「忘れてた」
「何をよ」
「太陽と水との関係」
「そうね、文明は大きな河によって生まれたと言ってもいいくらい」
「染色もそうなの、太陽と水が命なの」
「へえそうなんだ」
「“太陽の気まぐれ”って呼ばれてる染色があるのよ」
「おもしろい、それってどんなの?」
「“渋染”って知ってる?」
「あの茶色っていうか、柿色っていうか・・・」
「そうそうそれよ、その“渋染”も日本では悲しい歴史があるのよ」
溢れる思いを胸に、暮れかかった街を肩をならべて帰路につく。
「今日調べたことや気づいたこと、一度整理して・・・」
「みんなに集まってもらわなきゃね」
「そうよ、近いうちに連絡するからよろしくね」
「わかった、私もまとめておくわ」
一週間後、料亭・菊乃の座敷にメンバーが集結した。父・修が中心になって、今後のプロジェクトの進め方について話し合われた。
「エジプト関係は山野秀人さん、インド関係は木場浩一さん、このお二人はそれぞれの国の考古学研究所の協力のもと連携して取り組んでください。研究の集約は、読々新聞社のアジア支社が行いますので、常に連絡を取り合ってください」
「まよ子」は、「染たつ資料館」開館準備の進捗状況を報告するとともに、安子と調べた内容について、頬を紅潮させながら語った。
「おもしろいねえ、若い人たちの発想というか、着眼点は大いに勉強になる」
オブザーバーで参加してくれた山野隆がうなった。
「このプロジェクトは、予想以上に広がりつつあります。これまでの枠にはまった研究調査ではなく、常に開かれたものでなくてはなりません。そういう意味で、まとめたり集約する作業は困難を極めるものと予想されます」
「どこまで拡散するかわからないからこそ、世代を超えての継続的な取り組みが鍵となります」
「これまでの研究調査の最大の弱点は、過去・現在・未来が途切れていて、不必要な時間と費用そして労力がかかってきました」
「今回のプロジェクトを進めて気づいたのは、自分たちの都合に関係なく、人類はつながっているということ、大地はつながっているということです」
「このプロジェクトのきっかけを与えてくれた安斎達人さんは、いや天谷達人さんは、一人の染色職人ではありましたが、その仕事と人生をかけて私たちに大きな遺産を残してくれたのだと思います」
「まよ子」はうれしかった。大好きだった「たっちゃん」こそ、世界遺産に登録すべきだと心の中でつぶやいた。
「私は今、“染たつ資料館”の準備を進めていますが・・・」
突然の「まよ子」の発言に、一同が注目した。
「来年3月には開館できる運びとなりました。開館は3月3日、祖母・孝子の誕生日です。そして、開館記念展の締めは、父・達人の誕生日3月23日に決定しました」
参加者全員から拍手が巻き起こった。
「このプロジェクトの中で、一番早く実現する事業でもあり・・・」
しばらくの沈黙があった。代わって、安子が立った。
「その開館を機会に、私たち二人は作家としての道を歩むことを誓い合いました」
「もちろん、このプロジェクトのスタッフであることに変わりありません」
「よっこは、染色作家として」
「安子は、写真家として自立します」
さらに大きな拍手が送られた。
そして、「染たつ資料館」はオープンした。
・・・つづく
3番刈りの藍葉もほぼ乾燥しました。
会員さんが藍葉と茎の選別作業に来てくれました。
私は、動物好きの孫のために、木製のギャロップ?を作りました。