仏陀のことばに従って | 満願寺窯 北川八郎

満願寺窯 北川八郎

九州、熊本は阿蘇山の麓、小国町、満願寺窯からお送りするブログです。
北川八郎の日々の想いや情報を発信してまいります。

<2003年月刊致知10月号より48回にわたり連載された「三農七陶」から抜粋します>


(前略)



夜9時を過ぎる頃 東の夜空にたくさんの星を従えて 山を幾つも呑み込むほど 大きな蝶の形をしたオリオンに毎夜出会う。南の方には まだ大きくて赤い火星が西に向かいつつ ウインクを送ってくる。自宅近くまでくると 電灯がなく その辺り一帯が 真っ暗闇で人はもちろん 動物の影もない。


車を降りて黒い森の影と とがった山影の上にあごを向けると、オリオン座が特定できないほどの無数の星が 凍てついた空気の向こうに散らばって見える。映画でよく見るように 宇宙船に乗って この時期は東から西に流れる 少し薄めの天の川に向って 数万の星の中を飛んでいっている気分になる。


いつも思う。小さいころよくこうやって星を見上げていた。あの頃は 戦後まもなくで ここのように辺りに電灯がなく 夜空が澄んでいた。今 都会を逃れて この川と森のある山野に棲みついて初めて 仏陀の言葉が心に染み入るようになった。


「仲間の中におれば 休むにも、立つにも、旅するにも 常に人に呼びかけられる。

そこには 常に遊戯と歓楽がある。

独立と自由を目指して 犀の角のように ただ独り歩め。

実に欲望は 色とりどりで甘美であり 心に楽しく 種々のかたちで心を撹乱する。

欲望の奥には 患いのある事を見て 犀の角のように ただ独り歩め」


と言う。

都会に住み続けていたならば きっとお金を見て 人を 人の心を見なかったかもしれない。お金を歓迎する人や組織が消えてなくなり 人や人の心を歓迎する人のいる組織が小さいながらも残っていく・・・のが外から見ているとよく見える。

さらに言う。


「貪ることなく 詐ることなく 渇望することなく 濁りと迷妄を除き去り 独り歩め。

これは執着である。

ここは楽しみ少なく 苦しみが多い。

これは魚を釣る 釣り針であると知って 妻子も 父母も 財宝も穀物も 親族や その他あらゆる欲望をもすべて捨てて 犀の角のように ただ独り歩め」と。


・・・つづく


(月刊致知2004年3月号)



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