1962年34歳という著さで夭折したフランスの現代作家イブ・クライン。クラインが実際に美術家として活躍したのは、1950年代後半からその死までの数年間にすぎないが、その間モノクローム(単色)絵画をはじめ、「人体測定」や「火」のシリーズなど、次々に独創的な表現を開拓した。特にモノクローム絵画では、数ある色彩の中のただひとつ「青」にとり憑かれ、みずからの使用する青を「インターナショナル・クライン・ブルー」と命名し、その一色だけによる作品を作り続けたのである。彼にとってこの青は、生まれ故郷のニースの海岸で見た空の色であるとともに、彼が求め続けた宇宙の根源的なエネルギー、宇宙的な感性と直接結びついている色であり、具体的なものとの関わりを持たない唯一の色であった。青で彩られたモノクローム絵画は、私たちを「物質的なもの」の束縛から解き放ち、無限の宇宙へいざなってくれるかのような探い精神性に満ちている。ここに紹介したクラインの作品を観たとき、私はあの「サモトラケのニケ」に出会ったときと同様の感動に包まれた。