羅漢拳  第38回 | 芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能界のちょっとだけ、知っていることについて

芸能人の追いかけを、やったりして、芸能人のことをちょっとだけ知っています、ちょっとだけ熱烈なファンです。あまり、深刻な話はありません。

第38回
いやに長いもったいぶった名前が出てきた。
「ノルトホルテン」
「違う、ロストホラフェルティス、ホルナンデス、」
「一体、何者なんですか、それ」
「ロストホラフェルティス、ホルナンデス、FBIにも協力している天文学者にして医学者、そして霊能力者です。バンクーバーで起こった資産家老女の殺人事件を霊能力を使って解決したといわれています、しかしあっしはそんなことは信用しておりゃせん」
いつからおまえは岡っ引きになったんだと村上弘明は言いたかったが黙っていた。
「どっかのテレビ局が座興に招いたらしいでがんす。吉澤氏のいるテレビ局が招いたのではないのでがんすか」
「いいえ、そんなことは知りません」
「まあ、どこのテレビ局が招いたのでもいいでごじゃる。麻呂は霊能力なんてものは信じないでごじゃる。きっと麻呂がそのいんちきをあばいてやるでごじゃる」
そう一方的に言うとがちゃりと電話を切った。
「うちの高校でもすごく評判になっているのよ、ロストホラフェルティス、ホルナンデス」
「ちまたではそんなに評判になっているのか」
村上弘明は全くそのことを知らなかった。
「そいつがそんなに評判になっているの」
「そうよ」
「そいつが来て一体何をするというんだ」
「きっと犯罪捜査じゃない。江尻伸吾さんのライバルなのよ」
「どんな犯罪捜査の仕方をするというんだ」
「おもに霊視ね。犯人のいる場所を地図を指し示して指摘したり、遠く離れた場所の姿を絵で描いたりするの、そのほかにはアルファベットの入ったスロットを回してそのアルファベットを並べて固有名詞を特定したりするの」
「まるで手品じゃないか」
「でもFBIもCIAも全面的に協力しているし、仕事の依頼もしているの、アメリカではその捜査の模様は完全にテレビ中継されていて、いつも高視聴率をあげているらしいわ」
「くだらない」
「兄貴も一度見たほうがいいのよ。外国おもしろテレビって、阪神テレビでやっているじゃない、あそこで取り上げたわよ、兄貴も違う局のテレビ番組も見るようにしなきゃ」
「おまえに視聴率のことで説教されたくないよ」
村上弘明は日芸テレビに出勤する途中の駅の広告にライバル局の阪神テレビのポスターが張られていて、そこにロストホラフェルティス、ホルナンデスの番組の宣伝が書かれている。吉澤ひとみの言ったとおりちまたではかなりの評判になっているのかもしれない。しかし、村上弘明はしんからそのロストホラフェルティス、ホルナンデスを馬鹿にしていた。ポスターにのっているその人物の写真はエリマキトカゲのような襟をつけた変な服を着て、頭にはシルクハットをかぶっている、まったく手品師と変わらなかった。しかし、日芸テレビに出社すると全く状況は変わっていた。編制局長の新垣が村上弘明を呼びだした。
「栗の木市の周辺で犬が多数惨殺されているというじゃないか、なぜその事件を調べないのかね。」
「局長が言ったんじゃありませんか。福原一馬の周辺を取材することは人権問題だからやめろと」
村上弘明は口をすぼめてふくれ面をした。
「福原一馬の周辺を探ることは人権問題だからやめろと言った。しかし、犬の惨殺事件を調べることはやめろとは言わなかったはずだぞ。それに犯人らしいのは栗毛百次郎という人物らしいじゃないか、そんな重大な事件が発生しているのになぜ調べないんだ。それにそのことの捜査で有名な霊能力者が来日するというじゃないか、なぜそのロストホラフェルティス、ホルナンデスの放送の準備をしないんだ」
「そのロストホラフェルティス、ホルナンデスですがね、阪神テレビで招待したとか言う話ですよ」
「何を言っているんだ、君は、あれは大阪府警が招待したんだぞ」
村上弘明は自分のデスクに戻って来ると隣に座っている真柴初美が笑いながら声をかけて来た。
「犬の殺害事件を調べろ、しかし福原豪のことは調べるなと新垣が言ったでしょう」
「君は何でも知っているな、そのとおりだよ」
