プレイバック満次郎 「芦刈」  | 能楽師 辰巳満次郎様 ファンブログ

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まり子です。

難波津に咲くやこの花冬籠り 今は春べと咲くや木の花

和歌の父とも言われるこの歌に詠まれている「花」は梅の花なんだそうですよ。


何と二月の宝生会では、この歌にゆかりの演目が二つもございました。
それは、月並能での「難波」と、五雲会での「芦刈」…。
久しぶりのプレイバックシリーズ、今回は「芦刈」でございます。
(いつも長々とタイトルを書くんで、短いとなんか物足りない感じがするけど~

まずは、サクっと粗筋から…。

(摂)津の国の日下の里に左衛門という男(シテ)がおりました。
教養もあり良い人だったんだけど生活力が足りないっちゅうか、何だかどんどん貧乏になってゆきました。
これじゃ夫婦共倒れになってしまう…。
不本意ながら一度夫婦別れして、それぞれが生活を立て直ししてからまた一緒になろうね、それまで頑張ろうねと約束して、夫と妻(ツレ)は別れました。
それから三年…。
妻は都に上り、さる貴人の家で乳人として雇われまして、今じゃあちょっとしたキャリアウーマン(?)
約束どおり、夫に会いに従者(ワキ)を連れて津の国に戻ってきました…。

ここからお能が始まります。
「芦刈」の出典は「大和物語」や「拾遺集」ですが…

大和物語(下)全訳注 (講談社学術文庫)/雨海 博洋

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この「大和物語」ちゅうのが、お能の元ネタ?をイロイロ抱えておりまする。
「芦刈」の他にも、「采女」とか「姨捨」とか…、あとは忘れましたぁ~

さて、故郷に戻った妻ですが、元夫の行方が知れず…
でも妻は諦めず、暫く逗留して、元夫の行方を探すことにします。
すると所の者(狂言方)が、イロイロ面白可笑しい口上で芦を売る男がいるからぜひお目にかけたいと、芦刈男(実は元夫の日下左衛門)を呼び出します。

さあ、いよいよ笠を被って、シテの登場です。

残念ながらシテの日下左衛門は、想像に難くなく、教養があって良い人でもやっぱり生活力がないまま、(原価はゼロの)芦を売るしかない状態であったのです。
そんな日下左衛門の心情は、かなり屈折したものであったに違いありません。
自分の不甲斐なさを情けなく思うけど、生きてゆく為には苦手でも営業しなくてはならない…。

この営業がすなわち「イロイロ面白可笑しい口上で芦を売る」ことなんですね。
皮肉にも、ココがこのお能の見せドコロ聞かせドコロの「笠之段」なんです。

だからまり子的には、おシテ様には「笠之段」をあまりカッコ良く舞って欲しくないのであります。
どこか、かすかにペーソスを含んだ、鄙びた風情で舞って欲しいのであります。
重くちゃダメで、軽すぎてもダメ…。

(エラソビッチでワガママな要求のまり子なのでありまするのう~


そう言えば、2011年のNHK朝ドラ「カーネーション」では、主人公の父親が呉服屋の主人
だけど謡曲も教えている設定で、よくこの「笠之段」を謡ってました。
それは岸和田が舞台だったからかな~?


それはさておき、この「笠之段」で謡い舞うシテが自分の元夫と気付いた妻は、従者に命じて、芦刈男を自分のトコロ(見えないけれど輿に乗ってるという設定)に呼びます。

ハイっ。
このシーンも大きな見せ場です。
囃子も無く謡もなく、謡本にはこの見せ場のスペースさえありません。
しずしずとワキ座のツレの前に進むシテ…。
あっ、これは私の妻だ!と気付いたシテは手にもった芦をパタっと取り落とし、無言のまま、くるっ踵を返し舞台をまっすぐ突っ切って、橋掛リの一ノ松を過ぎたあたりで、平臥します。

自らを恥じて隠れたってことですね。

ところで、謡本にはシテが隠れる「藁屋」を舞台の大小前に置くことになっていますが、まり子が今まで「芦刈」を観た中で、藁屋を出したのは1回だけ。
今回も、満つぁま(辰巳満次郎様の時も、藁屋なしでした。

