「約束された場所で」  村上春樹 | MARIA MANIATICA

MARIA MANIATICA

ASI ES LA VIDA.

先日読んだ「アンダーグラウンド」の続編で、今度はオウム信者(元も含む)に
取材したもの。

なんとも後を引く・・・というか、どうしたら回避できたんだろうか?などと
とりとめなく、はてしなく考えてしまう読後です。

村上春樹がインタビュー中に「あの、あなた小説が読めないでしょう?」
と聞いた一言が私には印象的だった。
これは、何もかもを数値化したいと考え、日常の感情的な営みを嫌悪している
信者に向けられた問いでした。
それに対し、小説を読むのは3ページが限界で、あとは忍耐できないとの答え。
小説でない本はかなり読んでいるようですが、絵空事が苦手らしいようでした。

インタビューイーの背景は様々で絶対的な共通点は見え辛いけれど、
頑なさは誰からも感じられた。そしてその頑なさゆえの孤独感も。
ただ、それはある程度物を考える人ならば誰でも持ちうる物だし、
普通は殆どの人が自分なりにその折り合いをつけてはいるのですよね。

でも彼らは、自分が入信した当時の絶対的な「オウム」という繭の中で
いまだうつらうつらしているような印象で、すごく必死に物を
考えているようなのに、現実とはかけ離れたところにいるように思えました。

前回は黙って話を聴くことに徹していた村上春樹が、今回、オウム信者には
かなり反論、疑問をぶつけていますが、なかなか話がかみ合っていなかった。
文章なので語気は伝わりませんが、聞いていてイライラしたこともあったかも
しれない。でも彼らの対応は変わらない。

8人の男女が対象となったインタビューで「アンダーグラウンド」に比べると
絶対数が少ないし、実行犯からはかなり離れたレベルに居た人たちなので
核心にどれだけ近いか、という疑問も残るかもしれない。
でも多分何人インタビューしたところで、見えてくるもの感じられるものは
あまり変わらないような気もします。

村上春樹が指摘するのは、オウムを排除したところで、彼らのような
行き場のない人たちは今もこれからも存在する。
ゆえに、オウムに準じる集団は今後も現れるだろうということ。
オウム・・・悪、異常な集団・・・排除・・・では、根本的な
問題解決にはならず、社会としてそういった人々の受け皿としての
システムを考える必要があるのでは、ということ。
そこまで考えた報道もないし、一般ピープルも思い至らない。
なんだか、いつでも図式は同じですよね。
わかりやすい悪を仕立て、それを一斉攻撃して思考停止、で、オシマイ。
・・・という感じが。

村上春樹がインタビュー中に発する質問や反論、前後の文章の鋭さはさすが。
また特に記さなかったけれども、2冊共通してのインタビュー方法と
記事の処理の仕方などが一方的なものでないこと、
そして前書き、あとがき、さらに巻末の河合準雄さんとの対談と、
インタビュー以外の内容も相当充実していて、2冊いずれもかなりの
力作だったと思う。無力感もまた、残ってしまうけどね。


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多分村上朝日堂シリーズ?これも読みました。
様々な工場の村上流見学レポ。
村上ジョークはいまひとつだったけど、この方の着眼点はやはり面白い。
小岩井農場やアデランスが印象的だった。
でも一番は結婚式場・玉姫殿を工場と見立てたところかな。
水丸さんのイラストがやはりいいですね。


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