前回「スクラッチ」の実践を紹介しましたが、魚の表現には「線描」がふさわしいと考えています。もちろん「面」の表現も展開できますが、魚のウロコやヒレなど様々な形があり、まずそのことを楽しんでほしいと思います。
さて、その「線描」の方法は、鉛筆やペンによる「ドローイング」が出発点になりますが、次の段階としていろいろな「技法」を用いてさらなる表現へと広げていくことになります。「スクラッチ(ひっかき)」は、簡単で楽しい技法ですから、写真でもわかるように鉛筆の時よりもすごい集中力を発揮してくれます。そして・・・発達段階にあわせて、ぜひ「版画」にも挑戦させたいものです。ということで・・・
版魚人(はんぎょじん)①
魚を版画しておられるいろいろな作家をを紹介していくことにします。
■柄澤 齊(1950年-) 日光市に生まれた柄澤齊さんは、日本の木口(こぐち)木版画の第一人者として20歳代の初めから活動を始め、すでに30年以上にわたって活躍して来られました。さらに版画のみならず、版画本来の複数性による世界への伝播を基盤とし、本の装丁や挿絵の仕事にも腕を振るい、自ら梓丁(してい)室という出版工房を主宰するに至っています。その一方でエッセーも執筆し、ミステリー小説『ロンド』によって下野文学大賞を受賞するなど、文学的才能もいかんなく発揮されています。こうした柄澤の関わるどんな形の作品にも、現代の美術が排除してきた文学に対する深い愛情が、いきいきと脈打っています。
■美術ミステリー「ロンド」柄澤 齊/東京創元社
この本には、4つの挿絵が載っている。美術作品の作家、美術評論家、作品の所有者、美術館学芸員の4人が事件関係者。4つの殺人事件現場は4つの名画の場面を真似した情景。ストーリーの展開は主題A,主題B,主題C,主題Dと4つに区切られている。
20年前に死んだ天才画家・三ツ桐威の回顧展が企画された。準備を進めるうちに、幻の傑作といわれる「ロンド」が発見されたという報せに接し、企画担当者の学芸員・津牧はその作品の出品にかかわる。作品「ロンド」はたった三日間展示されただけで、その絵を見た人が極めて少なかった。しかし、権威ある美術賞を受賞した。その作品は写真撮影もされていない。受賞後、まもなく三ツ桐は交通事故で死亡し、所在不明となっている。企画展覧会場に「ロンド」が運び込まれる段階で、次々と殺人事件が起こる。しかも事件現場のは、東西の絵画作品に見立てた連続殺人事件が学芸員・津牧の周辺で起きる。魔性の名画「ロンド」は姿を見せるのであろうか?