象魚(2)
■「象魚」逆柱いみり
女子小学生の夏休みの風景描写「鯉」や、珍妙なキャラクターが登場するものの密かに自由を謳歌する少年の喜びを描いてちょっとノスタルジーをかきたてる「金魚」などの作品もある。しかし強烈に印象に残るのは、ストーリーらしいストーリーはなくグロテスクが生物続々登場しておしまいの「動物園」や、不衛生で鬱陶しい工場の風景をこれでもかとばかりに描きまくる「血痰処理」など。細部まで描きこまれたコマを追っていくのがなんとも楽しい。自動記述的な先の読めない感じが、脈絡も説明もないところがおもしろい。
■馬馬虎虎(まーまーふーふー)
不定形で、分裂して増殖したりする一つ目の猫のような人のような正体不明の主人公をガイドに、湿り気を帯びた香港的な悪夢の街ぶらぶら散策ツアー。ディテールは鮮烈だが全体像は不明なこの作品世界は「夢の中のリアリティ」に満ちている。川上から流れてきた金魚の腹にはアメリカがいっぱい詰まっている、アメリカは増えすぎるとよくないから駆除しよう。そのためにはニンニクとタマネギが必要だ。こんな論理も夢の中でならきっと納得できる。南伸坊が解説で「私の夢」を逆柱いみりに思い出された、みたいなことを書いている。言葉による説明は極力排除され、『象魚』収録作品よりもさらに意味を削ぎ落とされたシュールな傑作。「馬」の字は中国の簡体字。中国語で「いいかげんな奴」の意。
■「はたらくカッパ」逆柱いみり
町に就職の面接に行くはずが、ひょんな事から乗組員がカッパの蛸漁潜水艦の炊事担当になってしまった女の子とカッパの幻想的な物語。
■「赤タイツ男」逆柱いみり
摩訶不思議幻想的景色大量流出漫画。一度はそこに行ってみたい、どこかブキミで懐しい夢の中のような世界をめぐるロードコミック。
■逆柱いみり(1964年7月14日~)
静岡県静岡市出身。ペンネームの由来は「逆木の柱」と「いみり(ひびという方言)」から。主に青林堂、青林工藝舎などで作品を発表する寡作な作家であり、出版物は絶版などで手に入りにくい。高校卒業後に地元で会社員として数年間働くがねじ式を読み漫画家を目指す。1989年、「ガロ」でデビュー、その後「月刊アフタヌーン」で四季賞佳作受賞。作品ではストーリーや内容、目的や盛り上がりすら存在しない非常に独特のシュールな世界を描く。読者はまるで異国を観光しているような気分になる。





