解禁オノマトペ(9)虫の声②
■枕草子/上巻中四十三段
虫は、鈴虫。ひぐらし。蝶。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。ひを虫。蛍。蓑虫、いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似てこれも恐ろしき心あらむとて、親の、あやしき衣ひき着せて、「いま秋風吹かむをりぞ来むとする。待てよ」と言ひおきて、逃げて往にけるも知らず、風の音を聞き知りて、八月ばかりになれば、★「ちちよ、ちちよ」とはかなげに鳴く、いみじうあはれなり。額づき虫、またあはれなり。さるここちに道心おこしてつきありくらむよ。思ひかけず、暗き所などに、ほとめきありきたるこそをかしけれ。蝿こそ、にくきもののうちにいれつべく、愛敬なきものはあれ。人々しう、かたきなどにすべきものの大きさにはあらねど、秋など、ただよろづのものにゐ、顔などに、ぬれ足してゐるなどよ。人の名につきたる、いとうとまし。夏虫、いとをかしうらうたげなり。火近う取り寄せて物語など見るに、草子の上などに飛びありく、いとをかし。蟻は、いとにくけれど、軽びいみじうて、水の上などを、ただ歩みに歩みありくこそをかしけれ。
■本物の蓑虫はもちろん鳴かない。蓑虫は蓑蛾という蛾の幼虫である。雄は蛾となってその蓑を脱ぎ捨てるが、雌はそのまま蓑の中で成虫となり、一生蓑から出ることはない。だから、蓑虫が★「父よ、父よ」と呼び、母を呼ばないのは生物学的にも納得できる。清少納言にそこまでの知識があったとは思えず、ただ★「チチ、チチ」と聞こえたということだろう。では、その★「チチ、チチ」と鳴いた虫は果たして何だったのか。それはたぶん、木の枝などで鳴く「クサヒバリ」や「カネタタキ」などでは?
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★草雲雀(くさひばり):フィリリリ、キリリリリ/★鉦叩(かねたたき):チンチンチン/螽斯(きりぎりす):チョン・ギース/馬追(うまおい):スイッチョ/轡虫(くつわむし):ガチャガチャ/露虫(つゆむし):ピチチピチチ/蟋蟀(こおろぎ):コロコロコロ/閻魔蟋蟀 (えんまこおろぎ):コロコロコロリーリー/三角蟋蟀(みつかどこおろぎ):キチキチキチ/綴刺蟋蟀(つづれさせこおろぎ):リリリリ/松虫(まつむし):チンチロリン/邯鄲(かんたん):ルルルルルー/鈴虫(すずむし):リーンリーン
