつぶらせる。
さて これからどうするべきか
弟が肉人形のような状態であることが姉や他の親戚に知られれば私は今までのように自由に父の遺産を使えなくなるだろう。
遺産の正式な相続人はこの肉人形と化した弟で私といえば十才以上も年下の弟に扶養されている身なのだ。
この状況が知れれば遺産は姉の管理に移り厄介者の私は体よく追い払われるに違いない。
父は祖父の跡を継ぐかのように錬金術に傾倒した私のことを忌み嫌っていたからだ。
だから弟にはなんとしても治ってもらわなければならない。
このまま家を追い出されたら私は生きて行くことさえできないだろう 。
+ ニ、 +
*話題になっていた自動人形の噂話を聞く*
その話を聞いたのは全くの偶然だった
弟の症状は医者に見せてもまったく改善しないばかりか日に日に弱り始め肌もすっかり青白くなってしまったのでせめて日に当てようと湿地帯の向こう に広がる海に連れて行くことにして私は隣人の車を借りて何年ぶりかで家をでたのだ。
その途中にある雑貨店で偶然自動人形の話を聞かされたのだ。
その自動人形の話なら私も知っていた
オリンピアと名付けられた美しい人形だったそうだ。
一時期相当話題になっていたがその人形が壊されて行方が知れなくなり結局その話の根拠さえもが曖昧になってしまっていたのだ。
それがその人形が見せ物になって街に来ているというのだ。
私は延々と続く泥沼のような海に行くのを止めて車をそのまま街に走らせた。
車は故障することも無く日が落ちる前に無事に街に着いたのだが自動人形を見せると言うあばら屋のような劇場をようやく探し当てたときにはすでにそ の日の上演はすべて終わっていた。
だが 私はどうしても諦められなかったので門番にいくらかの金を握らせてその人形を見せてもらった
人形は壊れたままの状態でビロードを敷き詰めた棺桶のような箱に丁寧に収められていたが片目は既に無く残された片目が私になにか懇願しているよう に思えて私はどうしてもこの壊れた人形が欲しくなってしまっていた。
幸い今なら遺産を自由につかえるので門番に交渉し盗まれたことにして運び出させ私が隠れ家の一つにしている家のほうに届けるよう承諾させた。
左目の瞼が垂れ下がりそれを隠すためか深く帽子を被った門番に少なからぬ前金を渡したのだが彼は礼を言うことも無くそのまま金勘定をはじめたの だった。
+ 三、 +
*自動人形が届く*
約束の日に自動人形はちゃんと届いたが思っていた通り門番は仲間を連れて脅しにかかって来たので私は彼らの魂を壊し隠れ家と一緒に焼き払った。
結局自動人形と引き換えにいざというときの隠れ家を失ったことになったがそれでも門番に払うと約束した金額よりは随分安く済んだと思う。
どのみち門番の記憶は消さねばならなかったしむしろそういった行動に出てくれたことで手間も省けたと考えるべきだろう
私は自動人形をアトリエに移すと早速再生のための研究と実験をはじめた。
実は此の頃から私にはこの自動人形をつかって弟をも再生出来るのではないかと考え始めていたのだ。
この人形は人の手を借りずに動いて青年を恋の狂気へと追いやり破滅させたそうだ。
青年を恋の狂気へと誘えるのなら魂を失った弟の精神を再生するくらいのことはそう難しいことではないだろう。
私は自動人形を隅々まで調べ上げそれを復活させることに持てる技術と知識のすべてを注ぎ込んだ
+ 四 +
*たくさんの鳥を殺す それでも生き残ることの出来た鳥が自動人形を動かす*
人形の作動原理が結局わからないままだ。
人形のがらんどうになった体のなかには不死状態になるよう巧みに接合されたたくさんの鳥が詰め込まれていてそれで動くことができるようになってい たのだ。
これでどうやって動くことが出来るのかなど見当さえつかないままだ。
それに廃棄されてから相当いじられたようで本来入れてある筈の鳥が抜き取られて空になっていたり接合を外されてそのまま干涸びてしまった鳥の残骸 も少なくなかった。
それでもまだある程度は動くことができるのだが弟の魂を再生するにはあまりにも不十分だった。
だが更に調べて行くことで(作動原理そのもの相変わらずはわからないままだったが)鳥を繋ぐ手順だけは大凡理解できるようになった。
私はたくさんの鳥を得るために専門の猟師を雇いあらゆる鳥を捕らせた。
だが多くの鳥は小さく少し血を流しただけでも簡単に死んでしまうのでその多くを殺してしまうことになった。
それでも人形に残されている体に入るだけの鳥をつなげて封入することはなんとか成功した。
動くようにはなったものの上半身の殆どが欠けている自動人形を少しでも完全なものにするために祖父が研究していた再生人間の骨格を使い上半身を 作ったが残念ながらそれも腕の部分が欠けてしまっていた。
つまりこれでは完全に再生することが出来たとしても両腕はないままになるのだ。
でも 弟も両腕は既に無いので直接接続して弟の魂の再生を試みるとしても特に問題がないものと考えることにした。
ようやく再生された自動人形は以前のものより随分大きくなり形状も相当変化してしまったが私は自分の仕事に充分満足し改めてオリンピアと命名し た。
私は弟と自動人形を連結するためのコルセットを弟につけてそれで弟を動かすことで弟の魂を再生することを試みることにした。
追記
ここで手記は終わっている。
発見されたのは首を千切られ内臓を踏みつぶされた哀れな錬金術士の姿とオリンピアと名付けられた奇怪な人形でありナタナエルの姿は何処にも見えなかった。
手記とそこに残された現実から推察されるのは試験的にナタナエルをコルセットに繋いだことでナタナエルが覚醒。
ナタナエルの意思をもったオリンピアがその不死の体でかくも無謀な実験を行い結果として不死の怪物を世に放とうとした兄を忙殺したのではないかと言うこと だ。
ナタナエルが軍で同僚に常に兄の有り様について相談を持ちかけていたことは知られていたことであったしなかには兄の死を望むような発言も少なからずあった からだ。
一番の問題はそのナタナエルが何処へ消えたかということだがそれは事件から既に50余年が経過しようとしている現在でさえわからないままである。
オリンピアは当時と同じ状態だが現在にいたるまで動くところは確認されていない。これが動いていたとか不死であるとかというのは殺された錬金術士の妄想としか思えないが当時の状居から見ればこれがどうにかしてナタナエルの意思通り動き兄を殺したとしか考えられないのである。
未解決の事件であり地元の有力な家系であったため事故として処理されたが事実は非常に奇怪な事件である。
担当した監察官として手記としてこれを追記しておく。
資料として提出した当時の手記を出版したものと併読して頂きオリンピアを縛めから解き売却譲渡することについて反対の立場を取ることを理解された い。