東日本大震災とカエル(2)
■問われている人間力/「知識」と「備え」身につけて
「イザ!カエルキャラバン!」などを運営するNPO法人「プラス・アーツ」理事長、永田宏和さんが、東日本大震災で帰宅困難者になられました。東京都千代田区内で防災関連のシンポジウムを行っていました。(自宅は関西で)日帰りの予定でした。帰宅できなくなり、知り合いの事務所まで3時間ほど歩くことになりました。町の状況や、コンビニエンスストアの商品がどれくらいのスピード感でなくなるのか、リサーチして歩きました。その体験が防災の講座に大分反映されました。例えば、多くの会社員に「自宅から会社まで何キロ離れているんですか」と質問しても答えられない。「1時間何キロ歩けるか」と聞いても、これもわからない。正解は1時間5キロです。自宅が30キロ離れていれば、6時間かかります。防災グッズも今までは「家にはこれだけの物を置いて」と言ってきましたが、家と会社、通勤かばんの中と「三つの袋が必要」と発信するようになりました。教訓を防災講座に落とし込みつつ、「イザ!カエルキャラバン!」のメニューに入れていこうと準備しています。防災はどちらかといえば対症療法のような部分があります。ですから、知識があれば役に立つわけですから、知らないといけません。また、今回の津波の被害を見ますと、正直知識だけでは防げないものもあったのではと思っています。ですから、人間力が問われているのではないかと考えるようになりました。自然に対する考え方、哲学、自分が一人の人間としてどれだけ力を持っているのか、そういうことが問われるのが災害だと思いました。どれだけ準備をしても防げないこともあり、今生きていることを後悔しないようにしっかり生きてゆくことすら大事だと正直思います。もう少し言うと、地域コミュニティー、地域の人たちが普段から仲良くて助け合っていれば防げるものも増えてくると思うし、個人ではできないことでも、地域がまとまってできることもある。そういうことを利用しないといけないのではないかと思っています。震災を踏まえて、「イザ!カエルキャラバン!」をグレードアップさせたいと考えています。まずプログラム自体を見直すことが一つです。これまでは救難救助、救援系が多かったですが、備えるグッズの種類など「備え」をきちんと伝えていきたい。また、阪神大震災の教訓に引っ張られ過ぎていたのではないか、という反省もあります。それはもちろんべースですが、全国各地で開催しますので、そこの災害の歴史を大切にしたいと考えています。東日本大震災でも過去の津波被害を意識としてちゃんと持っていた地域の人たちは逃げることができました。地域、土地の防災情報、そういうことをもう少しクローズアップしたいと思ってます。さらに、被災時の連絡方法や避難の話、帰宅困難、避難生活の知識もこれまでちょっと少なかった。そうした知識を持っていることで苦労や困難を軽減できる部分があると思います。東日本大震災を経験して、伝えるべき情報がより深く広くなったかなと思っています。もう一つはカエルキャラバンは今まで子ども向けでしたが、子どもだけでは会場に来ません。大人に連れてきてもらっている。今年は大人も意識したい。防災情報が求められている時だと思いますので、お父さんお母さんが参加できる防災相談カフェのような企画を立てています。
■“禁止”地域で稲作続ける男性/出荷ではなく今後のデータ収穫したい
干上がった水田が広がる田園地帯で、1枚の田んぼから途絶えていたカエルの鳴き声が聞こえてくる。福島第1原発の事故で、コメの作付け禁止を求められた福島県川内村の農業、秋元善誉(よしたか)さん(68)は、今年もコメを植えた。「だめといわれても納得できない。農家の意地がある」。秋に実るコメは食用に回さず、専門の機関に検査してもらう。川内村は原発から20キロ以内の「警戒区域」や30キロ圏内の「緊急時避難準備区域」などに当たる。農家は国や県からコメの作付け禁止を求められ、田植えをあきらめざるを得なかった。そんな中、秋元さんは5月上旬、自宅前に広がる水田のわずか1枚、25アールだけに水を引き、コメを植えた。「今後のためにも、どんなコメができるか確認したい」。収穫されたコメは専門家に依頼し、放射性物質の有無を測る予定だ。川内村の空間放射線量は毎時0・5マイクロシーベルト前後で、秋元さんの水田と隣接する地区の土壌の放射能も基準値を下回っていた。「食べるためでなく、何年たったらまた田を使えるか調べたい。ここは今後20~30年コメ作りができない土地じゃないはずだ」田に水を入れて数日後、卵からかえったカエルの声が静かな村に響いた。ヤゴから成長したトンボも飛ぶ。その声と姿を見て、ようやく秋元さんは普通の生活をかみしめた。秋元さんを「変わった人間」と見る人もいる。村からは作付けを行わないよう説得された。「田畑は1年休んだら来年、同じように作物ができない。何百年と受け継いできた営みを守ろうとしているだけだ」。秋元さんの仕事仲間、小塚勝昭さん(66)はそう話す。作付けを禁止された県内の田畑は草が伸びきり、水を失い、ひび割れている。田を育て、コメを食べ、そのわらで牛を飼う-。連綿と紡いできたことが、ほころびつつある。秋元さんは「田んぼも、生き物も一日でひっくり返った。自然の中で一番罪作りなのは、人間なのかもしれない」と寂しげにつぶやいた。
