シーラカンス
■電源の燃料尽き魚類など絶望/福島の水族館
東日本大震災で停電した福島県いわき市小名浜の水族館「アクアマリンふくしま」で、急場をしのいでいた電源の燃料が尽きた。海獣など一部は首都圏の水族館に運んだが、魚類、熱帯系植物など計22万点はこのまま死ぬ可能性が高い。県生涯学習課の吉田清一主幹は「かわいそうだが今は人命が大切。燃料調達は当分あきらめなければ」と話している。水族館は県教委が管理し、海の生物や環境を学ぶ施設として00年に開館、年間100万人の入館者がある。11日の津波で1階の電気施設が浸水して停電し、非常用電源も燃料の重油が16日なくなった。水槽への酸素供給や水温調節ができなくなり、餌を保管する冷蔵庫も使えなくなった。展示していたのは魚類約4万4000匹▽エビやクラゲなどの無脊椎(せきつい)動物約15万5000匹▽植物2万点▽両生類30匹▽爬虫(はちゅう)類23匹▽哺乳類18匹▽鳥類27羽--などで、職員2、3人が残っているが手の施しようがなく、魚は徐々に弱って死んでいるという。一方、トドやタイヘイヨウセイウチ、ゴマフアザラシなど海獣類計7頭、エトピリカとウミガラスの鳥類計13羽、ユーラシアカワウソ1匹は、鴨川シーワールド(千葉県)▽上野動物園(東京都)▽葛西臨海水族園(同)▽伊豆・三津(みと)シーパラダイス(静岡県)--の4施設に16日運んだ。
■東日本大震災で深刻な被害を受けた、福島県いわき市小名浜の水族館「アクアマリンふくしま」(安部義孝館長)からセイウチ、トド、ゴマフアザラシなどが17日、千葉県鴨川市の鴨川シーワールドに「避難」してきた。アクアマリンでは、津波の影響で機械装置が海水につかり動かなくなった。魚類はほとんど死んだが、生き残った海獣類や鳥類は他の動物園、水族館が引き取ることに。鴨川の飼育担当者らが大型トラックで16、17日にいわき市まで2往復、約6時間かけて鴨川まで運び込んだ。セイウチ2頭は、オス800キロ、メス500キロの巨体。トドが3頭もいて、大きな雄は500キロ近い。ゴマフアザラシもオスとメスの2頭。ユーラシアカワウソと海鳥のエトピリカ、ウミガラスなどは、上野動物園や葛西臨海水族園に引き取られた。荒井一利館長は「うちも飼育スペースに余裕があるわけではないが、緊急避難として受け入れた。今後のことはこれから考えます」と語り、無事に着いた海獣たちにホッとしていた。
■職員冷静に誘導、犠牲なく/小名浜の水族館
福島県いわき市の小名浜港に面した「環境水族館アクアマリンふくしま」。大地震が起きた11日午後2時46分には、館内に客約100人と職員80人がいたが、犠牲者はいなかった。最大4メートルの津波が押し寄せたと推定されるまでの約20分間の避難誘導の状況が明らかになった。地震直後、1階事務室にいた職員、金成(かなり)美枝さん(34)は非常階段を駆け下りる客を見た。「上階に残っている人がいるかもしれない」と判断し3階へ上がった。案の定、大水槽前の通路では、防火用非常扉が閉まり、混乱して行き場を失った客約15人が右往左往していた。非常階段へ誘導したが、あわてて子供をベビーカーに乗せたまま下りようとする母親には冷静になるよう促し、子供を抱かせた。ガラスが割れるなどした館内を興味本位で見ようとする客も説得して脱出させた。飼育員の中村千穂さん(30)は、3階で餌を与えていたセイウチに落ち着きがないと感じた時、大きな揺れに襲われた。すぐに1階へ下り、水槽前で立ち尽くす客やパニック状態の客を出口へ導いた。客全員を屋外に誘導したのを確認できたのは約15分後。客らは自家用車などで避難したとみられる。職員80人が外に出てしばらく海を見ていると波が急激に引き、やがて海面が盛り上がるのが見えた。誰かが「逃げろ」と叫んだ。全員が非常階段を駆け上がった。3階から海を見ると、津波が約200メートル先の堤防をのみ込み、手前の駐車場に止まっていた車数十台を押し流して1階に流れ込んだ。水族館は、魚類や海洋哺乳類など約22万点を飼育し、年間約100万人が入館する。毎年ゴールデンウイークには1日2万人近く訪れ、自由に動けないほど混み合う。職員らは「そんな時期に津波が来たら、最悪の事態だったかもしれない。毎年実施している避難訓練が役立った」と口をそろえた。気象庁によると、いわき市の震度は6弱。県警の調べで、市内の死者は22日午前7時現在203人、行方不明は592人。水族館は電気設備が故障し、水温調節などができず魚類を飼えなくなった。
■20万匹を失った水族館「復興し、いわきのシンボルに」
東日本大震災の発生後、シーラカンスの生態調査で知られる福島県いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」で750種、約20万匹の魚が死んだ。停電で水槽の水の循環や温度の維持ができなくなったためだ。一部の貴重な生物は飼育係が避難所に運び出した。地震のあった11日は、約200人の入館者とスタッフら50人が館内にいた。全員が3階へ避難。1階は水没したものの、けが人はなかった。ただ、電気とガス、水道が止まった。自家発電では全館の飼育環境を完全に保つには足りなかった。まず、ユーラシアカワウソやトド、ゴマフアザラシなどの動物、カブトガニやオオサンショウウオなどの珍しい生物を県外の水族館に移すことにした。16日に鴨川シーワールド(千葉県鴨川市)や上野動物園(東京都)、新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)などに移動。シーラカンスに似た「古代魚」のオーストラリアハイギョは、自らも被災した男性飼育係が水槽に入れて運び出し、避難所の中学校にいながら世話を続けている。震災7日目の17日。自家発電機を回していた重油もなくなった。震災後、極度の食料やガソリンの不足に見舞われていたいわき市。「重油は病院などの施設でも使われている。こちらに回せ、とは言えなかった」。アクアマリンの担当者はそう話した。
電気不足でそれぞれの魚が生きるのに適した水温を維持できず、水中への酸素の供給もできない状態になった。数人の飼育係が毎日通って様子を見に来たが、次々と魚が死んでいった。水質を守るため、飼育係たちは死んだ魚を1匹ずつすくって水槽から出した。涙を流しながら作業する飼育係もいたという。同館では魚が育つ環境づくりのため、10年かけて生息に必要なマングローブなどの植物類も水槽内で育ててきた。いま、飼育係らは植物類は残そうと、何度もバケツで水を運んで世話している。久保木光治・副館長は「魚類の多くは福島沖など近海で再び採取できる。原発事故と停電さえ終われば本格的な再興に乗り出し、いわき復興のシンボル的存在になりたい」と話している。