前編よりの、つづき。
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地謡:ならば絶対に捕まらない魚になり鳥になるのだ。捕まると見せかけてするりと逃げては悔しがらせる。いつでも深い淀、高い枝から男の様子をうかがっていなくてはならない。
六条:絶対に捕まらない魚や鳥になぞ、なれるものだろうか。
地謡:その昔、竹の中に生まれた姫は月の宮人だった。数多の貴公子が日々押しかけては姫に求婚した。
月の宮人は、これらを退けんとて難題を課す。
石作皇子には仏の御石の鉢、車持皇子には蓬莱の玉の枝、右大臣阿倍御主人には火鼠の裘(カワゴロモ)、大納言大伴御行には龍の首の珠、中納言石上麻呂には燕の産んだ子安貝。
いずれも果たせず、池中の月はさえざえと美しく、魚はその影の中を涼しげに泳ぐ。
同じように、衣通姫に連なる小野小町も、月の宮人に倣い、百夜通いを求めたとか。
六条:深草の少将は、
地謡:高き梢でさえずる鶯に恋をした。鶯を我が手中に収めんと、百夜通うと誓いを立てた。
少将は思う。
夜空に浮かぶあの月は夜ごとに姿を変える。鶯だとて気が変わらぬことがあろうか。
百夜を待たずして鶯はわが懐でさえずるであろうと。
しかし、三度めの月が満ちてまた欠け始めても、鶯は一声も鳴かず、
百夜にもあと一夜届かず、少将は失意のまま、むなしくなった。
小町がそれをどのように思ったのかは、誰も知らない。
或女:いにしえの月の宮人も小町も、あっぱれな生き方ではないか。
私も必ずや心のままに泳ぐ魚や飛ぶ鳥のごとき自由な女となって、決して男には心奪われまじ。
六条:笑止な。それは何も見えなくなる程に、身を焦がす程に人を恋うたことのない女の、傲慢で幸せな夢物語。
地謡:袖濡るる。
急ノ舞 …「紅葉狩」っぽく?
六条:袖濡るるこひぢとかつは知りながら。
地謡:下り立つ田子のみづからぞ憂き。
六条:恋は無上の喜びと底も見えぬ暗闇を同時にもたらす。
地謡:高貴な身と生まれ、それに恥じぬ生き方をしていたのに、まばゆい光の前では何の役にも立たない。
六条:憎や、憎や。まばゆき光は浅ましき我が姿をあらわにした。
地謡:憎き光よ。酷き光よ。わが身を焦がす瞋恚の焔。
永遠に晴れぬ妄執の黒雲。
しかし時には焔おさまり雲間より月の影出ずれば。そのさやけさに浮かぶは忘れえぬ面影。
耳に残るは君の睦言。
六条:恋しや、恋しや、光君。憎や、憎や、光君。
地謡:憎や、恋しや。恋しや、憎や。永遠に繰り返す。
その苦しみと悦びはこひぢに迷う牛の小車…。
六条:みづからぞ憂き。
地謡:今はただ身をそぼつ深きこひぢを迷うべし。その果てには。
泥より出でて泥に染まらぬ蓮の花こそ待つやらん。そなたも早や夢から出でて現に生きるべしとて。
かの人は声のみ残して失せにけり。長き夢路は覚めにけり。
(注)こひぢ…「泥」と「恋路」の掛詞。
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いや~、何とも言えない(切り貼りツギハギの)仕上がりになっちゃいましたね。
当初はここまで書く気はなかったんだけどナ~。だっはっは。
きっと全然!違うと思うけど、大変楽しく遊ばせていただきました。
(一句でも合ってたら奇跡カモ…。)
でもさ、もっと軽く遊べばよかったナ…。お恥ずかしゅうござりまする…。
→原作者サマ、辰巳満次郎様、ゴメンナサイ…m(_ _;;)m
(でも、本物はどういうお能だったんでしょうね~。知りたい。)
これにて完なり♪
じゃっ d(^-^;)/