一泊三日「マクベス」を観る旅(その4) | 能楽師 辰巳満次郎様 ファンブログ

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さてさて、やっと本題です。
一ヶ月以上もこのネタで引っ張るとは、情けないものです。では、始めます。

いかるがホールは普通の劇場なので、その上に敷き舞台というんでしょうか、橋掛リと能舞台を模した所作台が敷いてあります。四隅には三分の一程の柱が四本…。鏡板はなくホリゾントのままです。
 
実は、ここで席取りを失敗したな、と思いました。
熱海のMOA能楽堂で「マクベス」を鑑賞した時は、正面席の一番後ろで全体が把握出来て良かったのですが、今回はできればもっと近くで舞台の熱気を感じたい思いがあり、中央寄り前から5列目ぐらいをとりました。能楽堂だとこれがなかなかグッドグッド!なんですよ。
 
しかしホールなので、このぐらい前だと舞台の中の天井(ライトとか)が見えちゃうんですねぇ。これはちょっと、興ざめでした。もう少し後ろの席にすれば良かったか…。
 
 
開演前の舞台には、ホリゾントにこんな映像が浮かび上がっていました。
(これはイメージ再現の為に、チラシの写真を加工したもの♪)
 
着席するなりこの映像が目に入り、おお~スゴ~イ! ひょっとしたらこのいかるがホールは最新の設備を備えたハイテク・ホールなのか!と感動したのですが、実は会議とかで良く使うプロジェクター!が映し出していた映像だったのです。残念、ちょとローテク、しかし効果は大きいぞ!
 (開演直前にプロジェクターの映像を消して係員がそれを持ち上げて、移動させました。)
 新作能 「マクベス」
 
     シテ  辰巳満次郎(城守の老人・マクベスの亡霊)
    ワキ  福王和登(旅の僧)
    アイ  石田幸雄(異形の者) 高野和憲(マクベス夫人)
    笛    杉市和
    小鼓  大倉源次郎
    大鼓  柿原弘和
    太鼓  中田弘美
    後見  石黒実都 辰巳和磨
    地謡  山内崇生 野月聡 和久荘太郎 辰巳孝弥 澤田宏司 東川尚史
こうして、鼻血まで出して待ち焦がれた「マクベス」がようやっと始まりました。

記憶のみで勢いよく書いていた前の記事と内容が大きく違ってたらどうしよう、とちょっと不安でしたが、けっこう記憶が正確で、えっへん、良く憶えているじゃん、ワタシ…、とちょっと自画自賛です。
(さすがに詞章はかなり違っていましたわ…・)

舞台に敷かれた橋掛リには松の代わりに、フットライトが置かれ、それが下から斜め上を照らして、ほら、ちょうど懐中電灯を顎の下から上に照らして「オ~バ~ケ~だ~ぞ~」っていうみたいな陰影が面に出来るの。それがシテの苦悩をいっそう深く浮き彫りにするようで、これはホールならではのオモシロイ試みだと思いました。
 
能が始まると舞台上の証明もぐん、と落とされ、暗い深い森の中、という感じがよく出ています。
そしてやはり、憶えていたとおり、出てきた城守りの老人として登場した前シテは、自ら(積極的に)お宿を貸し申さん、と言うのです。
 
前シテの装束は、常のおじいちゃん(面は阿古父尉だそうです)の髪型ではなく、僧侶が被る角帽子?のような頭巾を被り、両耳の前から長い白髪を一房ずつ垂らしています。ちょっと洋風?なんでしょうか?
 
