中之島美術館 | すくらんぶるアートヴィレッジ

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・・・森村さんの「人間浄瑠璃」を観ることができ、やっとこれで心置きなく新美術館の展示を鑑賞できると思うと、身も心も軽くエスカレーターで会場へと向かった。もちろんお目当ては「佐伯祐三」であり「モジリアニ」、なんといっても「ジャコメッテイ」である。とはいえ「パスキン」の素晴らしさも再確認でき、楽しい1日を過ごせ、新美術館オープンを遅ればせながら祝うことができました。

《参考》京都芸術大学「瓜生通信」より

21世紀に羽ばたく美術館を守る猫。大阪中之島美術館の竣工とヤノベケンジ《SHIP'S CAT (Muse)》

https://uryu-tsushin.kyoto-art.ac.jp/detail/863

★構想40年の美術館

2021年、長く待たれていた大阪中之島美術館がついに竣工した。長く待たれていたというのは、1983年の大阪市政100周年記念事業基本構想から約40年、1990年の近代美術館建設準備室が設置されてから30年経つからだ。その間、財政が悪化したこともあり、「準備室」のまま計画が頓挫するのではないかと言われたこともある。しかし2013年、中之島に新しい美術館を建設することが決定され、2017年に公募型設計競技(設計コンペ)が行われた。そして、日建設計大阪オフィスや槇文彦率いる槇総合計画事務所の案を退けて、当時、大阪では無名と言ってもいい建築家、遠藤克彦率いる遠藤克彦建築研究所の案が選ばれ、その黒い直方体(ブラックキューブ)の案に度肝を抜かれた。実際にこの案が建てられたら、市民はどのような反応を示すのだろうか?と期待と不安が入り混じる案であったことは間違いない。途中、新型コロナウイルス感染症による100年ぶりのパンデミックという、これまた前例のないイレギュラーなことが起きたが、開館が少し伸びたが順調に工事が行われ、6月ついに竣工した。そして、7月2日にプレス内覧会が行われ、徐々に「ブラックキューブ」の全貌が報道されるようになったのだ。その中において、美術館前の広場にひときわ存在感を放つ巨大な猫の彫刻があるが、すでにSNSなどでは通りすがりの人々から大量に写真がUPされている。巨大な黒い外壁の前にヘルメットを着け鮮やかな朱をまとう猫の彫刻は、そのコントラストも相まって、非常に際立っている。すでに多くの人が言い当てているが、これはヤノベケンジが制作した「SHIP'S CAT」シリーズの一つである《SHIP'S CAT (Muse)》(2021)である。

★周辺環境と溶け込む「ブラックキューブ」

もともと大阪中之島美術館の設計コンペの際に大阪市が示したテーマが「パサージュ(passage)」であったという。パサージュとは、フランスに見られる屋根付きの商店街、いわゆるアーケードのことであるが、ヴァルター・ベンヤミンが物象化する空間として、膨大な覚書と引用からなる『パサージュ論』を著したことで、特に建築・芸術の分野で引用されることが多い。コンペでは、パサージュをテーマに、「展覧会入場者だけではなく幅広い世代の人が誰でも気軽に自由に訪れることのできる賑わいのあるオープンな屋内空間」をいかに美術館建築として実現するかが求められた。

90年代以降、ガラスの耐震技術が進化したこともあり、ガラスカーテン・ウォールのようなガラス張りの建築が多くなっている。特に美術館建築として一番有名なのが、SANAA(妹島和世+西沢立衛)が設計した金沢21世紀美術館だろう。金沢21世紀美術館は、円形の建物の外壁をすべてガラス張りにして、四方から入れるようにし、まさに開かれた美術館として世界的に有名になった。大阪中之島美術館は、外観はプレキャスト工法による真っ黒なコンクリート張りであり、それらが2階から立方体状に浮かぶように設計されているので、まさにアーサー・C・クラークとスタンリー・キューブリックによる『2001年宇宙の旅』(1968)に出てくる「モノリス」のように見える。異物のような「ブラックキューブ」は、一見、外側からの風景を拒絶しているように思える。たしかに、最初に発表されたパースを見ると、そのように感じるが、実際建てられた建築は周囲とコンフリクトを起こしているというより、むしろ馴染んでいるように思える。理由はいくつか考えられるが、まず近年、超高層化している中之島の建築街では低い方で、ヒューマンスケールを超えていないこと。道を挟んで東隣にある1925年に竣工、2013年に、低層部に外装などを残して高層化したダイビルの元の高さとさほど変わらないこと。直方体であるため、高さが低くても最大限容積が取れていること。そして近年、ガラス張りが増えたことにより、反射光害も問題になっていることもあり、黒い壁面の直方体は光を吸収し、周辺環境と「馴染む」一つの解答であることがわかってくる。さらに、黒い壁面のコンクリートには凹凸があり、近くで見ると豊かな表情がある。

★内部空間に立体的に広がる「パサージュ」と巨大展示室

さらに、ブラックキューブの外部から内部に入ると、うってかわって吹き抜けの広い空間が見えてくる。2階の窓は全面ガラスのため、外にある芝生の広場とつながっており、まさに開かれた空間になっている。2階から長いエスカレーターに乗って4階の展示室に上がる。さらに4階から5階の展示室にかけて短いエスカレーターに乗り換える。近年の美術館建築は、エレベーターで上下にピストンのように多くの来場者を運ぶため、狭い空間に複数の見知らぬ人同士が閉じ込められ、入場の時点で気持ちが萎えることがある。「展覧会を見に行く」という昂揚感が寸断されるのだ。いっぽう、大阪中之島美術館では、長いエスカレーターを設けて、気分を徐々に高揚させると同時に、高さによって表情や印象がどんどん変わる「吹き抜け」を見せている。内部の壁面はプラチナシルバーに塗られ、まさに宇宙船に乗り込むようでもある。ここで、遠藤の狙いが、外側を「ブラックキューブ」に、内側を立体的な「パサージュ」にすることを意図したことがはっきりわかる。5階に着くと、南北に穿たれた窓が視界に入る。これもまたパサージュである。ここが外から見えていた窓にあたるのだ。北の窓から見ると、堂島川が見え、かつての土地の記憶が鮮明になる。実は、江戸時代は広島藩の蔵屋敷があり、直接屋敷に船で入れる、「舟入」があった。2階に見える芝生の広場の一部と、現代の交通・運搬を担う1階の駐車場が「舟入」の部分に当たるのだ。そして、5階の展示室3~5に入ると、天井の高さと広さに驚かされる。企画展を行うスペースだが、天井高6メートルと1700平米の広さを持つ。さらに、ほとんどが可動壁で企画に応じてフレキシブルに空間を構築することができる。6メートルというのは、日本の美術館でもかなり高い方だが、菅谷館長によると、それはコレクションの中にギルバード&ジョージの作品が5メートルあることも理由であるという。また、幅6メートルあるというフランク・ステラの作品を3階の収蔵庫からエレベーターでそのまま運ぶことができるという。以下略

・・・展覧会については、様々な企画が今後展開されていくとは思いますが、私がもっとも注目しているのは「パサージュ」としての機能であり、私たち庶民がどれだけ活用できるかという点にあります。

・・・周囲にあるミュージアムはもちろん、様々な中之島の文化資源との連携協働を強く願っています。まさしく、物語は今始まったばかりです。