まよ子(31) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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「驚いたなあ、写真送ったところなのに」

「せっかちは、たっちゃん譲りなの」

「よっこのシルエット、ちょっと色っぽくなったんじゃない」

「かなあ・・・そっちはどうなのよ」

「はは、ノマド追いかけて、ぜんぜん男の子よ」

「Tシャツはどう?」

「ごめんごめん、感想言わなきゃね」

「なんだ、忘れてたの?」

「とんでもない、今も着てるよ。これ着て撮りまくってたら・・・」

「撮りまくってたら?」

「ノマド連中が、欲しいっていうんだ」

「あげればいいじゃない」

「裸になれっていうの? 私も女の子よ」

「さっき男の子って言ったじゃない」

「まよ子」は安子との会話が楽しくて、いっしょにいられたらとつくづく思った。

「来年は帰ってこれる?」

「そのつもりだけど、どうして?」

「資料館の1周年記念に、安子と二人展やりたいなあと思って」

「それ、いいね。ぜひ」

安子となら、どんなアイデアでも具体的になるし、新しいイメージがどんどんふくらむ。安子が男の子だったら、そんなことまで頭をかすめる「まよ子」であった。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-しんぶん1



安子の活躍は、現地の新聞に掲載され、日本でも話題になり始めていた。「まよ子」は嬉しくもあり、焦りもあった。なんとか、自分の作品を売り出さなければ、安子にあわせる顔がない。母・千恵子のアイデアで、「染たつ資料館」のミュージアムグッズとして、Tシャツを置いてみることにした。少しずつではあるが、若い舞妓たちに広がり、タウン誌にも紹介されるようになってきた。

本格的な染色を展開するためには、広い染場が必要であった。思い切って、菊乃の若女将に相談することにした。

「本当に図々しいんですが、お願いがあります」

「あら、うれしいわ。何か私にできることがあって?」

「はい、祖父や母がやっかいになっていた時、たしか離れを使わせていただいていたと思うんです」

「そうよ、今は空家同然だけど・・・」

「そこを私に使わせていただけないでしょうか」

「いいわよ、でも一つだけ条件を出してもいいかしら」

「はい、使わせていただけるならなんなりと」

「染場が必要なんでしょ、わかってるわ。だったら、この菊乃の“のれん”を、はずかしくない“のれん”を染められるかしら?」

「今の私には無理かもしれません。でも、きっと満足していただける“のれん”を、たっちゃんに負けないような“のれん”を染めてみせます」

「まよ子」は、本当に自信がなかった。しかし、そんなことは言っておれない。

「私は、幻の染師・天谷達人の血を受け継いでいるのだから・・・」

自分に何度も、何度も言い聞かせた。新しい染場の整備も終え、早速「菊乃」のれん作りに取り掛かった。藍染そしてたっちゃんの足跡を、何よりも菊乃への感謝を込めて、


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-しんぶん2



「やっとできたわ」

3日3晩、一睡もせずに仕上げた。若女将は、染場で倒れこむように熟睡する「まよ子」にそっと布団をかけた。

「これは、来年3月まで大切にしまっておくわ」

口コミで「染たつ資料館」Tシャツの人気が沸騰し、料亭界隈は若い人たちで活気を帯びてきた。さらに、子ども用のTシャツも作ってほしいなど、様々な注文が舞い込み、染場には染色家をめざす若者が出入りするようになった。母・千恵子も時々手伝いに訪れ、オートクチュールのマダムからの提案で、子ども服ブランドを立ち上げることになった。商品化を、千恵子が担当することになった。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-しんぶん3



「お母さん、Tシャツも軌道に乗ってきたことだし・・・」

「どうしたの疲れちゃった?」

「ちがうの、来年3月安子と二人展するじゃない」

「そっか、その作品染めなきゃね」

「そうよ、1周年記念なんだから」

スタッフを募集しTシャツ制作を継続させつつ、本格的な染色作業を開始した。安子を驚かせるような作品、試行錯誤の毎日が続く。

・・・つづく


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-しんぶん4

ちゃくちゃくと冬支度・・・


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-しんぶん5

この木枠は・・・?


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-しんぶん6

藍葉と茎を選別するための「アミ」でした。


◆すくらんぶるアートヴィレッジ◆(略称:SAV)    若い芸術家たちの作業場・みんなの芸術村-しんぶん7

習字をならっている会員さんが、書き潰しの半紙をいっぱい持ってきてくださったので・・・横顔パネル作品に貼ることにしました。