ギョ(魚)ラフィック・デザイン[6]
昨年の夏、「ふくやま文学館」を訪問した。それは、私にとっての「山椒魚」を確認するためでもあった。
階段をのぼり2階に入ると・・・腕組みをした鱒二さんが迎えてくれる。静かな空間があった。
「屋根の上のサワン」も好きな作品だったし、もちろん「黒い雨」も。しかし「山椒魚」ほど強烈な印象を刻み付けた作品は他にない・・・だからかもしれない。表紙に「山椒魚」が登場しないのは、読者それぞれのイメージが形成されるがゆえに、それを壊さないためにも「山椒魚」はモチーフとして用いないのではないだろうか?いや、用いるべきではないのだ。そうに違いない。
■サンショウウオ(山椒魚)とは、両生綱・有尾目(サンショウウオ目)・サンショウウオ亜目に属する動物の総称。山椒魚は英名で「サラマンダー」。世界最大の両生類で、大きなものは1.5mほどにまで成長するそうです。夜行性で生命力がきわめて強く、小型の種類のものは「精力をつける」ということで食材としても珍重され、福島県の桧枝岐では、山椒魚のテンプラを銘酒「花泉」とともに食べられる宿もあります。
でも、オオサンショウウオは、別名「ハンザキ」とも呼ばれる国の「特別天然記念物」。決して食べてはいけません。しかもオオサンショウウオは、現在は河川の護岸工事などで産卵巣を作れなくなって、どんどん数が減少しているのです。天然記念物のオオサンショウウオをいじめると、肌のぶつぶつから乳白色の液体を出し、これが山椒の香りがするのだそうです。そして、水中で魚のように上手に泳ぐことから「山椒魚」と呼ばれるようになったという説があります。
■オオサンショウウオという名前は、比較的新しい言い方です。地方によってハンザキ、ハンザケ、アンコウ、ハザコなどと呼ばれています。篠山市に「安口」(ハダカスと読む)という地名がありますが、オオサンショウウオと関係があるようです。ハンザキの語源は、半分に切り裂いても生きているように思えるところからきているのでしょうがそれは実際にはそのようなことはなく、口が大きく、半分に裂けているように見えるからではないかと思います。また、一度かみついたら、雷が鳴ってもはなさないと言われています。昔の本には、オオサンショウウオのことを「波之加美以乎(はじかみいお)」「鯢魚(げいぎょ)」「魚帝(てい)」などと書かれています。
昔は、動物性蛋白源となる魚や肉の入手が少なかったので、貴重な蛋白源として食用にしていた地方も多いです。また、結核や下痢の治療薬としても食用にされていたようです。食べるまではしなくても、井戸や池の中に放しておくならわしがあるところもあります。このようにオオサンショウウオは、昔から人々の暮らしとかかわりを保ちながら生きてきているのです。姫路市立水族館長は、オオサンショウウオの名前を単純にサンショウウオの大きいものとして使っていると指摘しています。英語の"giant salamander"の和訳がなされることも原因の一つではないかと述べています。
これは「エゾサンショウウオ」です。私がなぜ「山椒魚」が好きになったのか・・・思い出したことがあります。
■小学校1~2年を担任していただいた「ノダリツコ」先生。一人ひとりの誕生日に「ノート」をプレゼントしてくれました。その「ノート」には普通の罫線ではなく、原稿用紙のような・・・しかも手書きのように線がやさしく揺らいでいるものでした。表紙は「青」で「文集」と書かれていました。私がいただいた「ノート」の1ページ目には・・・「さんしょはこつぶでぴりりとからい」と書いてくださっていました。今でも心に刻まれている言葉です。私は「オオサンショウウオ」にはなれませんが、小さくてもぴりりとした「サンショウウオ」でありたいと思っています。
■豪玉万里紀行Ⅱ第2回公演「山椒魚」
原作:井伏鱒二/脚本・演出:武谷嘉之/出演:中瀬良一(太陽基地アパッシュ)、中村一平