長いこと手元に置きながら、いくつかの理由により
なかなか手が出なかった作品です。
1995年3月20日に起きた、地下鉄サリン事件の被害者62人に
村上春樹がインタビューしたものをまとめた1冊。
このところ、逮捕が相次ぐオウム信者のニュースを見て
読むべきときが来たのかもと思い、ようやく手にとることになりました。
個人的に、過去に何度か雑誌のインタビューを受けたことがありましたが
あとになって記事を見て、何か違う・・・毎回そう思っていました。
確かに私の語った言葉なのだけれど、それをつなぐ文章が
微妙に私の言葉のニュアンスを変えてしまっている。
インタビューとは、最終的な全体としてのある方向性が
予め計画された上で行われているものなのだと、その時つくづく思いました。
その後、雑誌やテレビを見るとなるほどな~と、それを再認識することが
しばしばあって、以来私はマスコミの流す情報を鵜呑みにすることは
やめようと思うようになりました。
これが私がテレビをあまり見ない理由のひとつです。
もともと、皆がそうだ!と満場一致してしまうものには、
まず疑いを持ってしまう性分ということもあるかもしれないけど。
この本に手がつけられなかったのは、そのこともひとつの理由です。
でも、多分完璧ではないだろうけれども、村上春樹の姿勢はマスコミ一般の
ありかたとは異なり、真摯で誠実なものだと私には思えました。
被害者の受けた具体的な傷、心の傷はさまざまで、とても一言で
「気の毒」と片付けられるものではありません。
ただ多少の差こそあれ、それぞれの語り口が淡々としていたのが印象的だった。
ご自分なりに、気持ちの整理、事実の整理をしようともがいてきた結果なのかも
しれない。
誰かの悲しみはその人にしかわかりえないというのが私の考えなのですが、
あらためてそんなことを思いました。
この事件を風化させて欲しくないという思いでインタビューに
応じた62人の被害者の方々。
彼らの「風化させたくない」という想いは、マスコミが年中便利に使う
『決してこの事件を風化させてはなりません』というのとは
全く意味合いが違います。
長い長い、村上春樹のあとがきは難解ですが、圧巻です。
サリン事件は18年も前の出来事ですが、これに限らず
3.11についてもベースに流れるものは一緒だと思います。
「風化させたくない」という思いが多少でもある方には
被害者の、あるいは村上春樹の問題定義を、ぜひ読んで頂きたいと思います。
文庫本ながら800ページ近い長編ですし、ひとつひとつの談話を
流し読むことなどとてもできず、後に行くほどにページは
進まなくなると思います。それでも。
この本についての感想を書くのは、とても難しいのです。
読んでいて涙は出てきます。淡々としているものほど胸に迫ります。
でもそんな私のちっぽけな感傷や、オウムが許せないとか、
公は何をしているんだ、などと誰かの責任を大声で問うことが
被害者の方々の望むことではないだろうと思いました。
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