辰巳満次郎先生のメルマガ・アーカイブ、第13弾をお送りいたします。
どうぞ、お楽しみください。
よく、揚幕から舞台に通じる部分を「廊下」なんて言っている方がいらしゃいますが、「橋掛り(はしががり)」と申します。
橋掛りの長さは決まっておりませんが、4~6間くらいでしょう。
それに沿って客席側に松が3本あります。
これは舞台に近いほうから、一の松、二の松、三の松と言います。
よく見ると、一の松から三の松まで、少しずつ背丈が短くなっています。
これは遠近法を使って、橋掛りをなるべく長く見せようという工夫です。
橋掛りを長く見せたい理由の最重要は、
「幕の向こう側」と「舞台側」とを隔てさせたい、
ということです。
橋掛りは、能の中で いわゆる「橋」として意味をもつことはごくまれで、揚幕の向こうと舞台側をつなぐもの、という意味をなしますから、距離を持ちたいのです。
では、どんな隔たりがあるかといいますと、
例えば、
「単に長い距離をあらわす」
これは、遠いところから旅をしてくる、といった、単に距離感を出すもの
「時間や空間の隔たりをあらわす」
別の建物だったり、神の世界と人間の世界だったり、
あの世とこの世だったり、夢の世界と現実の世界だったり…
過去・現在をつなぐ役割もします。タイムトンネルのように…
何よりも役者が最初に登場する部分ですから、そのキャラクターや空間つくりをなさねばならぬ、大事な大事なエリアです。
橋掛りの歩み方で、その後の演技の良し悪しにも影響すると考えています。
おろそかにできない、厳しい道です。
能を舞い始める初心のときには、橋掛りを歩むだけの練習も、必要です。
いまだに「早く舞台につかないものか」と思うことも、私なんぞには、ございます…。
橋掛りは登場シーンのみならず、退場シーンでも同じく重要です。
状況や情感を黙って演じ、お客様に感じていただくのです。
もっとも我々シテ方やワキ方、狂言方の装束を着た「立ち方」ばかりではなく、囃子方も橋掛りを通って登場します。
前回にも申しましたように、片幕のみあけて、端の方を通って登場します。
囃子方は「演奏家」であり、「演技」はしない訳ですが、役者としての意識で橋掛りを歩みます。
能が始まって最初に登場するのは囃子方ですが、そのときに慌ててドタバタと着座なさったりしていますが、是非とも早めにお席に着かれて、橋掛りをご覧ください。
辰巳満次郎


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