「別に犬の殺害事件が大事だというわけじゃないのよ。ロストホラフェルティス、ホルナンデスとかいう占い師が来るでしょう。それを放送しろということらしいわよ」
「手品師の放送をなんで報道番組が放送しなければならないんだよ。それほど視聴率が大切なのか。そのロスなんとかがどのくらいの視聴率を取れるのか知らないけど、全く局長の奴、何を考えているんだ、そもそもそのロスなんとかって何物なんだよ」
「ロストホラフェルティス、ホルナンデス、テレビに出るときの肩書きは心霊捜査官と呼ばれているの。世界中のいろいろなテレビ番組に出てある程度の視聴率は稼いでいるようね、だからうちの局でもこの機会を逃したら大変だと思ったんじゃない」
「どうせ、まゆつばものだろう、出て来るときの衣装が仰々しいらしいんだろう、てっきり阪神テレビが招待したと思っていたよ」
「でも、大阪府警が呼んだみたいね。これは、内密なことだけど、このことが公になったら大変よ。税金を使ってそんなわけのわからない見せ物を招待したんだから」
「まあ、とにかく仕事だからそのロストホラフェスを放送しに行かなきゃならないな」
***************************************************************************
心霊捜査
大阪府栗の木市の隣にあざみ姫公園市という街がある。最近のニュースを聞いた人間は憶えているかもしれないが、百面相クラブという狂信的なカルト教団が大阪府警に逮捕されたという事件があった。この教団の教祖は街の薬屋から出発して既成の宗教教団に入信してその教団運営のノウハウを身に付けたと言われている。ニュース番組を見た人間はこの男が逮捕されたときの画面と一緒に彼があざみ姫公園市に建設した地上高百メートルに及ぶ永久のあざみ塔と呼ばれる宗教的な建造物を見たことがあるかもしれない。それはまるで万国博覧会のときに岡本太郎が建てた太陽の塔に似ているがちょうど太陽のような顔のところにとげとげのねぎ坊主のようなオブジェがくっっいているのだった。それは単なるオブジェクトではなく、そこには物見台もついているのだった。霊能力者ロストホラフェルティス、ホルナンデスは自分の霊能力を使った捜査を行うためにそこに登ることを要求した。と同時に阪神テレビと日芸テレビの生中継をすることを許したのである。村上弘明が以前その教祖の事件で取材に来たことのあるその永久のあざみ塔に吉澤ひとみと一緒にかけつけると、そこには両局のテレビ中継車が到着していてテレビ局員たちが放送の準備をしていた。そのあわただしい風景の中に村上弘明は見たことのあるワゴン車を見つけたので吉澤ひとみと一緒にそのワゴン車の方に近づは、いて行くと、三日月のような日本人離れをした顔をした男が耳にヘッドフォンをして顔を出した。
「江尻さん、こんなところで何をしているんですか」
「吉澤氏もロストホラフェルティス、ホルナンデスの霊能力捜査のお手伝いかな」
「江尻さんは彼の霊能力捜査の化けの皮をはいでやろうとでも考えているのですか。あの人物はテレビ局が招待したのではないんですね。警察の方で招待したという話ではありませんか」
「麻呂もそのことを知らなかったでござる。たぶん、反神山本太郎一派の発想でござるよ」
「反神山本太郎一派の考え出した捜査にしては江尻さんもいやに協力的なんですね」
村上弘明の背後にいた吉澤ひとみが口を出した。
「ひとみ殿もいらっしゃいましたか」
「江尻さんは神山本太郎二号を車の中に積んでいるんですか」
「ひとみは何でそんなことを聞くんだ」
「だって、いつも江尻さんは神山本太郎二号と一緒にいるじゃない」
「マドモワゼルもちろんでございますよ」
「あっ、本当だ。あの機械が車に積んである

「大阪府警の中では据え付けられている機械だと思っていましたが、車に載せて移動することもできるんですね」
「電源は車の中のバッテリーからとってあるでごじゃる。そして大阪のすべての電話中継局につながる線はここから出ているのでごじゃる」
車の中の機械類はすべて作動中のパイロットランプが点灯していた。
「でも、なんでそんないかさま師のような男を大阪府警は招待したのかしら、江尻さんはロストホラフェルティス、ホルナンデスを見たことがあるんてすか」
「すべては反神山本太郎一派の考え出したことであるでごじゃる」
