自然界には物としての青色の存在が稀であることは事実であり、空や海を代表とする青はまさしく「漠」とした広範囲の色を内包する青である。そして「藍」は、そのような神秘的で憧れとも言える青色を私たちの生活にもたらしてくれた植物であり青色染料である。
《藍》藍は、藍草の葉で染めた色の総称として用いられる。ただし後述のように、「平安朝をのぞいては」というのが正確であろう。また、染料となる植物そのものをさす。中国最古の字書『説文解字』には、藍は「青を染める草なり」とある。それよりおよそ三百年ほど前になる『荀子』の勧学篇にみえる「出藍の誉れ」と同様のことが記されていて、藍は染色の材料、青は色名に使われているといえる。日本においての「藍」はその両方使われてきたようで、『正倉院文書』には、「藍色百張」とあり、また『国家珍宝帳』には「藍色琉璃廿」という記述もなされているから、この頃の藍は、緑系ではなく、黄味の入らない瑠璃のような青を示していたように思われる。平安時代に編された『延喜式』には、緑、縹、藍の文字のつく色名が見える。ところが、縹だけが藍の染料だけで染められていて、ほかのものは青と同じように藍に黄色の染料である黄蘖や刈安が掛けられており、いずれもやや緑がかかった色となっている。どうやら平安時代の人々は、縹色だけを、空の色のような、黄色がまったく混じらない、今日でいう青、と考えていたようである。今日では藍色といえば、藍の葉だけで染めた色をさしている。植物の葉は枯れると薄茶色になるのが普通であるが、藍の色素を含んでいる葉は青色を呈していることに気づいたのが始まりと考えられる。日本では、タデ科の藍が用いられてきた。五世紀から六世紀にかけて中国から渡来したもので、平安時代には播磨国と、京都南部の鴨川の下流にあたる九条あたりの湿田が主な産地であった。桃山時代にいたって、蜂須賀家政が阿波徳島の藩主となってから、暴れ川と異名をとる吉野川の氾濫を逆に利用して、藍の栽培を始めたのである。洪水によって毎年のように新しい土砂を運び込む吉野川の下流一帯にとって、その地にも強靭に生育する蓼藍は格好の作物であった。加えて瀬戸内海の水運の発達によって、この地で「すくも」という形にされた干藍を各地に運ぶことも可能になったのである。徳島の藍の栽培が盛んになり始めた頃に、日本でも木綿が栽培されるようになり、藩の殖産振興作物として作付けが奨励されていった。木綿という植物繊維は、とくに藍の染着性に富んでいるところから、それらの地方には村々に紺屋ができて、徳島から運ばれた藍で染められたのである。
以上、「色の万華鏡」よりhttp://www.wanogakkou.com/life/00100/00100_005_02.html
藍は植物染料で原産地はインドであることは広く知られています。又その英名をインジゴといいます。4~5千年前エジプトに伝えられ、高級織物やミイラに巻かれた麻布に使われていました。その後全ヨーロッパに伝えられました。アジアにおいては紀元前3世紀中国の荀子がその勧学篇に「青は藍より出て藍より青し」という名文句を残しており、「出藍の誉」の語源となっていることからも古くから利用されていたことがわかります。一方歴史的にこれらの文明と全く関連性のない南米アンデスのプル・インカ文明のパラカス文明(B.C.2~3)の遺跡からも木綿に染められた藍染めが発見されています。日本へもかなり古くから伝えられたと考えられますが、特に江戸中期徳島の阿波の吉野川流域が蓼藍の最適地となり全国一の主産地として発展しました。しかし江戸後期に入り、藍(インジゴ)色素含有量が多く安価なインド藍に逐次圧倒され、さらに明治に入って合成染料が輸入されるに至って生産は激減しました。天然藍といっても多種多様ですが、いずれも天然物から得られるものであるから、その組成である藍(インジゴ)分以外の物が多量に含まれています。たとえば徳島産スクモで3%弱の純分で大部分が染料分以外の組成を含んでいます。この地方でもかつては熟練の職人が天然の藍で染め上げていましたが、現在では化学染料による染色が導入されています。しかしそれによって多彩な色使いが可能にもなっています。
《藍染に利用されるアイの種類》
・タデアイ Polygonum tinctorium
タデ科:日本の藍染に利用・蓼正藍
・インドアイ Indigofera tinctoria
マメ科:インディゴの語源です・木藍
・リュウキュウアイ Strobilanthes cusia
キツネノマゴ科:沖縄の藍染に利用される。
・ナンバンコマツナギ Indigofera suffruticosa
八重山諸島の藍染に利用される。島藍とも呼ばれます。
・ホソバタイセイ Isatis tinctoria
アブラナ科:インドアイとともにデニム生地を染める藍
英名ウォード。漢方では「板藍根」とも。北海道に自生するエゾタイセイは
アイヌの民族衣装の染色に用いられた。