ふぅ~、やっと「その2」です。
まず舞台装置ですが、野外での能舞台を模したものと思われ、ホリゾントは真っ暗で、中央に老松を設えてあります。この松の大道具、幹は見事な絵なのですが松葉がリアル?っぽい作り物で、松葉というよりはえんどう豆スナックまたはドレッドヘアーのよう…、あまり松には見えません…残念。
その松の両側には金(多分裏が銀)の大屏風が上手に半双、下手に一双(つまり2枚)立て廻され、下手側の屏風の前に多分本物?の竹が3本程。正面やや上手寄りにその松が中央に来るように幅五間程の(奥行き不明)能舞台、下手には橋掛リ、上手に地謡座を設けたセットで、演目によって屏風の金銀が変わる以外は大道具の組み替えはありませんでした。
最初の三番叟は揉ノ段を囃子のみ鈴ノ段を三味線付きで踊るのですが、藤間勘十郎さんがまあキレよく小気味よく踊ること!振付に定評のある方ですが、さもありなん、素踊りなのに三番叟の衣裳を着けているところが見えました。決して恵まれた容姿という訳ではありませんが、そんなのは全く気にならない仕上がり…、時にかっちりと時に軽妙に、すごく手が多い踊りでしたが、堪能しました。パチパチ!
鶴亀はお能の鶴亀をそっくり舞踊に写した趣向。皇帝の装束もお能とほぼ同様の指貫姿、鶴亀(長絹)&従者(法被)もみな大口を穿いています。
従者は中村梅丸クンで中村梅玉丈の部屋子だそうですが、なかなかどうして鶴&亀を喰っちまう勢いの踊りっぷり、かといってあざとくはなく、素直な性質で末恐ろしいというか頼もしいというか…、終わってからお母さん?とロビーで皆さんにご挨拶していましたがカワイイ中学生ぐらいのコでした。
鶴亀は中村時蔵丈のご長男&ご次男だそうです。
さてお能ファンは圧倒的に少ないとは思われるこの公演ですが、小袖曽我はなんともスゴイ組み合わせで、まさに横綱&大関揃い踏みって感じの舞囃子でした。これもバックにこの囃子あってこそ!しかし梅若六郎師は見た目も舞もまさに堂々の横綱のシテ、観世銕之丞師が小さく見えます。
男舞も観世って宝生のとは全然違うので途中から混乱しました。また謡の節もかなり違うので、なまじ知っている曲だと違いばかり気になります。この違いも超えて楽しめるようになるにはまだまだアオいワタシ???です。
静と知盛は題名からも判るように「船弁慶」が元になっています。
中村富十郎丈はかなり年齢がいってらっしゃるけれど、もうもうウマいです。素なので余計にその技量が引き立つ感じ、ワタシは前半の静御前の方が良かったと思いました。梅鼠?の紋付がなんともいえず上品…。
で、中入り(ここは長唄三味線の聞かせどころ)で白の紋付に着替え、長刀(これが白木?っぽい柄でまた長い!)を持って登場!激しい立ち回りはさすがにありませんが、前半と後半で静と動を演じわけるのはさすがです。
羅生門は解説によれば初めての振付(by藤間勘十郎)だとか。どうもこれをお目当ての方々も多かったらしいです。
一言で言えば…、カッコいい!です。渡辺綱と茨木童子のお話ですが、馬に乗って羅生門に向かうところとか、馬が(恐怖で?)前に進まないのでムチを当てるところとか、本当にハッキリとわかる(それでいて平凡でない)振りがついていて、お話が良くわかります。
楊貴妃では客席はかなりの人々が「θ波」を出されていたようです。
すべてが登場した状態で緞帳が上がり、正面に朱の引き廻しをつけた作り物があり、それにワキが向いているところから始まりました。もう方士が常世の国の蓬莱宮に到着したというところでしょうか。
驚いたのが、地謡が全員「白の紋付」!宝生だったらゼッタイにしないだろうな~、という印象を受けました。この世でないところで展開する設定だからなんでしょうかね~。
さてワキの問いを受けて朱の引き廻しが外されると、そこには鬘帯を御簾のようにぐるっと下げてあります。この演出は本来の観世にはなくて宝生のモノなのだそうですが、舞台だから? 楊貴妃が顔を覗かせると後見がそっと操作するのか自動カーテンのように鬘帯の御簾が開きます。え~、宝生ではシテが手でそっと開けてたよね~、と思いましたが、これはこれで高貴の女性なのでアリかなぁと…。
で、楊貴妃は序ノ舞を舞うのですがこれが絶品でした。ハコビの一歩一歩に微かな序破急があるだけでただひたすらに静謐に舞台を廻るのですが、なんとも訴えかけてくるものがあり、さすがに観世の御宗家、本当に素晴らしかったです。パチパチパチ!!!
観世の地謡は、声の調子がかなり高めでテノール?な感じです。宝生の楊貴妃の謡をよく知らないので、小袖曽我よりは気にならずに楽しめましたが、前日の蛍火能を思い出して、女性が謡うには宝生より観世の謡の方が馴染み易いだろうな~、と思いました。
老松の玉三郎様はもう言うことありません。
今回は黒の裾引きで裾模様は老松です。帯は蜀江文様?(多分翁が着る狩衣と同じ模様)の帯をピンと一文字に結び、髪型は勝山髷でしょうか?
襟にはほんの一筋の紅が見え、格調高く、美しく、幕が上がった瞬間に客席全部が吸い寄せられた感じです。
NHKのプロの流儀にもご出演なさってましたが、本当に自分がどう見えているか、どう動けば一番美しく見えるかを知りつくしていて、動きに全く無駄がなく、本当にプロ中のプロだなぁ、と思いました。
最後の「獅子」はご一家勢揃いでの演奏。
とにかく本当にスゴい一家です。綺羅星の如き出演者を集められるのですから…。緞帳が下りてからも拍手が鳴り止まず、カーテンコールまで付いて、もうフルコースディナーをいただいたが如き公演でした。
大満足!