負けなさい ② | 満願寺窯 北川八郎

満願寺窯 北川八郎

九州、熊本は阿蘇山の麓、小国町、満願寺窯からお送りするブログです。
北川八郎の日々の想いや情報を発信してまいります。

<2003年月刊致知10月号より48回にわたり連載された「三農七陶」から抜粋します>


・・・前回つづき



で・・・・。

なぜ勝ち続けてはいけないのか。

勝ち続けると 終わりに大きく負けてしまう。それは立ち上がれないほどのダメージを受ける事が多い。

その上 多大な犠牲を伴った負けとなる。

「ダイエー」もそうだった。「そごう」もそうだった。西武の堤さんもそうだった。

経ち続けて巨大化する。とても大きくて倒れをうに見えなくても 信を失うとあっけなく崩れる。


時には負けなさい。時には苦しみなさい。

負けたことを 時には悲しみなさい。

そして その心の傷みを深く刻んで その傷みを人に与えないように その傷みを治してあげられるように また立ち上がるといい。


小さい時から健康で 敗け知らずで 酒も賭け事も仕事も順調で 不運と病とは無縁と思われた先輩が 40過ぎにして酒で倒れたのを目の当たりに体験した。

どんな頑強な石垣も しみ込む雨に弱い。

阪神の震災やインドネシアの地震にしても 一度も地震を受けていないと 備えも知識もなく 甚大な被害を受けてしまうように 順調である私たち人間はすぐおごりに入ってしまう。

時々 負けなさい。

負けて 痛みを知って 次に備えなさい。


幼稚園も一番 小学校も一番 中学校・高校も一番 東大の法科もトップ、そして今 大企業の有望中堅幹部という方に会った。負け知らず。

脳力?と学歴を誇るその人に まったく魅力はなく、人を嫌う顔にはおごりと苦悩が入り交っていた。

人の心を優しく掬(すく)い取る心を失った彼は 周囲の人のざわめきに気づかず 利と数字のみを追う人になってしまっていた。

私はたくさん見てきた。

能力も意欲も人並み以上の友が 負け知らずできて、人生の終盤の一度の負けで 晩節を汚してしまうの を。


勝ち続けてきたら 順調でありすぎたら 自分の心のあり方に警戒した方がよい。

おごっていないか、見栄を張っていないか、経歴を誇っていないか、威張っていないか、偉いと思っていないか、たいした企業だと思っていないか。

そして 大きな会社、有名な人ばかりと付き合って自慢していないか。

小さな弱い人や、中小企業や農業者たちをバカにしてはいないだろうか。


私たちは皆 変化に弱く、一瞬にしてこの世の景色が変わる体験をすることがある。

いつまでも 今の風景の中で生きてゆけるわけではない。

2月の朝の雪景色のように・・・。


(月刊致知2005年4月号)



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