「でも、おかしいな、あんなに福原に関している捜査からはいっさい手を引くようにって社長の金木や局長の新垣が圧力を誰かにかけられていたのに、ロストホラフェルティス、ホルナンデスの心霊捜査の報道をしなければいけないなんて、犬の惨殺事件がそんな重大なことなのだろうか」
「市民から大阪府警の方にそれを解決するようにと大部苦情が来ていたみたいでがんす」
江尻伸吾は何かに気がついたのか、村上弘明たちの背後に目をやった。村上弘明も背後に目をやると黒塗りの高級外車が入って来た。そしてその車が止まると中から村上弘明が一度だけ以前に見たことのある署長の本山本太郎が車から降りて来た。そしてそのあとからよれよれのゴルフウェアーを来たかぎ鼻の外国人が降りて来た。三人がその様子を見ていると片手に持ったスーツケースをあけるとけばけばしい衣装を取り出して何の囲いもないところで堂々と着替えはじめて村上弘明がポスターで見たと同じような中世のいかさま錬金術師のような格好になった。その黒塗りの高級外車の前にもう一台車がさきに到着していてそこからロストホラフェルティス、ホルナンデスのお付きの者のような人間が五六人降りて来て彼の警護をしながら永久のあざみ塔の方へ向かった。
「仕事でがんす、仕事でがんす」
ワゴン車の機械類のパイロットランプが点灯している中に江尻伸吾は入っていくと、彼はヘッドフォンをはめて本山神太郎二号の前にじんどった。さかんにスイッチ類を捜査している。その一方で村上弘明が自分の放送クルーの方に目をやると静かに車の周りを動いていた連中が持ち場についたところを見るとロストホラフェルティス、ホルナンデスの心霊捜査の実況中継が始まるのだろう。
「始まりますね」
江尻伸吾は何も言わないかわりに村上弘明と吉澤ひとみに目で合図を送った。
「何だ、吉澤さん、こんなところに居たんですか」
日芸テレビのスタッフの一人が近づいて来て言った。
「ロストホラフェルティス、ホルナンデスが心霊捜査を始めますよ。あざみ塔の最上階まで行かないでいいんですか」
「現場は君たちにまかせるよ、なるべくいろんな角度から撮ってくれよ。編集作業には僕も加わるから、あと何分で中継が始まるんだ。」
「七分です」
スタッフは自分の中継車の方へ戻って行った。無言で機械類を捜査している江尻伸吾のワゴン車の中に村上弘明と吉澤ひとみは乗り込んだ。ワゴン車の中にはいくつものモニターがあって阪神テレビも日芸テレビも映っていた。なぜ関西の二つのテレビ局がこのいかさま師の中継を同時に行っているのか、村上弘明には理解できなかった。テレビに映っているロストホラフェルティス、ホルナンデスは帝政ロシアのラスプーチンのように両手を広げてあざみの塔の物見台の上に立つと眼下を見下ろした。そこはアンテナ塔公園の観覧車の最上位置と同じように栗の木市の全景を見渡すことができた。ロストホラフェルティス、ホルナンデスは静かに目をつぶって何かを瞑想しているようだった。この中継をあとで村上弘明はどうやって再編集するかいろいろなことを考えてみた。何よりもこの仰々しいパフォーマンスのあとで犬の惨殺事件の犯人が見つかるかどうかでその放送の趣旨が変わってくるのはもちろんだが、もし、犯人が見つかったり、有力な情報を得ることができれば神秘という見出しになるし、まったくそういうことがなければいんちきということになる。放送が始まってから数分後から江尻伸吾の本神山本太郎二号はぽつぽつと反応し始めて十分を過ぎる頃から激しく反応した。
「江尻さん、この機械が激しく反応していますね」
「この放送に対する視聴者の苦情やら投書やらいろいろなものでごじゃる。それらはすべてこの機械の記憶装置の中に記憶されている最中でござる」
機械がフル稼働していることは動作中を示すパイロットランプがその赤い光を激しく点滅させていることからわかる。そのランプの点滅の光がそれを見つめている村上弘明と吉澤ひとみの顔を照らした。モニターに映っているロストホラフェルティス、ホルナンデスは相変わらず大仰なパフォーマンスを続けていて下に大阪府の地図を広げてその上にフーコーの振り子のようなものが三脚からつり下げられている。フーコーの振り子と違うところは振り子自身が磁石になっていてその三脚の足のところには三つの足をめぐるように輪になった磁石がいくつもついていてその磁力の微妙なバランスの上に大阪府の地図の上に位置している振り子が微妙にゆれている。砂時計を見ながらロストホラフェルティス、ホルナンデスは下の地図をさかんに位置を変えていた。そのたびにメモ用紙に何かのメモをくり返していた。江尻伸吾は本神山太郎二号の捜査をさらに続けていた。○と×の二つの選択肢のついたスイッチの○の方に切り替えた。
