ぎょ(306) | すくらんぶるアートヴィレッジ

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魚句の細道(1)


■俳人松尾芭蕉は、幼名を金作、のちに 宗房(むねふさ)と名乗っていました。そこで、本名を音読した「宗房(そうぼう)」を俳号としていたのです。その後江戸に出て、1675年(延宝3)大坂の西山宗因を歓迎する句会に出席、俳号を「宗房」から「桃青(とうせい)」に変えました。また、住居を江戸の中心から深川に移し、門人李下(りか)が庭に芭蕉の株を植えたことから、この庵が「芭蕉庵」と呼ばれるようになり俳号として、1682(天和2)より「芭蕉(ばしょう)」の俳号を好んで用いていました。



■芭蕉は、寛文十二年(1672年)江戸に下り、日本橋本小田原町の魚問屋二階に草鞋を脱ぎました。芭蕉が身を寄せていた魚問屋というのは、北村季吟の同門下だった小沢仙風の俳号を持つ鯉問屋、杉山賢水宅でした。そして賢水の長男にあたる杉風(さんぷう)こそが、芭蕉がまだ有名にならない前からの支持者であり、芭蕉十哲のひとりとして終生追随した杉山杉風その人です。杉風は師に対して経済的な援助を通じて、スポンサー的役割も果たし、のちの蕉風俳諧を築いていく上での最大功労者といわれています。 杉風の家業である鯉問屋が、先に述べましたように魚河岸では特別の存在で、たいへんに羽振りが良かったことが芭蕉への庇護を可能にしたといえます。鯉屋では鯉を囲っておくための生簀を深川に二ヶ所持っていたといいますが、そこにあった番小屋を改造したのが芭蕉庵であり、その名も生簀に植わっていた芭蕉からつけられました。



■「古池や 蛙飛び込む 水の音」



この有名な句はまさに芭蕉庵で詠まれたといいます。



■「奥の細道」 松尾芭蕉が元禄時代に著した紀行本(1702年刊)。日本の古典における紀行作品の代表的存在で、松尾芭蕉の著書の中でも最も有名な作品です。なお、原文の題名は「おくのほそ道」です。作品中には多数の俳句が読み込まれています。芭蕉が弟子の河合曾良を伴って、元禄2年3月27日(新暦1689年5月16日)に江戸の芭蕉庵を出発し・・・全行程約600里(2400キロメートル)、日数約150日間(約半年)中に東北・北陸を巡って1691年に江戸に帰りました。奥の細道では、大垣に到着するまでが書かれています。



■(序)月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也。舟の上に生涯をうかべ馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして、旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり。予もいづれの年よりか、片雲の風にさそはれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋江上の破屋に蜘の古巣をはらひて、やゝ年も暮、春立る霞の空に、白川の関こえんと、そヾろ神の物につきて心をくるはせ、道祖神のまねきにあひて取もの手につかず、もゝ引の破をつヾり、笠の緒付かえて、三里に灸すゆるより、松島の月先心にかゝりて、住る方は人に譲り、杉風が別墅に移るに、



■「草の戸も 住替る代ぞ ひなの家」



面八句を庵の柱に懸置。



■彌生も末の七日、明ぼのゝ空朧々として、月は在明にて光おさまれる物から、不二の峰幽かにみえて、上野・谷中の花の梢、又いつかはと心ぼそし。むつましきかぎりは宵よりつどひて、舟に乗て送る。千じゆと云所にて船をあがれば、前途三千里のおもひ胸にふさがりて、幻のちまたに離別の泪をそゝぐ。



■「行く春や 鳥啼き魚の 目は泪」



是を矢立の初として、行道なをすゝまず。人々は途中に立ならびて、後かげのみゆる迄はと、見送なるべし。芭蕉の奥の細道の最初の句です。深川の芭蕉庵をひきはらって千住に滞在して友人知己との別れの句会を開いていた芭蕉は、旧暦三月二十七日(陽暦五月十六日)に奥羽街道、日光街道の最初の宿場を出発します。句の意味は、過ぎゆく春を惜しんで、鳥は悲しげに鳴き、また魚の目は悲しさに泪で濡れている、ということです。千住は宿場町であり、魚市場、野菜市場があったから、芭蕉は市場の魚のことが強く心にあったのであろう。惜春の情と自分が長い旅に発つ別れを重ねて詠んだ句は、自分を鳥に喩え、見送りの人々を魚に喩えています。別れの場で芭蕉は矢立の筆でさらさらとこの句をしたためて見送りの人に渡しました。



■鎌倉を生きて出でけん初鰹


はつがつお

明ぼのやしら魚しろきこと一寸

■雪薄し白魚しろきこと一寸


■藻にすだく白魚やとらば消ぬべき



しらうお

■塩鯛の歯ぐきも寒し魚の店


■水無月や鯛はあれども塩鯨


■ふぐ汁や鯛もあるのに無分別



たい

■霰せば網代の氷魚を煮て出さん

■鮎の子のしら魚送る別哉


ひうお


■白魚や黒き目を明く法の網


■吹く風の中を魚飛ぶ御祓かな


■あら何ともなきやきのふは過ぎてふぐと汁


■魚鳥の心は知らず年忘れ