殿様調査(2) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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トノサマガエル調査(2)

滋賀県彦根市2014

彦根地方気象台で2014年4月、「トノサマガエルの初見」が観測された。この観測が記録されたのは、実に10年ぶりのことだ。全国各地の気象台は、「ソメイヨシノの開花」や「ウグイスの初鳴き」など、四季折々に応じて動植物の観測も行っている。しかし、トノサマガエルは環境省のレッドリストに「準絶滅危惧種」に指定されるまでに減少しており、すでに観測対象から除外している気象台や測候所もある。彦根では久々の“再会”にわきあがったが、トノサマガエルはすっかり「身近な生き物」ではなくなっている。


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■用水路の水面を“ピョン”

彦根地方気象台がトノサマガエルの初見を記録したのは、今年4月30日。男性職員が、気象台から約2キロ離れた水田脇を歩いていたところ、用水路の水面を“ピョン”と跳ねたカエルを発見した。職員が追いかけて水の中に目をやると、胴体の黒い斑点などからトノサマガエルと確認された。トノサマガエルの初見を観測したのは、平成16年5月6日以来、10年ぶり。久々の出来事に、同気象台の森岡伸夫調査官(51)は「以前は、気象台の敷地内でも苦労することなくトノサマガエルの姿をみることができたのに・・・」と振り返る。同気象台は、昭和28年からトノサマガエルの初見を観測している。平成16年までは昭和51年を除いて毎年3月下旬から5月上旬にかけて、トノサマガエルの初見が記録されている。しかし、最近は気象台周辺でも、宅地開発で水田が減ったり、用水路もコンクリートで固められたりするなどして、明らかに生息数が激減しているという。実際に、トノサマガエルの減少は全国的な問題になっており、平成24年度には環境省のレッドリストに「準絶滅危惧種」として新たに記載されたほどだ。

■トノサマガエル観測は全国で半数以下

全国の気象台は、生物に及ぼす気象の影響をみるとともに、気象状況の推移を把握するため、動植物を指標にした「生物季節観測」と呼ばれる観測を続けている。よく知られているのは、ソメイヨシノの開花日や満開日などだ。各地の気候や環境に合わせて対象となる動植物は異なるが、彦根地方気象台では、動物はヒバリやウグイスの初鳴き日、トノサマガエルやツバメ、モンシロチョウの初見日など11種類の11現象を、植物はウメやツバキの開花日、イチョウの発芽日や落葉日など12種類の16現象を、それぞれ観測している。「初見日」は、文字通り対象の動物を初めて見た日のことを指す。観測の性格上、職員らが自ら動き回って動物を探し出すのではなく、暮らしの中で自然に見つかった状況を記録しているという。観測の範囲は、各気象台・測候所の半径5キロ圏内と定められている。気象庁によると、現在もトノサマガエルの観測を続けているのは全国58ある気象台・測候所のうち、半数以下の24施設にとどまる。平成23年には、大阪管区気象台や京都地方気象台などが観測対象から除外した。

■このままでは「平年値」も出せない

気象台などの観測活動では、いつもの年と比較して「早い」「遅い」と判断するための「平年値」を取っている。過去30年間のデータから平均値を算出するが、そのなかに「30年間のうちに8回以上観測されていること」などの条件がある。準絶滅危惧種にもなっているトノサマガエルは、何年間も続けて確認できないために平年値さえも算出できなくなっているという。トノサマガエルは冬は地中で冬眠し、繁殖期となる4~6月ごろになると平野部や低山にかけての池や水田などに姿を見せる。彦根地方気象台では、トノサマガエル初見の平年値(昭和56~平成22年)は4月21日と発表しているが、「今年はたまたま観測できたが、例年のような状態が続けば、いずれ観測対象から外さざるを得なくなる」(同気象台)としている。両生類の生態に詳しい京都大大学院人間・環境学研究科の松井正文教授は「減反政策や担い手不足などで水田が少なくなったのに加え、圃場(ほじょう)整備などで大きな水田が増えたため、雌雄のカエルが出会いづらい環境にもなっている」と指摘する。身近な動植物の典型例として、生物季節観測の対象に選ばれたはずのトノサマガエル。この観測を通じて、いつの間にかすっかり身近な存在ではなくなっていることに気付かされるとともに、都市部を中心に、ますます季節感が希薄になっていく環境の変化を警告しているようだ。