一節によると、移動距離は短いけれど、藁屋の扉を開けてまた閉めて平臥するという一連の所作が、ヘタするとあわてておトイレに駆け込んで用を足す…みたいに見えかねない、かもしれない?んだとか…。
しかし、この後の展開を考慮すると、舞台の外(橋掛リ)のシテ夫と舞台の中から呼びかけるツレ妻の距離感が、お能にしてはリアルな舞台効果となって、藁屋を出すよりもむしろ、このお能をより立体的に魅せるように思えてなりません。

それでさぁ~、このシーン、シテの演技力?で全てを物語らなくちゃならないんだけど、あまりにリアルな演技だと能っぽくなくて滑稽だし、あまりに淡々としてるとつまんないし…。
ムズカシイところでございます。
まり子が今まで「芦刈」を観た中では、今回のおシテ様が…、ふっふっふ…、
満つぁまを軽く抜いて、ベスト1でございましたよ。


さてこの後、ずっと無言で座り続けていたツレ妻はそっと立ち上がって舞台を進み、橋掛リのシテ夫に優しく呼びかけます。
このツレ妻が大事な役ドコロ…。
まり子は「清経」の妻なみ、いやそれ以上に大事な役ドコロではないかと思ってるんだけど…。
シテ夫は自らを恥じて、謡います。

 君なくて あしかりけりと思ふにぞ
        いとど難波の浦は住み憂き


あしかり…。「芦刈」と「悪しかり」を掛けてるんですね…。
すると妻が答えて謡います。

 あしからじ よからんとてぞ別れにし
        何か難波の浦は住み憂き


もう、この辺はうるうるのまり子です。
シテ夫はこの妻の優しい呼びかけに、心打ち解け、舞台に戻ります。
大団円!
実は出典の「大和物語」ではハッピーエンドになりません。
お能の作者は世阿弥らしいですが、ハッピーエンドにしてくれて、どうもありがとうって言いたいですわ~合格

おおっとっと、満つぁまのプレイバックの前説が妙に長くなっちまいましたが、もうちょっと。

「芦刈」のテーマは夫婦の細やかな情愛、なんでありますけど、
冒頭の和歌(和歌の父)ともう一つ、和歌の母と呼ばれる歌を引いて、
和歌の持つ不思議?な力を礼賛しているのでもあります。

然れば目に見えぬ鬼神をも和らげ、武士の心慰むる。
夫婦の情知る事も、今身の上に知られたり。


また、掛詞?もテーマの一つになっているんじゃないかなぁ、と思います。
同じ草を、芦(あし)は悪しに通ずるので、葦(よし=良し)とも呼ぶ…。
難波では芦と呼ぶこの草を、伊勢では浜荻と呼ぶ…。

これを聞きかじった間狂言はこんな風にしゃべりまする。
(これはね、善竹十郎師や大藏吉次郎師が演ると、サイコー

 物の名も 所によりて変わりけり
      難波のアジは伊勢のハマグリ


するとワキが「難波のアシは伊勢のハマオギ浜荻とツッコミまする。
(つい、なんやねん!に見えちゃうんだよ~。)
ココ、見所で大いに笑って下さいね。

さてさて、お待たせいたしました。
やっと、満つぁまのプレイバックです。

満つぁまは、よく通る深々した声で、
 おま~く
と発してから、登場されました。
(大きな声じゃないのに、能楽堂の端っこにいても聞こえるんだよね~
笠を深々と被って、しずしずと進む満つぁま…。
おや、ナンダカまり子のアタマの中に、囃子とは違う音が流れ出しました…。

しとしとぴっちゃん、しとぴっちゃん、し~とぉぴっちゃん…。

あああ~、乳母車も無いのに、乳母車が見えるような気がする~
落ちぶれたオトコが登場ではなく、微塵も隙のない、刺客の登場です~
拝一刀か、はたまたゴルゴ13か…。

るるるるる~、るるるるる~、るるるる、るるる、るるるるる~

そうなのね、妻と別れたのも貧乏ゆえでははないのね。
オレと一緒にいると、いつかオマエの身にも災いが降りかかる…。
そうして、難波の芦の中に身を隠していたのね…。

あああ~
「芦刈」が全く違うお話に見えてきちまいましたぁ~。

「笠之段」も世を忍ぶ仮の姿…。
妻との対面でパタっと落としたのは、芦ではなく銃(小刀)?
(妻はそれをサっと隠した!)

なんじゃそりゃ~

まり子の大好きな「芦刈」のお話でございました…。


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