「○と×の二つの選択肢は何を意味しているの」
「ひとみ殿、これはロストホラフェルティス、ホルナンデスのこの心霊捜査を信じているかどうかで分けているのでござる。○の方はロストホラフェルティス、ホルナンデスのことを信じているという選択でがんす」
そしてさらに細かな選択スイッチを江尻伸吾は操作していった。そして十個以上のスイッチを操作し終わると江尻伸吾はまたヘッドフォンを耳に装着した。江尻伸吾の顔には緊張が走っている。そして生放送の中盤にさしかかったとき、神山本太郎二号の条件一致と書かれたランプが点灯した。
「行くでごじゃります。もちろん、ついて来るでごじゃりますな」
江尻伸吾は荷台の方から運転席に移ったので、村上弘明もむ吉澤ひとみもあわてて運転席の方に移った。二人がシートに腰を沈める前に江尻伸吾はワゴン車を急発車させた。
「どこへ行くんですか」
「ここでがんす」
プリペイド式の携帯を禁止されたので助かったでごんす。奴は公衆電話からかけているでがんす」
「江尻さん、ここに行くんですか」
「ちょうどK病院と福原豪の屋敷の中間の位置にありますね」
「そうでがんす」
江尻伸吾は何度も急カーブを切った。栗の木市の隣にあるあざみ姫公園市からその目的地に向かうのだからそれほどの時間がかかるというわけではなかった。しかし、道路はやがて人の住んでいない農家の朽ちた生け垣にはさまれた舗装されていない泥道に入るとその道の車幅はワゴン車とたいして変わらなかったのでそのスピードは急に落ちた。
「このさきに目当ての電話ボックスがあるんですか」
「ウィ」
「そうだ、この道、思い出したわ。学校の帰り道にここを通ったことがあったわ」
「ひとみ、こんな寄り道をして家に帰っていたのか」
「地域社会に密着しなきゃね」
吉澤ひとみは泥道にがたごとと揺れながら村上弘明の方を見た。江尻伸吾は黙ってハンドルを握っていた。
「確か、このさきには昆虫飼育工場があったと思ったけど」
「なに、それ」
「丸太製のバンガローのような建物があるのよ。そこで昆虫を飼育してマニアに通信販売をしている会社があるそうよ」
「その横に公衆電話ボックスがあった」
「あった。あった」江尻伸吾の運転でもその細道を抜け出すことができた。その細道の出口にまで来ると昆虫工場の丸太小屋が見える。その横には公衆電話のボックスが立っている。
「あそこだ、あそこだ」
三人は車から降りるとその電話ボックスに走って行った。隣に建っている昆虫工場と合わせているのか、木製のりんご箱を大きくしたような電話ボックスだった。
「やられたでごじゃる」
江尻伸吾が低くうめいた。三人の走って来た方向の向こう側に電話ボックスの開閉口があったのでわからなかったが、その木製の扉は開いていて、中にははずされたままになっている受話器がゆらゆらと揺れていた。
「今、さっきまでここで電話をかけていたのは間違いがないでごじゃる」
「ほら、見て、見て。電話帳が開かれているわ」
「電話帳でどこの電話番号を調べたのかしら」
「永久のあざみの塔の一階にある事務所の電話に決まっているでごじゃる」
「鉛筆で線が引いてある。江尻さんの言ったとおりだわ。あざみの塔、一階事務所に線が引いてある」
「もう、電話の主はここにはいないだろう」
近所の住人、昆虫飼育工場の管理人、そこには一人しか、従業員がいなかった。それらの人間に聞いても怪しい人物の情報はとれなかった。
「とにかく永久のあざみの塔に戻るでごじゃる。まだロストホラフェルティス、ホルナンデスはいるはずでござる」
三人は江尻伸吾のワゴン車に乗り込み、またあざみの塔に戻ることにした。その帰路、江尻伸吾は一言も言葉を発せなかった。三人があざみの塔に戻ると手を振っている人物がいる。よく見ると、ゴルフウェアーを着たロストホラフェルティス、ホルナンデスだった。江尻伸吾が車を到着させると、わし鼻の下の控えている口を逆への字に曲げてにやにやしながら運転席に座っている江尻伸吾の方へ向かって来る。