で、ワタシは前半の記憶があまりなかったのですが、結構長く、ワキと相対して正面に座って語ります。そしてここがかつてはダンカン王の城だったっこと、マクベスと申す臣下、王位を我が物のせんとの悪心にそそのかされ、と概略を語り、まことは我はマクベスの幽霊なるぞと言ひ捨てて、前半が終わります。
(で、この辺でだったか、先ほどのプロジェクターが、今度はスコットランドの朽ち果てた古城を映し出しました。)
 
ここからアイ狂言の、異形の者(三人の魔女合体版)とマクベス夫人の亡霊が現れます。
異形の者は、白頭にツタの絡まる鹿杖(カセヅエ)をついて登場します。格好としては「山姥」かな? マクベス夫人は「生成(ナマナリ)」という面に、装束はですね、(「葵上」+「鉄輪」)÷2といった印象でございます。
しかも彼女の髪型は、前シテの老人と同じように耳の横から黒髪を一房ずつ垂らして、ちょっと色気のあるかたち。 このアイ狂言の振り付けは野村萬斎監修だけあって、タップリ魅せてくれます。
 
そしていよいよ後シテの登場です。キャ~、満次郎サマ~っ。なんて黒頭が似合うの~ラブラブ!
だいたい記憶が合っていたと書きましたが、かなり長丁場の後半です。いや~、これも記憶になかったわ~。
というか、興奮して観ていたので、あの時は長く感じなかったのかもしれません。
 
諸行無常。朝に紅顔あって世路に誇れど。暮には白骨となって荒野に朽ちぬ。
 
ここから怒涛のようにシェークスピア&世阿弥の世界が展開するのですが、空気の密度が一度に増して重くなった感じがあり、ずぅ~っと息苦しいまま、舞台に釘付けになったまま…。
 
マクベスが妻に唆されて、ダンカン王を殺害に行くところは、舞台中央から目付け柱に向かって剣を構えて今しも、というところで躊躇し、一度戻りかけるのですが、王位への誘惑に勝てずに今一度目付け柱に向かい、そして膝をつきぶっすりと、一刺御腕貫きたり、で主君を殺害したのです。
前回書いたけれども、ここはずっと地謡が宝生のカングリ(一番高いキーの謡)で、凄絶なその場面を盛り上げているのです。(スゴ~イ。これが満次郎師の節付け、つまり作曲なんですよ~ラブラブ!
 
ただ、ホールにもかかわらず、地謡が六人って、少ないと思いました。(やっぱり八人欲しかった…。)
で、能楽堂だったらそれぞれの謡を確かめ合いながら謡えるので、もっと男声合唱という感じで一体感というか、そういう迫力があるんですが、今回は六人全員がフルパワーなんだけれど、それが一体になった感じよりも六人の男声独唱という感じで、これはホールの悪い方の影響で、モッタイないことでした。
また、シテはいつもの能楽堂の謡を上回るフルパワー!いかるがホールが揺るがんばかりの謡♪でね、すごかったです。
 
さて、その後は、槍を持ってかつての栄光に満ちた戦いのサマを「舞働キ」で表現するんですが、その槍がですね、あまりのおシテ様のパワーに耐え切れずナマクラ槍になってしまって、普通に槍を立てている状態でも、かすかに刃先がうなだれていて…、またそれをブンブン振り回す(戦うんだから当然ですね)から、いつ槍の刃が折れるかハラハラしてしまいましたが、一番ハラハラしていたのは、後見だったと思いました。
 
で、またこの働きが長くて~、橋掛リに行くわ、また舞台に戻るわ、もうファンサービスたっぷりの振り付け、としか言いようのない「舞働キ」!
 
それが終わればバーナムの森が攻めてくる、又修羅道の鬨の声。天に響き地に満ちて、最後の戦の有様を見せ、また修羅道に帰ってゆくマクベスの物語は終わりました。
 
いやはや、スゴイお能です。
 
ワタシはね~、これを、みんなにみんなに観てもらいたいの!
泉センセイの野望だけじゃなくて、ワタシも英国の本家本元の方々に、観てもらいたいの!
 
できればちゃんとした能楽堂、あるいは音響がしっかりした劇場で!
それで地謡は八人で!
 
ちょっと暴走しました。スミマセン。
この夜は、夕方から夜中まで盛り上がって、レロンレロンに酔っ払って大阪の夜を過ごしたのでした。
 
あと一日のオマケが残ってますの。
しつこく続ける、ラ・フランスであった。そしてもう、今は六月一日!