川面の温泉 | 満願寺窯 北川八郎

満願寺窯 北川八郎

九州、熊本は阿蘇山の麓、小国町、満願寺窯からお送りするブログです。
北川八郎の日々の想いや情報を発信してまいります。

「光る足」

1999年2月から2000年12月まで百回にわたって毎週火曜日 熊本日日新聞のコラム「ワラブギ談義」の原本を10年ぶりに開きました。当時53才~55才。当時から伝えていることは変わりなく その心を読み返したく連載します。


2000・2・25 no56


今年は暖かい。それでも小国の里には雪が積もっている。一月下旬の雪の夜 久しぶりに満願寺の川面に在る温泉に入った。


わが借家から300m下った志津川の岩の間から湯が湧き出ている。その湯を幅1.5m 長さ5mくらいのセメントで川との間を仕切り三つの堀が造ってある。一つは洗濯や食器洗いの堀で あと二つが野天風呂になっている。


この川面にある温泉の温度はぬるく41度弱くらい。夏はちょうどよく 今の寒空に入るには勇気がいる。熱いのぬるいのと騒いでいるのは人間たちの方で 温泉の方は700年間 いつも素知らぬ顔で同じ温度の湯を川に注いでいて面白い。


夜の10時を過ぎるとー7度くらいになっているだろう。肌を刺す寒気に震えながら土手の上にある吹きさらしの脱衣場で服を脱ぐ。流れのすぐ向こうに車の走る道があり こちらは丸見えだ。小走りに川の中の湯に飛び込む。時々走る車のライトに 川面の湯気が幾筋も浮かび上がる。湯煙の向こうの景色が街灯りにかすむ風景はひなびていて なかなかいい。小魚が目の前ではねる。


長湯の後 手を合わせて感謝する。家に着くまでに タオルとひげが凍った。近づくとわが家は森の闇に沈んでいる。闇に入ると満天の星で かえって道路が明るく見える。たくさんの星でオリオンが区別がつかない。点滅の光の広がりの中 天の川が夏と反対に東から西に流れを変えて横たわる。空がきれい。星が美しい。冷たい空気が肺の奥までしみ渡る。感謝以外に何があろう。