辰巳満次郎先生のメルマガ・アーカイブ、第12弾をお送りいたします。
どうぞ、お楽しみください。
前衛的な空間をつくる能舞台の構造第2弾は「揚幕」です。
ご存知のように能舞台には緞帳がありませんから、演者は客席から見て左側の揚幕(あげまく)から登場します。
ただし、後見や地謡(コーラス)は右側の切戸口から出入りします。
揚幕の色は通常「五色」ですが、これは
「地・水・火・風・空」または「木・火・土・金・水」
の意味であると言われています。
「木火土金水」は陰陽道の「五行」をあらわし、すべてのものの5元素である、という考え方、循環を意味します。
つまり、
「木」・・・草木
「火」・・・それを焼き
「土」・・・灰となり土に還り
「金」・・・鉱物の隙間をぬって
「水」・・・水が木を養う
という具合。
一方の「地水火風空」は仏教の「五大」思想で、さらに「風」や「空」まで含むもので、「世界全体を作り出すもの」の意味をあらわします。
いずれにしても「森羅万象」、宇宙も含めたすべての世界を表現すると考えて良いでしょう。
五色の配色は通常、
「緑・黄・赤・白・紫」となります。
必ず「赤」が真ん中となり、演者は赤を目印にして橋掛りの中心をとらえます。
すべての空間を意味する五色の幕が、すでに異次元空間をあらわす演出となっています。
幕の両端の裾には竹の棒が備え付けられ、この2本の棒を2人で揚げて演者が登場します。
演者が「お幕」という言葉を発すると「すーっ」と幕があきます。
「お幕」という声の発し方で、幕の揚げ方も変わります。
静かに「おま~く」といえば静かにあがりますし、激しく「おまくッ!」といえば「ばッ」と早くあがり、まさにそこから演技が始まるのです。
幕を揚げる役も大事な一役ですから、それなりに稽古をつけられて、許されてから触らせてもらいます。
楽屋入りして直ぐには、遠くから見て覚える状態です。
揚幕の開け方には、ご説明した「本幕」という開け方のほかに、「半幕」といって幕を半分だけあげて姿を半分だけ見せる演出にしたり、後見がかがみながら道具や小さなセット(作り物)を出したりします。
また、「片幕」といって、囃子方の登場や、間狂言で登場シーンの不要な場合の登場でのあけ方、幕の片側の端のほうだけ開けるスタイルもあります。
いかに幕というものを大事に考え、演出上も大事にしているかがお分かりいただけと思います。
これからは「幕」にもっと注目してくださいね。
※宝生能楽堂の揚幕は、なぜか「白」がはいっていません。
「白」という色を特別視し、大事に扱い遠慮して、入れていないようです。
橋掛かりは次回に・・・
辰巳満次郎


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