《NEWS》2020.3.9琉球新報より
新型コロナ「政府、国民は冷静になるべき」手洗い、換気で対策を/生物資源研究所・根路銘国昭
新型コロナウイルスの感染拡大が世界規模で進む中、旧厚生省や世界保健機関(WHO)で感染症の研究や対策に取り組んだ経験を持つ根路銘国昭・生物資源研究所所長(80)=名護市=に5日、新型コロナウイルスの特徴や対策などについて聞いた。
―新型コロナウイルスについての分析を。
「中国政府の分析では新型コロナウイルスとして入院した人のうち、実際にウイルスに感染していたのは約3~4割だった。PCR検査(遺伝子による検査法)で新型コロナウイルスでない別種のコロナウイルスを拾っていたのではないかと懸念する」「新型コロナウイルスだけを検査できる正確で信頼できる検査体制が必要だ。遺伝子的には新型コロナウイルスは4種の系統があり、他国では同時進行的に4種類が流行している」
―季節性インフルエンザなどと比較してどうか。
「現在(取材時)、新型コロナウイルスでの日本国内の感染者は千人規模で死者は数人だ。季節性インフルエンザでは流行すると死者は数千人規模、大流行すると1万人以上になる。季節性インフルエンザに比べると流行規模・死亡者数は小さい」
―学校の休校などについてはどう考えるか。
「国民や政府はもう少し冷静になるべきだ。新型コロナウイルスを怪物化しておびえている。3月は学校にとって締めくくりの時期だ。学校や文化活動を休止することが妥当か胸に手を当てて考えるべきだ」
―感染対策や県民が気を付けることは何か。
「せっけんできちんと手を洗うことや、家庭内で感染者が出た場合には空気を湿らせること、換気を十分にすることなどが必要だ。季節性インフルエンザも含めた対策になる。★ウイルスから逃げることはできないので、個人も政治もどう向き合うかを考えていかないといけない」
【根路銘国昭(ねろめくにあき)】
1939年生まれ。沖縄県国頭郡本部町出身の獣医ウイルス学者。獣医学博士。有限会社★生物資源研究所代表取締役・所長。スペインかぜウイルスのルーツを解明するなど、インフルエンザウイルス研究及びワクチン開発の第一人者とされる。
人類は、進みゆく文明の道筋で、多くの負の遺産を抱えてしまいました。健康被害をもたらす癌とウイルス病はその象徴であり、これに成人病の1つである肥満が加わると、まさに文明病を創出してしまったということになります。私は、新しい創造力とサイエンスを携えて、人々の健康を支えるために本研究所の設立を決意しました。亜熱帯の沖縄には、王朝時代から脈々と受け継がれた豊富な生物資源があり、これを利用して癌とウイルス病に対峙し、今後も、サイエンスを背景にして多くの人々の生命系に貢献して参ります。また、遺伝子工学技術の新開発によって、世界初のワクチンも開発中です。当研究所は、これからも、自然とサイエンスの調和を求めて進化し続けます。
・・・「ウイルス」とどう向き合うのか?
