私が田中康夫の小説を好んで読むようになったきっかけの1冊。
もう20数年前、雑誌「25ans」に読みきり連載という形で掲載されて
いたのが最初でしたが、とにかく田中康夫的な記号で書かれた
あの時代の女性の心の描写に毎度毎度胸が締め付けられるような思いで
読んでいました。
そしてそれから今日に至るまで、何度となく読み返しているわけですが
今になってさえなお、読みながら鼻の奥がツーンと痛くなるあの感じは
全く変わることがありません。
80年代の女性たちの心といえばユーミンの曲がまず浮かぶけれど、
田中康夫のこの短編集は、その小説版と言えるかも。
そして私はユーミンの曲も聴いていたし、客観的には
そんな世界に地味に紛れ込んで生きていたのかもしれないけれども、
「なんか違うぞ」という思いもいつもどこかにあって、
感情移入して聞いたことが実はほとんどないのです。
が、田中康夫はその「なんか違う」と私が感じていた部分を
見事に文章にしてくれたと思っていました。
すごく狭い世界の限られた人たちをテーマにして描いているものなので
共感しあえるお仲間も限られてしまう作品で、まさにわかる人にだけ
わかる世界なのではありますが、私にとってはあの時代を描いたものとしては
最高峰だと思っています。
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