■みやぎびっきの会 http://bikkinokai.net/
歌手さとう宗幸(62)を代表に、宮城県にゆかりのある芸能人が05年に結成し、同県の小中学校への楽器修復費用の寄付を目的にコンサートを続けてきた「みやぎびっきの会」が、東日本大震災で被災した子どもを支援する基金「びっきこども基金」を設立した。※「びっき」とは宮城弁で「カエル」のことです。
(1)各県の教育委員会などを通じて、被災した子どもたちの教育に役立てる。
(2)働き手を失った家庭や、被災した子どもを受け入れた施設などへの生活資金として送る。
(3)被災した子どもたちが将来、進学の望みを断つことのないよう援助する。
(4)楽器の修復などの活動も継続して行う。
これらの方針を掲げ、会のNPO法人化へ動いている。有事には子どもに限らず柔軟に支援し、年内に東京と宮城で「救援ライブ」を行う方向という。同会は女川町出身の歌手中村雅俊(60)、仙台市出身の歌手稲垣潤一(57)、塩釜市出身の声優山寺宏一(49)らが所属している。幹事役のDJ小川もこは「一時の流行で募金すればいいというのじゃなく、忘れないでいることが大事なので基金を立ち上げた。東北のみんなは負けないよ!と示したい」と語った。
■NPO法人生物多様性農業支援センター/理事長:原耕造さん
冠水した田んぼの塩分の除去、放射能汚染された田んぼの表土の除去、更に大規模圃場整備による復興の話が進行し、田んぼの命に関する議論は何処にも見当たらない。田んぼに水がなければカエルは産卵ができず、田んぼの生きものたちの「命の連鎖」は途切れてしまう。これまで私たちは田んぼの生きもの調査を通じて、農業が米を生産するだけでなく、多様な命(5668種)を生産していることを訴えてきた。今回の大災害によって一部の地域では米生産は出来ないが、命の生産は田んぼに水を入れることによって出来る。更に、もう一方の田んぼの命である被災した稲作農家の人たちの声が聞こえてこない。カエルは人間の声を出せないが被災した稲作農家は声を出せる。今は、少しでも早く避難所暮らしから解放され「昔の暮らし」を夢見ているので声を発していないのかもしれないが、本当に今のような復興の議論で良いのだろうか。全国の殆どの稲作農家は連続する価格下落により経営が圧迫され、後継者も確保できていない。被災した農家も同様であり、塩分が除去され大規模化して復興したとしても農業機械を買って再び稲作経営に取り組む農家は少ない。更に、減反政策が続けられ、戸別所得補償の展望が開けず、TPPによる関税化が進められて米価低下が続く状況のなかで、稲作経営に取り組む決心をする農家が多数を占める可能性は殆ど無い。今回の農業用施設の復興案には津波対策はあるが、魚道や江を設置する生物多様性の対策が見当たらず、これではカエルも復活する可能性は少ない。震災以前は地域での「暮らしと稲作が不可分一体」だったので、農家は経営採算を度外視しても稲作を続けていた。このことを忘れていくら立派な復興プランを実施しても、そこに稲作農家とカエルの暮らしは無い。3.11は価値観と暮らし方の大転換だと言われている。これまでの日本の稲作は地域の暮らしによって続けられて来たが、地域の暮らしが変化した時には田んぼが復田しても、そこには耕す農家と生きものたちはいない。水田は米の生産だけではなく様々な命を育む機能があるということを確認した「水田決議」は何処に行ってしまったのだろう。
■カエルとホタル季節観測やめます/気象庁、自然消え困難に
季節の移り変わりを知るため、動物の初鳴きや植物の開花などを調べる「生物季節観測」で気象庁が、都市化で観測が困難になっているとして、東京など大都市の気象台や測候所を中心に今年から観測項目を減らす。トノサマガエルの初見日(初めて観測した日)は東京や名古屋、大阪などの気象台や測候所計17カ所、ホタルの初見日は12カ所で観測項目からの除外が決定。除外対象は、さらに増える可能性があるという。生物季節観測は1953年に指針が作られ、現在は全国59カ所の気象台・測候所で桜の開花日やウグイスの初鳴き日などを記録。ほとんどの観測点で共通の動植物計23種のほか、各気象台などが必要に応じて観測する項目がある。現在は原則として気象台・測候所の半径5キロ以内で観測。気象庁は今春、平年値を71~2000年の平均から81~2010年の平均に切り替えるのにあわせて、生物季節観測も見直すことにした。調査の結果、今回見直し対象になった観測点はトノサマガエル、ホタルとも有効な平年値を出すための「30年間に8回以上観測」などの条件を満たさないことが分かった。東京の観測場所は世田谷区の東京農大周辺など。ホタルは東京管区気象台に記録が残る88年以降、トノサマガエルは89年以降、一度も観測されていない。