さて、「蛙男」なるものが、いつ頃から登場(発見)するようになったのか、過去の歴史を探ってみることにします。
★1781年「南半球の発見」著:レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ
1781年に発表されて以来、幻のユートピア小説として収集家の間で高値で取引されていましたが、1977年に近代版が出版されました。さらに、1985年には日本語訳まで出版されました。この本が有名だったのは、何といってもその挿絵にあり、全部で23枚の絵(作者不明)が入っています。そこに「蛙人間」が描かれています。
ヴィクトランという人が、身分違いのクリスチーヌという人に恋をして、自由に空を飛べる翼を発明したのをいいことに、クリスチーヌをさらって高い山の上に閉じ込め、使用人やら必要な道具やらを全部、さらったり、盗んできたりして山の上に王国を作るという物語です。山の上の王国が狭くなってきたので、南半球の島に移住し、そこに王国を移したヴィクトラン。最初の島には夜しか活動しない「夜人間」が。他の島を探っていくと、猿人間、熊人間、犬人間、豚人間、牛人間、羊人間、ビーバー人間、山羊人間、馬人間、驢馬人間、蛙人間、蛇人間、象人間、ライオン人間、虎人間、豹人間、鳥人間・・・これらの人種を見つけると、教育を施し、ある程度従順になったところで、フランス人を島の監督官として派遣しつつ、島に帰していきます。
さて、「蛙人間」がどういう風に発見されたか・・・
★1985年「飛行人間またはフランスのダイダロスによる南半球の発見―きわめて哲学的な物語」著:レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ/翻訳:植田祐次(創土社)より
エルマンタンとタゴベールが湖の縁に出てみると、若干の両棲動物が目に入りました。それらは水中に跳び込み、かと思えば泳ぐものもいました。エルマンタンがその動物の一匹を捕まえようとして駆け寄ると、どんなにかすかな足音でも聞きつけて怯え、たちまち水中に跳び込み、かと思うともう湖の中央付近、はるか遠くにしか姿が見えなくなるのでした。二人の若い飛行人間は、どうにも捕まえることができないので、仕方なく対岸へ飛びました。しかし二人が百フィートほども舞い上がるか上がらないかのうちに、およそ千もの顔が水面に突き出て二人を打ち眺めるのでした。湖の向こう岸には何ひとつ見つけられなかったので、二人は島の陸地を構成する地域を踏破してみることに決めました。二日間飛び回ってみたものの、鳥以外の生き物はいっこうに見あたりません。時折り、両棲動物が大げさな音を立てて湖に跳び込むのが聞こえるだけでした。こういった現象が繰り返されるのを意外に思った二人は、暗闇でも見える英国製の望遠鏡を使って、もしいるならこの島の住民を発見してやろう、いや、少なくとも鳴き声の聞こえる両棲動物が何ものであるかをはっきりさせようと、夜のあいだ身を隠すことにしました。彼らの疑問は早くも最初の夜に晴れました。両棲動物人間が湖から出て来て、地上の果実や木の根を探しに行くのがはっきり見えたのです。言葉を知らないように思われたにもかかわらず、たがいに合図の目配せをし合うのでした。この両棲族の頭には、毛髪のかわりに小さな鱗のようなものがあって、手足の指は薄膜で繋がっていました。彼らは地上で食べていましたが、数名は見張りに立っていました(おそらく、飛行人間が出現したからにちがいありません)。見張り番はどんなにかすかな物音を聞きつけても、ブルルルル・ルルレ・ケ・ケ・コア・コアクスとひと声あげ、仲間の集団を全員水中に戻すのでした。
★1955年
1955年5月22日午前3時過ぎ、アメリカ、オハイオ州ブランチヒルで、顔がカエルに酷似し、華奢な体3体の生物が、走行中の車から目撃された。その生物は爬虫類的な姿をしていましたが、それが爬虫類でないことは、二本の脚で立っていることで明白でした。背丈は3~4フィート(90~120センチ)と成人男性よりは遙かに小柄で、なにか棒きれのようなものを運んでいるようだったといいます。彼は勇気のある人で、このことをラブランド警察に報告しましたが、残念ながら、そういった生物が存在したという痕跡は発見できませんでした。
★1972年3月
それから17年後の1972年3月3日午前1時過ぎ、オハイオ州にかかる橋の上を警官ウィリアムズがパトカーで巡回中、前方に何かうずくまっているのを発見し、停車した。ヘッドライトに浮かび上がったそれは、体長1.2メートル。ヌメヌメした皮膚にカエルのような顔、水かきのある細い手足をダラりと下げていた。まさにカエル男だった。やがてカエル男はガードレールを越えて、下を流れる川へ入っていった。深夜、ウィリアムズが再び現場を訪れると、川に向かう堤防に足を引きずったような痕跡が残っていた。
★その2週間後、ウィリアムズの同僚マイク・マシューズが、同じ橋の上で道端にうずくまる生物を目撃。車を降りようとしたところ、生物が起き上がった。それはウィリアムズが報告したのと同じ怪物だった。マシューズの目の前で、怪物は足を引きずりながらガードレールをまたぎ、堤防に下りていった。マシューズは、怪物には尾があったと証言しています。
★1998年9月
同じリトルマイアミ川沿いで体長約1.5メートルのカエル男が目撃されています。ちなみに、カエル男の正体については「未発見の両生類説」「河童説」「エイリアン・アニマル説」等があげられていますが、その正体は謎のままです。
ネットでこんなお守り?を発見しました。
★1999年4月「蛙男」(幻冬舎)著:清水義範
ある日、グラフィック・デザイナーの滝井は、突然カエルに変身し始める。彼が知ることになるホントの世の中、真実の自分。精神的に追いつめられていく滝井を救ったのは、「同志」ともいえる一人の女性だった。だんだんカエルになっていく。驚愕、恐怖、滑稽・・・ある日、突然変身し始めた男が知るホントの世の中、真実の自分、そしてかけがえのない女性。清水義範ワールドの不可思議なラブ・ストーリー。
※清水義範/1947年名古屋市生まれ。愛知教育大学卒業。1981年『昭和御前試合』でデビュー。1988年『国語入試問題必勝法』で第9回吉川英治文学新人賞を受賞。奇抜な発想とユーモアを駆使した小説やエッセイを次々と発表。
★2011年2月「連続殺人鬼カエル男」(宝島社文庫)著:中山七里
史上初「このミステリーがすごい」最終候補にダブルエントリーされ、「こっちを読みたい」という声が続出した話題作。『さよならドビュッシー』『おやすみラフマニノフ』に続く中山七里の最新刊。『マンションの13階からフックでぶら下げられた女性の全裸死体。傍らには子どもが書いたような稚拙な犯行声明文。これが近隣住民を恐怖と混乱の渦に陥れる殺人鬼「カエル男」による最初の凶行だった。警察の捜査が進展しないなか、第二、第三と殺人事件が発生し、街中はパニックに。無秩序に猟奇的な殺人を続けるカエル男の正体とは?どんでん返しにつぐどんでん返し。最後の一行まで目が離せない。警察は犯人をとめることができるのか。
※中山七里/1961年、岐阜県生まれ。花園大学文学部国文科卒業。『さよならドビュッシー』で第8回『このミステリーがすごい』大賞を受賞しデビュー。他の著書に『おやすみラフマニノフ』がある。