ホタル | 満願寺窯 北川八郎

満願寺窯 北川八郎

九州、熊本は阿蘇山の麓、小国町、満願寺窯からお送りするブログです。
北川八郎の日々の想いや情報を発信してまいります。

「光る足」

1999年2月から2000年12月まで百回にわたって毎週火曜日 熊本日日新聞のコラム「ワラブギ談義」の原本を10年ぶりに開きました。当時53才~55才。当時から伝えていることは変わりなく その心を読み返したく連載します。


2000・6・20 no73


ホタルが私のあばら家の周りを飛び始めた。今年もホタルと会えた。川の音を聞きながら闇に浮かぶ青白い光を見ていると一瞬 私がホタルになった。


下の方に電気の灯りを背に受けて縁側に座り 空を見上げている私が見えた。面白くなってホタルの私は彼に近づき周りをフワフワと飛んでみた。湿った空気が気持ちよく 私は高く高く 杉の上まで飛んでみた。ホタルになって夜空を楽しんでいると 何とも言えない自由な気分を味わった。


満願寺温泉の下流にホタルが群生しているところがある。近くを飛ぶホタルもいいけれど 広い田の向こうの遠い所で点滅するたくさんのホタル明かりも美しい。そこには黒川温泉からたくさんのお客さんが来ていた。浴衣姿でゆっくり歩いている。


考えてみればおかしな光景ではあった。お店も何もない ただ田と杉林と小川にホタルが飛んでいるだけである。「30年ぶりに見たよ」と言っている人もいる。昔は見向きもされなかった田舎が都会の多くの人々の癒しの場所となっている。都会には人がつくったものばかりで 神がつくったものがない。満願寺温泉のここには 人がつくればい不可思議な生き物のホタルがいる。


6月の下旬になると ホタルが群れをなし橋げたの下で交尾のデモンストレーションが始まる。それは荘厳な光景だ。何にしても「命をつくる場面」には感動する。生をうもうとする力強さとエネルギーを美しいと感じてしまう。私の人生の残り時間と生命の電池が消耗寸前のせいかもしれない。ホタルは私に優しさと元気をくれる。