「驚いたなあ、写真送ったところなのに」
「せっかちは、たっちゃん譲りなの」
「よっこのシルエット、ちょっと色っぽくなったんじゃない」
「かなあ・・・そっちはどうなのよ」
「はは、ノマド追いかけて、ぜんぜん男の子よ」
「Tシャツはどう?」
「ごめんごめん、感想言わなきゃね」
「なんだ、忘れてたの?」
「とんでもない、今も着てるよ。これ着て撮りまくってたら・・・」
「撮りまくってたら?」
「ノマド連中が、欲しいっていうんだ」
「あげればいいじゃない」
「裸になれっていうの? 私も女の子よ」
「さっき男の子って言ったじゃない」
「まよ子」は安子との会話が楽しくて、いっしょにいられたらとつくづく思った。
「来年は帰ってこれる?」
「そのつもりだけど、どうして?」
「資料館の1周年記念に、安子と二人展やりたいなあと思って」
「それ、いいね。ぜひ」
安子となら、どんなアイデアでも具体的になるし、新しいイメージがどんどんふくらむ。安子が男の子だったら、そんなことまで頭をかすめる「まよ子」であった。
安子の活躍は、現地の新聞に掲載され、日本でも話題になり始めていた。「まよ子」は嬉しくもあり、焦りもあった。なんとか、自分の作品を売り出さなければ、安子にあわせる顔がない。母・千恵子のアイデアで、「染たつ資料館」のミュージアムグッズとして、Tシャツを置いてみることにした。少しずつではあるが、若い舞妓たちに広がり、タウン誌にも紹介されるようになってきた。
本格的な染色を展開するためには、広い染場が必要であった。思い切って、菊乃の若女将に相談することにした。
「本当に図々しいんですが、お願いがあります」
「あら、うれしいわ。何か私にできることがあって?」
「はい、祖父や母がやっかいになっていた時、たしか離れを使わせていただいていたと思うんです」
「そうよ、今は空家同然だけど・・・」
「そこを私に使わせていただけないでしょうか」
「いいわよ、でも一つだけ条件を出してもいいかしら」
「はい、使わせていただけるならなんなりと」
「染場が必要なんでしょ、わかってるわ。だったら、この菊乃の“のれん”を、はずかしくない“のれん”を染められるかしら?」
「今の私には無理かもしれません。でも、きっと満足していただける“のれん”を、たっちゃんに負けないような“のれん”を染めてみせます」
「まよ子」は、本当に自信がなかった。しかし、そんなことは言っておれない。
「私は、幻の染師・天谷達人の血を受け継いでいるのだから・・・」
自分に何度も、何度も言い聞かせた。新しい染場の整備も終え、早速「菊乃」のれん作りに取り掛かった。藍染そしてたっちゃんの足跡を、何よりも菊乃への感謝を込めて、
「やっとできたわ」
3日3晩、一睡もせずに仕上げた。若女将は、染場で倒れこむように熟睡する「まよ子」にそっと布団をかけた。
「これは、来年3月まで大切にしまっておくわ」
口コミで「染たつ資料館」Tシャツの人気が沸騰し、料亭界隈は若い人たちで活気を帯びてきた。さらに、子ども用のTシャツも作ってほしいなど、様々な注文が舞い込み、染場には染色家をめざす若者が出入りするようになった。母・千恵子も時々手伝いに訪れ、オートクチュールのマダムからの提案で、子ども服ブランドを立ち上げることになった。商品化を、千恵子が担当することになった。
「お母さん、Tシャツも軌道に乗ってきたことだし・・・」
「どうしたの疲れちゃった?」
「ちがうの、来年3月安子と二人展するじゃない」
「そっか、その作品染めなきゃね」
「そうよ、1周年記念なんだから」
スタッフを募集しTシャツ制作を継続させつつ、本格的な染色作業を開始した。安子を驚かせるような作品、試行錯誤の毎日が続く。
・・・つづく
ちゃくちゃくと冬支度・・・
この木枠は・・・?
藍葉と茎を選別するための「アミ」でした。
習字をならっている会員さんが、書き潰しの半紙をいっぱい持ってきてくださったので・・・横顔パネル作品に貼ることにしました。