《NEWS》2017.12.22朝日新聞より
感染症の流行、文明の発達とともに/弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座教授・萱場広之
毎年冬になるとインフルエンザの流行シーズンになります。インフルエンザウイルスの特徴は変異が生じやすいことです。病原性が高い新型ウイルスが人から人への感染を起こすようになった場合、世界的に大きな被害をもたらすことが心配されています。今まで大きな被害の出た世界的流行としては、1918年に流行したスペイン風邪(世界中で4千万~5千万人が死亡)が最も有名です。世界的流行が記憶に新しい2009年の新型インフルエンザは、幸いなことにあまり病原性が高くありませんでした。しかし、今後いつまた新たな変異株が流行するかもしれず、用心しておかなくてはいけません。今まで人類は感染症とずっと闘ってきました。人類が狩猟採集をしていた時代には、感染が起こっても、その部族内で流行は途絶えてしまい、命を落とす人の数もさほど多くはなかったことでしょう。農耕牧畜によって人が定住生活をするようになると、やがて集落が町、都市へと発展し、人口が増えていきます。文明が栄えて都市間で人が往来するようになると、たくさんの人が亡くなるような感染症の大流行が起こるようになったと考えられます。人口密度が高い都市、中でも不衛生な環境となりやすいスラムには、様々な感染症が流行する条件がそろっていました。ヨーロッパでは、残された記録からペストや天然痘、はしか、結核、コレラなど様々な感染症が大流行し、都市に住む多くの人が死亡した様子がうかがえます。15世紀にはじまる大航海時代には、ヨーロッパからアフリカ、アジア、アメリカ大陸へと人々が渡り、病原体も運び込まれました。病原体はアメリカ大陸に栄えていたアステカ王国やインカ帝国にも持ち込まれ、それらの★文明の滅亡に加担したと考えられています。感染症には、人以外の動物のみがかかるもの▽動物から人にはうつるが、人から人にはほとんどうつらないもの▽人から人にうつるものがあります。ダニやノミ、蚊を介してうつるものも困りますが、何といっても★世界的に大流行するのは人から人にうつる感染症でしょう。現代文明の発達によって毎日大量の人や物資が世界中を飛び回り、地球のどこにでも1~2日で行けるという便利な世界を私たちは手にしました。私たちは今、今日の地域の問題が明日は世界の問題になるかもしれない時代に生きているのです。感染症が一部族の問題で終わった狩猟採集の時代には戻れません。★「地球はワンワールド」、世界中の人々が力を合わせて感染症への理解を深め、自分自身を守り、社会を守ることが求められています。
・・・「感染症」への理解を深める?
《感染症と文明-共生への道》(岩波新書)著:山本太郎/岩波書店2011
かつて欧州でみられたペストのように、人類はたびたび感染症に襲われ、大きな被害を出してきた。最近をみても世界は新型インフルエンザ、エボラ熱など、常に新しい感染症の恐怖にさらされている。21世紀、人類は感染症との闘いに勝利することができるのだろうか。本書の副題にあるように、著者は、感染症を根絶しようとする努力は将来の新たな感染症の大発生につながるものであって根本的な解決策とはなりえず、病気(病原体)との「共生」こそが必要と結論する。感染症は、文明の成立によってもたらされた。約1万年前の農耕の開始により定住化が起こり、食料に余力が生まれて社会機構は大型化していった。今から約5000年前、メソポタミアに都市国家が成立し、急性感染症が定期的に流行するために必要なだけの人口規模が初めて成立し、麻疹(はしか)の誕生となった。その後も次々と生まれた大都市が、感染症のゆりかごとしての機能を果たすこととなる。歴史の中で、突然発症してやがて謎のように消えていった感染症がある一方で、新たに生まれた感染症もある。1976年に出現したエボラ出血熱や2003年に出現した重症急性呼吸器症候群(SARS)は、散発的ではあるが猛威をふるった。エボラ出血熱はゴリラやチンパンジーのような高等霊長類にも感染して大きな被害を及ぼしている。SARS は700人以上の死亡者を出して終息した。これらのウイルスが消滅したのか、それとも今もどこかに潜んでいるのかは不明である。ウイルスのように、宿主の存在なしでは生存できない病原体の場合には、病原性は変化する。