《モナリザの右目と左目》
媚を含んでいる感じすらする熱っぽい眼差しの目であるが、左の目は正面を見ているが、右の目は右のほうを見ており、焦点を少しずらせている。これによって顔の左側はややきつい感じ、右側は和やかな感じを醸し出している。そこで、眼の専門家のおもしろい説を紹介しておこう。
その目に感じる不自然さ、違和感の原因は「視線のずれ」にあるのです。本来なら、左目(向かって右側)はもう少し鼻側に寄っているはずです。では、なぜ視線がずれているのでしょうか。それは、このモデルの女性が「斜位」だったからです。「斜視」と「斜位」は違います。「斜視」の場合は、視線は常にずれていて、両目で一つのものを見ることはできません。 手術以外には方法はないのですが、500年も前(1503~6頃の制作)にそんなことは不可能ですから、ずれている方の目は見えないのが普通です。 見えない、とは言っても全く見えないというわけではなく、反対の目よりも弱いという程度です。「斜位」の場合は両眼視はできています。普段はずれてはいないのですが、疲れたときや眠くなったとき、写真を撮ったときなどにずれが起きます。もっともこの時代には写真もないので、当然ながら絵のモデルになっているとき、ということになります。また、「斜位」の場合は日常的に何の問題もないので、周囲ばかりか本人さえ気がつかないでいることがあります。普通はずれることのない視線がずれている原因は、もしかしたらモデルの女性が近視だったのかも知れません。見ている物がぼやけて見えなくなると、気がゆるんで視線が外れてしまいます。この女性とレオナルドの距離は、周りの状況からすると5メートルはあったはずです。この5メートルとは、眼科で視力検査するときの視力表までの距離に相当します。その場合、一番上の指標は0.1ですが、左目に関してはその程度か、それ以下だと考えられます。多分この女性の目に関しては、利き目は右目でその視力は0.3程度。そして左目の方はそれよりも弱く、0.08くらいだったと想像できます。というわけで、「モナリザの謎のまなざし」の原因は、「斜位と近視」にあったのです。現代の科学は、その名画に隠された秘密を科学的に分析することができます。「モナリザ」にX線を照射したところ、そのまなざしの下から別のまなざしが浮かび上がってきました。レオナルドは下描きで、少なくとももう1種類のまなざしを描いています。別の角度で描かれたまなざしがどういう方向を向いていたのかは、そのX線画像を見ていないので、何とも言えません。もしかしたら、2種類のまなざしでの迷いが、表現上の「斜位」の原因かも知れませんし、意図的にそうしたのかも知れません。でも、そのまなざしに関しては迷いがあったのは確かですが、人体図を精密に描いたレオナルドが、意図的に視線をずらすとは考えにくいのです。だとしたら、日常的には気がつかない程度の「斜位」があった、と考える方が自然だと思うのです。ところで、コンタクトレンズを発明したのは、レオナルド・ダ・ヴィンチでした。
なんとも専門家の研究というのはスゴイですね。説得力があります。
《眉毛とシミ》
眉毛が無いのが不自然というのは、それはあの時代の流行だったようです。また、まぶたに黄色のしみがあるのは「高脂血症」の兆候ではないか、と言われていましたが、これは「モナリザ」が盗難に遭うなどして保存状態がかなり悪く、絵の具の油がしみ出してきたためです。その黒くしか見えない衣装も、制作当時はもっと鮮やかな赤と青だったようです。また、実際は微笑んでいないのに、「謎の微笑」といわれるのは、表面のひび割れが微妙な陰影を作り出しているのが原因なのです。・・・という説もありました。