辰巳満次郎先生のメルマガ・アーカイブ、第28弾をお届けいたします。
この号はちょうど一年前の、平成22年7月2日に配信いたしました。
どうぞ、お楽しみください。
はやくも7月に突入してしまいました…。
目まぐるしい世の中ですが、泳ぎ続けなければ沈んでしまうような毎日を、浮き輪をつけて過ごしております。
能の扮装シリーズ最終章「鬼」であります。
鬼と言いましても「男の鬼」と「女の鬼」があり、
男の鬼は「獰猛」で「動物的」な存在です。
つまり人間ではない、化け物、妖怪の類です。
面は通常「顰(シカミ)」という所謂、
眉を顰めた恐ろしい面を使用します。
顔色は黒っぽく、金色の目と牙を生やし、
人間味など全くありません。
赤頭をかぶり、半切れ(大口袴の類)をはき、
法被を着て、武器である打ち杖を持ちます。
女の鬼、すなわち鬼女(きじょ)は
確かに恐ろしい形相ですが、人間味があります。
人間の、女の情念、執心、妄執、恨み…から鬼になり、
しかし僅かに人間の心が残っている、という鬼です。
ですから、単に恐ろしいだけではなく、ときに哀れであり、
深みのある存在であります。
面は「般若」をかけますが、この面は「般若坊」という
お坊様が作者であるのでこの名があり、
「般若」=「鬼」ではありません。
時代劇の中で悪の集団「般若党」や、桃太郎侍が、
女の鬼である般若の面を掛けているのも、
腑に落ちません…



特色は角が生えていることですが、
人間味の残る度合いを表すのが、角の長さです。
「鉄輪」に使用する、
「生成(なまなり)」という面は角の生え掛かった鬼女であり、
「本成(ほんなり)」は般若の面で完全に鬼になった、
という意味です。
しかしいずれも人間的な顔色で、どこか悲しみも漂わせています。
大抵、上半身は鱗模様の「箔」のみ着用、
上着をきていない状態で、
人間の精神状態の付き詰めた結晶である鬼女の演出として、
乱れや怒りをうまく表しており、優れていると思います。
武器はやはり打ち杖です。
「道成寺」では「真蛇」という面を使用し、
これは人間の鬼など通り越して、蛇体となった
獰猛極まりない、特殊な鬼女であり、
例外となります。
辰巳満次郎


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