「どんな、あんばいやった」
中世の錬金術師から意外にも大阪弁が出てきた。
「誰かに見られるとまずいでごじゃる。荷台の方には椅子もあるから、そっちの方に移るでごじゃる今、荷台の扉を開けるでごじゃる」
荷台には江尻伸吾の捜査用の設備のほかに長椅子が置かれて、コーヒーメーカーも置かれていた。村上弘明は荷台の中でロストホラフェルティス、ホルナンデスの姿を見ると、顔だけは中世の錬金術師のようなのにブランドもののゴルフウェアーを着ているのが奇妙な感じがするのだった。その上、話す言葉は大阪弁である。江尻伸吾が荷台にいる三人、村上弘明、吉澤ひとみ、そしてロストホラフェルティス、ホルナンデスにコーヒーを配った。
「かかってきたでごじゃる」
「やっぱり、そうでんがな」
ロストホラフェルティス、ホルナンデスが変な大阪弁で答えた。
「わからないわ、どういうこと、なぜ、あなたは大阪弁をしゃべるの」
「大阪弁だけではないでんがな、世界中で十七ケ国語をしゃべることができますでんがな。こう見えてもわてはICPOの職員なんやがな」
「ますますわからない」
村上弘明もため息をついた。
「麻呂が説明させていただくでごじゃります。日芸テレビの金木社長が圧力をかけられたとしても、その相手よりさらに権力のある相手が、この捜査を続行するように指示されたのでごじゃります。だから金木社長もこのロストホラフェルティス、ホルナンデスの心霊捜査のテレビ中継をやらなくてはならなかったでごんす。しかし、それは何も日本だけに限ったことではないでごじゃります。このロストホラフェルティス、ホルナンデス氏の霊能力というのは世界中で知られていることでごじゃります。だから犯罪者は彼をおそれているでごじゃります。そして世界中の人々がロストホラフェルティス、ホルナンデス氏の霊能力を信じているのでごじゃります。そしてテレビ中継をするとすると何百万という人間がそのテレビを見るのでごじゃる。そこでロストホラフェルティス、ホルナンデス氏が湖のそばに被害者の死体が見えるとテレビで言うと全国にある湖から死体を見たという投書やフアックスが何千と届くのでごじゃる。したがって世界中の警察で捜査に行き詰まると、ICPOに連絡が行き、ロストホラフェルティス、ホルナンデス氏の招待が決まり、政府からテレビ局に圧力がかけられて、彼の心霊捜査の実況がなされるのでごじゃる」
「じゃあ、みんなお芝居なのね」
「それはわからないでごじゃる。真実を知っているのはロストホラフェルティス、ホルナンデス氏のみでごじゃる」
「わてのやっていることが手品かどうかということは商売上の秘密やで」
「しかしでごじゃる。ロストホラフェルティス、ホルナンデス氏のテレビを見ているのは一般視聴者のみではないでごじゃる。犯人も見ているのでごじゃる。だいたいの犯人は自分のやっていることに罪悪感に似た不安感を抱いているのがふつうでごじゃる。ロストホラフェルティス、ホルナンデス氏の言った一言が犯人を自首させるきっかけになったり、変な虚勢から墓穴を掘ることもあるでごじゃります。そしてこの犬殺しの犯人もぼろを出そうとしているのでごじゃります。さっきのテレビ中継のあいだ、犯人は確かにテレビを見ていた形跡がありますでごじゃります。あのあざみの塔の一階の事務所に意味不明の電話がかかってきたでごじゃります。その電話の発信先はあの昆虫育成工場の横にある電話ボックスでごじゃりました」
そのことはロストホラフェルティス、ホルナンデスにとっても初耳だったらしい。
「とにかく、その電話を聞かせてくれや、神山本太郎署長はその電話を聞いたらしいんやけど。わてはまだ聞いていないんやで」
「よろしい。その電話を再生するでごじゃる」
江尻伸吾は神山本太郎二号の前に行くとスイッチを操作しはじめた。
「いいでごじゃるか、不審な電話を再生するでごじゃるよ」
スイッチを入れるとハンカチで口を覆ったようなくぐもった声が神山本太郎二号から聞こえてきた。
「まだ、私が誰だかわからないのかね。今度、十月十一日に君らを驚かせることが起こるだろう。せいぜい警備をしっかりすることだな。うわははははは」
***********************************************************************