この本は、まだ無職を経験していない人が、「いまこの社会で無職になるって、どんな感じなんだろう?」と、穴から覗くようにして読むのがよいのではないか。いわゆるイメージトレーニングのような感じである。具体的な事例を自分と重ね合わせることで、「もう少し今の会社を続けてみようか」とか、「会社を辞めた時のために、こういう準備をしておこう」など、考えるきっかけを与えてくれるだろう。
裏表紙には、「非正規雇用、正社員、アルバイト、フリーランス。東京で無職で生きる日々の記録」とある。内容も体裁も日記調なので、「読者を想定して書かれたエッセイ」をイメージして買うとアテが外れるかもしれない。あと、内容の半分くらいは会社員として働いている時のエピソードなので、いわゆる完全無職ライフや、サバイバル術のようなものを求めている人にもオススメしない。
そうではなく、「非正規雇用、正社員、アルバイト、フリーランス」を柔軟に渡り歩き、所属と無所属の境界線を生きる。そこに「あたらしい無職」というタイトルの所以があるのかもしれない。それでも、無職だからこそ共感できる感情の機微が行間に漂っていて、まるで同僚を得たような気持ちになる人もいるはずだ。
このような日記的な記述は、今和次郎が提唱した「考現学」にとって貴重な資料にもなる気がする。一方で、同様の文章はブログなどにあふれている、と言われればそうかもしれない。しかし、そうしたネット上の言説は、何かしらのきっかけで全て消えてしまう可能性がある。もちろん書籍だって、空襲で全て灰になるようなこともあるが、それでも1000年以上残っている文献は存在する。それに対して、電子データ、ネット上のデータが1000年残るかと考えると、う〜ん、という感じである。
本書のように、自分の記録を書籍として形にしておくのはとてもいいことだと思う。年を経てブログを読み返す機会はあまりないと思うが、本にしておけば、ふと手に取ったり、人に渡して読んでもらったりする機会が生まれるかもしれない。そのどれもが唯一無二の人生の記録である。