これがウイルスのヒトへの適応段階であり、以下の5つの段階に分けて考える。 (1) 家畜や獣から傷を通して感染するがヒトからヒトへの感染は見られない段階、 (2) ヒトからヒトへの感染は起こるが感染効率が低いためにやがて流行は終息に向かう段階、 (3) ヒトへの適応を果たし定期的な流行を引き起こす段階、 (4) ヒトに適応してヒトの中でしか存在できない段階、それに、(5) ヒトに過度に適応したために広を取り巻く環境や生活の変化に適応できずヒト社会から消えていく段階。こうして感染症は、新たに出現するものと社会から消えていくものの動的平衡状態にあり、種類や構成は時代や社会とともに常に変化していくことになる。この変化を病原体の側からみれば、感受性をもつ新たな宿主に出会ったとき、適応は完全なものではなく、感染を繰り返す中で、宿主体内の総量を高めようとする。適応が不完全であるほど、ウイルスは体内の総量を高レベルに維持し、宿主からの淘汰に耐えようとする。しかしいったん適応すれば、宿主から淘汰の圧力を受けることはなく、病気を起こすことは自らの生存のために不利になるため、最終的にはウイルスは宿主と安定した関係を築くことになる。しかし、適応に完全なものはありえない。ある適応を果たしても、環境が変化すれば新たな環境に対して不適応となる。ある種の適応は、短い繁栄とその後の長い混乱をもたらすことになる。その意味から、病原体の根絶は、過去に感染症に抵抗性を与えた遺伝子を、淘汰に対して中立化し、その後の破滅的な悲劇につながる可能性を指摘する。21世紀には、共生に基づく医学や感染症学の構築が求められているとするが、★共生はそのためのコスト(犠牲)を生むことにもなる。共生はそうしたことを踏まえた上で模索されなくてはならないものであり、それは21世紀の大きな挑戦になる、と結んでいる。この★「共生」の考え方は、感染症とヒトとの関係に限らず、環境問題や自然災害、さらには社会問題に関しても、21世紀を生きる上で示唆するところは大きいといえそうである。
目次:
プロローグ 島の流行が語ること/第1章 文明は感染症の「ゆりかご」であった/第2章 歴史の中の感染症/第3章 近代世界システムと感染症―旧世界と新世界の遭遇/第4章 生態学から見た近代医学/第5章 「開発」と感染症/第6章 姿を消した感染症/エピローグ 共生への道
【山本太郎】1964年生まれ。1990年長崎大学医学部卒業。医師、博士(医学、国際保健学)。京都大学医学研究科助教授、外務省国際協力局を経て、長崎大学熱帯医学研究所教授。専門は国際保健学、熱帯感染症学。アフリカ、ハイチなどで感染症対策に従事
・・・「共生」?
《感染爆発にそなえる―新型インフルエンザと新型コロナ》著:岡田晴恵、田代眞人/岩波書店2013
2013年春、中国でH7N9型鳥インフルエンザが発生し、中東やヨーロッパで新型のMERSコロナの流行がはじまった。H5N1型鳥インフルエンザも、1997年以降、感染者と死亡者を出し続けており、新型化も迫っている。これらの何が怖いのか、どう対処したらよいのか?人の移動が広域・高速化し、感染拡大の危険性が増す今日、★もう「想定外」は許さない!影響予測と対策を、研究と防疫の最前線から科学的に論じる。
【岡田晴恵】1963年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科博士課程中退、医学博士。★厚生労働省国立感染症研究所ウイルス第三部研究員、(社)日本経済団体連合会21世紀政策研究所シニアアソシエイトなどを経て、白鴎大学教育学部教授。専門は感染免疫学、ワクチン学
・・・今回の新型コロナは「想定外」ではなかったのか?
《NEWS》ギリシャ国内の聖火リレー中止
ギリシャ・オリンピック委員会(HOC)は13日、同国内で12日に始まった東京五輪の聖火リレー中止を発表した。新型コロナウイルスの感染が急速に拡大する中で多くの観客が沿道に集まり、危険性が高いと判断した。保健当局や国際オリンピック委員会(IOC)と協議して決まった。19日のアテネでの引き継ぎ式は無観客で実施する。聖火は20日に専用機で航空自衛隊松島基地(宮城県東松島市)に到着し、26日の福島県出発から7月24日の開幕まで121日間で47都道府県を回る計画。ギリシャ国内のリレーは19日までの8日間で各地の名所旧跡を巡る予定だった。
・・・東京オリンピック開催への危機は、「駆け足」で迫ってきている。