ス-パ-カ-女刑事  第10回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

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ス-パ-カ-女刑事  第10回
「わかった。わかった」
えなり田かずきが喜びながら喫茶オレンジに入って来たので賀集くんは自分のいとこに何事が起こったのだろうかと思った。
「まさ夫くん、何がわかったのかい」
「賀集さん、わかったんです」
「また、かずきくんのことだから、落語のことじゃないの」
「違うんだよ」
そこに地をうならせるような重低音のエンジンの音が響いて、オレンジの窓からデトマソ スピードスターM530の
赤い姿が見える。ドアが開いて松浦田あややが入って来た。
「あややさん、分かったんです」
「分かったって、何が、」
「野見広子の家へ行ったとき玄関に気味の悪い魔除けの置物があったんです。
それがどこの国の民芸品かなとずっと気になっていたんですよ」
「えなり田くん、そんなこと気にしないでよ」
「いいじゃありませんか」
えなり田かずきは少しふくれた。
「僕はえなり田くんの味方だよ」
「いや、地理や風俗の勉強をすることはいいことよね」
あややは好きな男の前では弱くなってしまう。
「あややさんも見たでしょう。あの気味の悪い置物、あれはR共和国に昔から伝わる魔除けの置物なんですよ」
「じゃあ、野見広子はR共和国の混血ということね」
「そう言うことになりますね」
ここで黒い下着のボインちゃんはR共和国と聞いて思い出すものがあった。そうだ、
あの別荘地にR共和国の別館があることを、そうすると李宗行の別荘に出入りしていたのは野見広子という可能性が高くなる。
軽井沢以外の場所でも李宗行に近づいているところを多くの人間が見ているし、長岡文子は野見広子が李宗行の恋人だと信じているぐらいだったし、
そうなると李宗行の別荘を訪れていたもう一人というのは誰なのだろうか。
松浦田あややは国産ロケツトの打ち上げ計画の調査で、ある原材料メーカーへ寄った帰り、
ファーストフードのテーブルに座っていると見かけた顔がちらりと目をかすめたのであわてて持っていた新聞で顔を隠した。しかし相撲のがぶり寄りのような勢いで人が近づいて来て
「なんだ、こんなところにいたのか。君のところの上司が怒っていたぞ、俺のところに来なかったって」
ここで言う俺は、黒い下着のボインちゃんのおかまの上司、藤井田隆ではなくて、ここにいる角田田信朗のことである。
軽井沢で会ったときの邪険にした態度と違ってこの喜びに満ちている表情はどうだろう。
「じゃあ、ここで君に会ったことを君の上司に報告しておくからな」
黒い下着のボインちゃんは辟易した。黒い下着のボインちゃんの態度にはおかまいなしに角田田信朗はエネルギッシュにまくしたてた。
「君の上司が俺のところにお話をうかがいに行って来いって言ったんじゃなかったのかな。
えっ、石油成金のボインのまいっちんぐまち子先生よ」
警部と言ってもほとんど与太者と変わりがなかった。話によると空手のチャンピオンだと聞いたことがある。それにしてもまったくいまいましいが何故、藤井田隆が黒い下着のボインちゃんが角田田信朗のところにあの件で聞きに行くように言っていたことを知っているのだろうか。きっと、あのおかまがこの犯罪者と同じ精神構造をしている警部のところに自分の部下が行ったのか電話をかけたのだろう。おかまにしろ、このレイプ魔にしろ、
いまいましい限りだ。
「李宗行が犯罪を疑われ、あやうく履歴書に泥が付きそうだつた事件について聞いて来いって言われたんじゃなかったのかい。へへへへ。教えてあげてもいいんだよ。耳の穴をかっぽじってよく聞くんだな。それとも俺とデートしてくれるかい。
その事件を担当した刑事が、まだ警視庁にいて詳しいことを教えてくれたのさ、李宗行のこともよく覚えていたよ。そいつの話によると自分からその盗みの犯人だと自首して来て、あとでそれをひるがえしたのは誰かをかばうつもりだったんじゃないかという、
その刑事の話だよ。こんなことも五十億の車に乗っているくせに気付かなかったのか。へへへへへ。
だから税金の無駄使いだと言うんだよ。そのおっぱいを利用してストリッパーにでもなった方がいいんじゃないの」
セクハラである。それに半分しか税金は使っていない。黒い下着のボインちゃんは心の中でもぐもぐと言った。
「そいつの話によると誰をかばっていたのか、同僚の長岡文子ではないかと、疑っていたんだが、その事件にかかりきりではなくなったので、それきりになったと言っていたよ。へへへへ」
いまいましいがなかなか重要な情報である、あやは自分の水着姿でも見せてあげたい気がした。
