いろは蛙辞典(9)
■最近興味深い研究報告が米科学アカデミー紀要の電子版に掲載されました。それは、ヤマカガシはガマを食べて、その毒を体内に取り込み、首の特殊な器官に蓄え、外敵から身を守るのに利用していることが分かったというものです。
■ヒキガエルの頸腺(けいせん)と呼ばれる器官は、頭の後ろの骨の両脇に十数対並んでいて、約70年前に発見された際には機能が不明でしたが、京都大の森哲・助教授らが調べた結果、ワシなどに襲われて急所の首をつかまれた際、この毒液を放出して撃退するのに使うことが分かったそうです。なんとも自然界は奥深く、未知なる世界が広がっています。
■昔、自来也(じらいや・地雷也とも書く)という妖術を使う盗賊の話がありましたが、その中に自来也が操る大ガマと大蛇の対決がでてきます。この対決は、結局大ガマが勝つわけですが、この大蛇はヤマカガシではなかったのでしょう。
■今では蝦蟇の油売り(がまのあぶらうり)の本場は筑波山ということになっていますが、これはもともとは伊吹山が発祥です。大正末期か昭和の初めに落語家の三代目柳好が、関東の人にもわかりやすいように伊吹山を筑波山変えて東京に持って来たのです。ですから筑波山以外は京都の加茂川が出てきたり、嵐山が出てきたり、全部舞台は関西なんです。言葉の調子がいいですからその辺は気付かれないのですが、その辺が話芸の見事さともいえでしょう。
・・・この蝦蟇はどこにおるか。花のお江戸は西に離れること130里、江州は伊吹山の麓に乳母子(おんばこ)という薬草を食ろうて育っているのがこの四六七面相(しろくひつめんそう)の蝦蟇、四六五六(しろくごろく)はどこで見分ける、前足の指が四本、後足の指が六本、これを称して四六は七面相の蝦蟇という・・・
■四六の蝦蟇が食するという「おんばこ」とは・・・
オオバコ、車前草のこと。車前草とは車(自動車でなく牛馬、時には人が引く大八車など)の通る道端の輪のほとりに生える草との意味で、オオバコとは大葉子でその葉が大きいことの意味。民間薬的には生の葉をあぶってカスリ傷や火傷、おでき、腫物などに用いられるが、漢方では車前というと種子の車前子のことで医療用でも牛車腎気丸に用いられている。オオバコの方言でカエルグサ、ゲェロッパなどがあるが、これは悪童が蛙をいじめて失神状態にさせても、オオバコの葉っぱをかけておくと何時の間にか元気をとりもどして逃げて行くことに由来しており蝦蟇の油の口上に蛙と関連のある薬草を登場させるところは庶民心理をよく捕らえている。なお蝦蟇はハエなどの虫類を捕食するのでオオバコは食べません。
■こんな説もあります・・・葉っぱがカエルの背中に似てるから、ゲロッパ、カエルッパなんて呼ばれる。マルバグサというのも葉の形から。花穂を絡み合わせて引き合う遊びを相撲にたとえるので相撲草と呼ばれることもある。中国で車前草というのは車の通り道に生えるから。地面に張り付くように広がる葉に対して、花穂はひょろっと立ち上がる。これが鞭(ムチ)に見えるから中国では馬鞭草とも呼ぶ。『本草網目』には蝦蟇衣という呼び名も出てくるが、日本のカエロッパと発想が似ていておもしろい。
■葉が大きいので「大葉子(オオバコ)」と呼ばれます。なお、オオバコのことを「ゲーロッパ」、「ゲロッパ」と呼んでいる地域があります。カエルのことをゲル、ゲロといい、「ゲルの葉っぱ」が転じて現在の呼び名になったようです。ちなみに、なぜゲルの葉っぱなのか(オオバコの葉がカエルに似ているから?オオバコがカエルのいる田んぼに生えているから?)理由はさだかではありません。
■オオバコ(Plantago asiatica)
ダイエットのオオバコは・・・
■プランタゴ・オバタ(Plantago ovata)
英名「サイリウム(Psyllium)」といいますプランタゴ・オバタ、オオバコ科の植物で、別名、サイリウム、イサゴールともいいます。プランタゴ・オバタ種皮は、プランタゴ・オバタの種子の粘質性のある外皮から精製した水溶性の食物繊維です。ヨーロッパでは、便秘の民間薬として使われてきました。日本では、便秘薬の他、食用にも利用されています。
プランタゴ・オバタは、水を吸うと膨らむ性質があるため、胃腸内でトコロテン様の粘りのある物質となってお腹の調子を整えます。つまり、便の量を増やしたり、腸内の善玉菌を増やします。また、サイリウムは、腸のぜん動運動を促し、便通をよくし、血液中の余分なコレステロールを排出する作用もあります。摂取すると満腹感が得られやすく、食べる量を減らす効果もあるため、ダイエット効果が期待できます。コレステロール値、血糖値の降下作用も確認されています。
特定保健用食品では、「お腹の調子をととのえる」食物繊維として、プランタゴ・オバタ種皮を使用した即席麺、シリアル、粉末飲料などがあります。食物繊維食品やダイエット食品の素材にも利用されています。プランタゴ・オバタ種皮は、水を吸収して膨らむことで、より高い効果が得られるので、使用するときは、水分を多めにとることがポイントです。過剰にとると、胃部の膨満感や下痢などの症状が出ることがありますので注意が必要です。
さて「蝦蟇の油」でずいぶん引っ張ってしまいましたが、少し話題をかえて「カエルの胃の中のカエル」という・・・ややこしい話。
オーストラリアには、変わった生態を持つ生き物が少なくありません。1979年に発見された「不思議ガエル」もその一つ。なんと、このカエルは卵を産むと自分で卵を飲み込み、様々な外敵から卵を守ります。そして、胃の中で約6週間、オタマジャクシになり子ガエルになるまで育て、口から子供を産むのです。親ガエルはその間全くエサをとらないのですが、なぜ、卵やオタマジャクシが胃酸で溶けたりしないのでしょうか。その秘密は「粘液」にありました。親ガエルの胃の中では大量の粘液が分泌され、この粘液が卵やオタマジャクシをしっかりと包み込んでいるのです。そして、胃酸で溶けてしまわないように厚いバリアの役目を果たしているのです。この不思議ガエルは、珍しい生態が注目され、様々な研究がなされていましたが、環境破壊が進んだためでしょうか、ある時から姿が見られなくなり、すでに絶滅したと言われています。
■カモノハシガエル(Rheobatrachus silus)は、動物界脊索動物門両生綱無尾目カメガエル科に分類されるカエル。絶滅種。別名イブクロコモリガエル。
体長オス3.3-4.1センチメートル、メス4.5-5.4センチメートル。背面の皮膚は鮫肌状か顆粒状。背面の色彩は褐色や黄褐色、黒で、不明瞭な暗色斑が入る。眼から前肢基部にかけて暗色の筋模様が入る。四肢背面には暗色の横縞、指趾や水かきには褐色の斑紋が入る。腹面の色彩は白く、淡黄色の斑紋が入る。卵の保護膜や幼生からは胃酸の生成や消化活動の働きを妨げるプロスタグランジンE2が分泌され、胃の中でも消化されないようになっている。