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和名:トノサマガエル

英名:Black-spotted Pond Frog

学名:Rana nigromaculata「黒い斑紋を持つカエル」の意味

分布本州(関東地方から仙台平野を除く)、四国、九州、朝鮮、中国、ロシア沿海州の一部

生態基本的には、水田に住んでいますが、繁殖期以外では、水田からかなり離れた場所にもいます。繁殖期は4月から6月で、水田や河川敷の水たまりなどの、浅い止水で行われます。雄は、1.6㎡ほどのテリトリーをもち、水面に浮きながら鳴き、雌を待ちます。

体長成体オス:38-81(平均69)mm成体メス:63-94(平均77)mm

鳴き声グルルル、グルルル・・・



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水田に多く、日本の蛙の中では代表株ですが、関東地方にはいません。

雄雌の体色に差があり、雄は背面が黄緑色をしていて、繁殖期には黄金色になります。雌は、胴の側部から腹部にかけて白黒の縞模様をしています。トウキョウダルマガエルとの違いは、本種は背中の暗色斑紋がつながっているのと、小隆条が発達していることで見分けがつきます。また、背中線がない個体や、ダルマガエルに似て暗色斑紋が独立している個体もたまに出現します。



見分け方トノサマガエルの腹部は、ほとんど白であるのに対し、ナゴヤダルマガエルでは網目状の斑紋が入る。また、トウキョウダルマガエルは、ダルマガエルとトノサマガエルの中間くらいで明瞭な斑紋は持たない。トノサマガエルは、後肢の中指が鼓膜に届くのに対し、ナゴヤダルマガエルやトウキョウダルマガエルでは鼓膜に届かない。背面の小隆条が、トノサマガエルでは発達するのに対し、ナゴヤダルマガエルやトウキョウダルマガエルではあまり発達しない。その他には、背面暗色斑紋がトノサマガエルでは融合し、ナゴヤダルマガエルとトウキョウダルマガエルでは孤立するといった特徴もありますが、トノサマガエルの中にも暗色斑紋が孤立するものも見られます。近年、繁殖地の減少などでダルマガエルとの自然交雑が起きています。


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『ブンナよ、木からおりてこい』著者:水上勉

刊行:1972新潮少年文庫三蛙房若州一滴文庫など



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釈迦の弟子に、ブンナーガという者がいた。悟りの遅い弟子だったとされる。ブンナーガから取られた名前を持つトノサマガエルのブンナは、蛙仲間のうちでは勇猛だった。しかし、彼には窺い知れぬ厳しい自然の掟を、一冬を越す間に体験した。

跳躍力に優れ、木登りも巧みなトノサマガエルのブンナは、周囲の反対にも耳を貸さず、土の広場となっている椎の木の頂上で冬眠しようとした。天敵の蛇がいない天国に思えたその場所は、実は、鳶の餌の保管場所だった。雀、百舌、鼠、蛇など、ブンナの一族が恐怖する動物が次々に連れてこられ、泣いたり悔やんだり、怒ったり、諦めたりしながら最後には鳶に食われ死んでいった。鳶は死んだ獲物は食わない。今死ねば、鳶に勝利する、と語り死んだ鼠の体から、羽虫が湧いて出る。ブンナはそれを食べて地上に降りる時を待つ・・・。

あれほど恐れていた天敵たちが、鳶の前では、なす術もなく死んだ。鼠の化身となった羽虫を食べて生き延びた自分は、他の動物の生命により生かされていることをブンナは悟った。そこには弱肉強食を超えた不文律があったのである。トノサマガエルも土蛙も、生命の尊さを抱えて生きていることに、ブンナは生死の地獄絵図を見極め、達観したのであった。

本書は、1972年に『蛙よ木からおりてこい』という題で新潮少年文庫シリーズから刊行された。劇団青年座が1978年に脚本化し上演した時、『ブンナよ、木からおりてこい』のタイトルに変更された。母親が子どもに朗読してもよいようにという水上勉の配慮で生まれた本書は、舞台演劇にもう一つの息を吹き込まれ、海外公演も含め数千回に及ぶロングヒットを続ける。宮本亜門によるブロードウェイスタイルのミュージカル“Up in the Air”も、本書を題材にした作品である。