そのとき銀色の携帯が鳴ってお地蔵さまが電話に出て来た。
「あややさん、朝永良子が家を出ました」
「朝永良子の靴を発信器が埋まっているものに交換していたのね」
「やっておきました」
朝永良子の靴とそっくり同じものを作ってそちらの方にはデトマソ スピードスターM530のコンピューターでなければ解読できない発信器が埋めこんである。朝永正夫が殺されてから、朝永良子の自宅が荒らされたという事件が起こった。それから彼女を保護する方針を立てたのである。
まだ何かを話したがっている角田田信朗をあとに残して、松浦田あややはデトマソ スピードスターM530に乗り込んだ。
「自動操縦ON、朝永良子の尾行をせよ」
デトマソ スピードスターM530はするすると発車した。黒い下着のボインちゃんはステアリングホイールに手をかけているが力を入れているわけではない。この車が自動的に朝永良子のあとを追いかけているだけだ。
しかしいつもの身体をふるわせるような快感はない。早く目的の場所に着きたいと思った。
しかしデトマソ スピードスターM530が走っている道は以前にも走ったことがあるような気がする。
気がつくと旧蒸気機関高能率研究所に来ていた。今日はリニアモータカーの運行実験もなく、職員もいないようだった。デトマソ スピードスターM530のフロントガラスは望遠鏡の機能もついている、
自由に視野角を変えることができるのだ。五百メートルぐらいさきにあるリニヤモーターカーのスタート台に二人の女の姿があった。黒い下着のボインちゃんは軽井沢の現場でも使った盗聴用の器機を持ってそのスタート台に向かった。
すると歩きながら姿の見えないところで話している人間の声が聞こえた。
遠いところの声もすぐそばで話しているように聞こえる。
「あなたが朝永良子さんね。この通帳をもらってちょうだい」
「これは何。あっ、八億も預金がしてあるわ」
「これはみんなあなたのものよ。ここにはんこうもあるし、名義もあなたの名前になっている」
「あなたは」
「長岡文子」
「でも、どうして」
「これはみんな殺された李宗行さんがあなたに残してくれたものなの。この説明をするためには李宗行さんのことから話さなければならないわね」
「・・・・・・・・」
「李宗行さんはかつては私の同僚としてここで働いていた。それからR共和国に雇われて宇宙軍事兵器の研究をしていた。
あの野見広子がその窓口だったの。軽井沢でゾンビのさわぎがあったのもそれは宇宙軍事兵器、ロボゾンビを着た李宗行さんだったのよ。ロボゾンビは宇宙での戦闘服で二千度からマイナス百度のあいだで行動でき、水の中を潜るのも自由自在だった。そしてそこに装着されているロボゾンビナイフは何でも切ることができる。
湖に現れたゾンビはロボゾンビを着た李宗行さんだつたの。彼はいたずらをして浮かんでいる船の冷蔵庫から生ハムを盗んだりしたわ、しかし野見広子、つまりR共和国が李宗行さんを雇った本当の目的は「光速零号」にあった」
「私も光速零号のアルバムを持っているけど」
「あなたの考えている光速零号とはまた違ったものよ。光速零号というのは昔あった漫画にちなんで付けた名前でそれが完成したら、人類は滅びるわ。
実際には完成していたんだけど。それは単なる計算法なの。その計算方法を使うとあらゆる計算が一兆倍のスピードで行うことが出来るの。野見広子は「光速零号」を渡すように要求した。しかし、彼は渡さなかった。その頃完全密室で金、五百キロの金塊が実験に使われていることを彼は知った。その金を盗んで、その金で愛するあなたと高飛びをすることを考えていた。それはロボゾンビを使って熱供給管からその実験室に忍び込み、
「光速零号」を使ってセンサーを動かしている機械のつまりホストスーパコンピューターの裏をかく必要があった。しかし、「光速零号」をどうやってアクセスさせるか、そこに勤務している知り合いが私にはいた。私に一方的に惚れている西山利明という人なんだけど、私は一夜のベッドをともにして西山にその作業をやらせた。私が何故、そんなことをしたのか、私は李を愛していたの。
私は昔、つまらないことから重大な事件を引き起こして警察につかまりそうになったの。その身代わりを勤めてくれたのが李だった」
「じゃあ。李さんを殺したのは誰なんですか」
「私にはだいたい分かっているけど」
「ふふふ」
低くくぐもった声が聞こえて来る。
「俺だよ」
そこには拳銃を持った西山利明が立っていた。
「本当に好きだったのに。騙された男の恨みを晴らしてやる」
西山は拳銃を二人の女の方に向けた。
「俺はお前に騙されていたことを知った、お前の心を奪った李宗行のところに行った。するとあいつはゾンビのような服を着て二階でうつぶせになって休んでいた。俺はあいつが背中にさしていたナイフをとるとあいつの背中を刺した。
何か空気が漏れるような音が聞こえた。それから下の部屋へ行くと「光速零号」と書かれたノートがあった。
ノートの地のところには宇宙銀星王子の絵が描かれている。
そして最初の二,三ページを見ると俺の名前が書いてあるではないか、そこを破ってポケットに入れると俺は隠れた。
するとばた臭い顔をした女が入って来て最初、驚き、それからそのゾンビの服と何でも切れるナイフを持って出て行ったのだ。
俺もそこを出た」
盗聴、かつ遠隔視をしていた松浦田あややはあせった。
まずい、このままでは二人が射殺されてしまう。黒い下着のボインちゃんはデトマソ スピードスターM530に標準装備されている最終段階器具というのを使うことにする。銀色の携帯で音声入力をする。最終段階平気使用。目盛りを三に会わせろ、デトマソ。これなら西山は気絶するくらいだろう。
「発射」
発射した、エネルギー塊が発射された。しかしどうして計算を間違えたのか、遙か向こうにいる場所で火花が四方に広がって西山の頭は爆発して脳髄が三百六十度四方に広がった。
その様子がデトマソのモニター画面に映っている。同じ画面があややの携帯にも映っている。
「しまった」
あややはようやく現場まで行くと、ふたりの女があまりのことに呆然と立ち尽くしている。
事態を説明したかったがデトマソの兵器のことを説明するのはむずかしかった。
そして三人の女たちのうしろから誰かが忍び寄って来た。
そして後ろから誰かが銃口を突きつけている。黒い下着のボインちゃんは手をあげた。
「ご苦労さま、ボインの探偵ちゃん。わたしの思ったとおりね。
じゃあ、やっぱり「光速零号」はこの中の誰かが隠し持っているのね。出してもらいましょうか」
黒幕の野見広子が声をかけた。
「持っていません」
「しらばっくれてもだめよ。じゃあ、このリニアカーの先頭に乗りなさい」
三人はそこに載せられ鍵をかけられた。
「このレールの行き先を見てご覧なさい」
そのレールのはるかさきにはあの身長が五メートルもある鋼鉄の怪物が待ちかまえている。
「これから何をするとおもう。ふふふふ。このリニヤカーを時速五百キロで走らせるの、
そしてそのさきにはあの鋼鉄のロボットがいる。ボインちゃんはあの鋼鉄のキングコングに会ったことがあるわね。
リニヤカーの五百キロのスピードとあのロボットの数万トンの衝撃力のパンチをあなた達は受けるのよ。スタートしてから五分でそういう結果になるわね。じゃあ、発車させるわよ。
考える時間は五分、教える気になったら運転席からいいなさい。無線であなた達の声は聞こえるから。ストップしてあげる。じゃあね。GO」
どうしたらいいのだ。リニヤカーは出発した。しかもそのスピードは五百キロ、デトマソ スピードスターM530でも追いつくことはできない。しかし、デトマソ スピードスターM530に搭載されているコンピューターにかけてみよう。
「デトマソ スピードスターM530、発進せよ。われわれを助けるのよ」
すると敷地内にいたデトマソ スピードスターM530は急発進をした。デトマソ スピードスターM530はタイヤをきしませて発進した。リニヤカーは一分で時速五百キロに到達している。
デトマソ スピードスターM530もすぐに時速四百キロに到達しているのが分かった。単純な計算では追いつくことは出来ない。
しかし、奇跡が起こった、と言うよりもデトマソのコンピューターがその判断を独立にしたのだが、そしてそのときデトマソ スピードスターM530は空中を浮遊した。この車はジャンブをした、ブレーキング、操縦安定性のために数百トンの圧搾空気を数分以内前後左右上下に出すことが可能だった。
空中を飛んだデトマソ スピードスターM530は自分のスピードとその圧搾空気の力により時速七百キロ以上のスピードをだし、
リニヤカーの先頭にぴったりとついた。デトマソの大型客船並のエンジン出力がリニヤカーの電動磁石と勝負をした。リニヤカーがきしむ音を立てた。また圧搾空気を発射したのであろう。リニヤカーは停止し、デトマソ スピードスターM530の前方についているミサイルによって鋼鉄の怪物が破壊されているのを黒い下着のボインちゃん松浦田あややは見た。
事件の現場の近くの湖のほとりであの隣りに住んでいる小学生が湖に破られたノートの束を流そうとしていた。
李宗行の別荘に事件直後に入ったとき、見たことのない「宇宙銀星王子」の絵の描いてあるノートを見付けてうれしくて、そのノートを破って宝物にしていたのだ。しかも、その絵の上には宇宙人の宇宙語がたくさん書かれている。
しかし一週間経ってもその言葉は読めないし、宇宙人も尋ねて来なかった。水の中に入れるとその紙は溶けていった。
「何だ。スパイの暗号だったのか」
小学生はつぶやいた。
 
おわり