『半市場経済』書評(コンセプトワークショップ代表・佐藤修氏) | 杉原学の哲学ブログ「独唱しながら読書しろ!」
コンセプトワークショップ代表として、
30年以上前から「コモンズの共創」をテーマに
活動を続けている佐藤修さん。

これまでに数多くの社会起業家を育て、
ご自身もまた社会的課題の現場に
関わりつづける佐藤さんのもとには、
ひっきりなしに相談者が訪れる。

ぼくから見たらまさに
「賢者」と呼ぶにふさわしい人だが、
ご本人にそう言ったならきっと、
「いやいや、こんな愚かな賢者はいませんよ」
と言うことだろう(笑)

そんな尊敬すべき佐藤さんが、
『半市場経済』の書評を
ご自身のホームページで書いてくれた。

CWSコモンズ
http://homepage2.nifty.com/CWS/

ご本人の了承もいただいて、
下記に転載させていただきます。

佐藤さん、ありがとうございます!

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生き方を問い質すヒントが満載
「充足感のある居場所」づくり
を目指している人にはお薦めです

■『半市場経済 成長だけでない「共創社会」の時代』
(内山節ほか 角川新書 800円)

いまの社会に生きづらさを感じている人は少なくないと思いますが、そうした中で、新しい働き方や生き方を目指す人たちが、少しずつ増えてきています。
多くの人たちは、社会に合わせて生きていますが、いうまでもなく、社会はそれを構成する一人ひとりの生き方の集積ですから、そういう新しい生き方が社会を変えていくことになります。
自らの生き方を変えることは難しいことですが、それでも社会を変えることに比べればできないことではありません。
そして、そうしたことを可能にする状況が、生まれてきているのも事実です。
生きづらい社会を嘆くのではなく、生きたいように生きることを考えたほうがいい。
そう思って行動を起こした人たちが、社会を変えていくかもしれません。
本書は、そういう思いを持っている人たちへの応援の書です。

湯島のサロンの常連の一人でもある杉原学さんも、社会に合わせる生き方ではなく、自らの納得できる生き方を実現している一人です。
その杉原さんも執筆者の一人として、参加したのが本書です。
全体を方向づけているのが、「里の哲学者」とも言われる内山節さんです。

最初に内山さんが、経済(狭義)の展開と社会の創造が一体化しうる経済のかたちを発見したいと書いています。
ちなみに、「半市場経済」は、競争原理の市場経済に関わりながらも、より良い働き方やより良き社会をつくろうとする経済の営みと説明されています。
つまり、本書が目指しているのは、新しい経済学ではなく、新しい社会、あるいは経済のあり方、そしてその基本にある私たちの生き方(経済の営み)なのです。

第2章では、そうした「半市場経済」の活動事例として、「社会性ミッション」と「事業性ミッション」の両方を同時追求する「なりわい」としてのエシカル・ビジネスが語られます。
第4章では、そうした動きの背景にある、世界的なウェルビーイングへの潮流と、半市場経済の活動が引き起こすソーシャル・イノベーションが具体的に語られています。
そこに出てくる2つのキーワード(概念)が私にはとても興味がありました。
「総有」と「産霊(むすび)の力」です。
これは私がずっと志向していることでもあるからです。

その2つの章の間にあるのが、杉原さんの「存在感のある時間を求めて」という論考です。
杉原さんは、時間を切り口に、私たちの生き方を問い質していきます。
そして、半市場経済を活かした動きを背後で支えているのは、市場経済に管理されながら生きる人間が失った存在感のなさが関係的生き方を希求させ、それが新しい共感をつくりだす基盤になっていると杉原さんは言うのです。
ここで説かれている「時間論」はとても面白いです。
「私有された時間」と「共有された時間」という捉え方で、杉原さんは生き方を論じていきます。
そして、私有したはずの時間が、貨幣に置き換えられながら収奪されてゆく「時間の私的所有」のパラドックスを問題にします。
時間を私有した途端に、私たちの生は物財化してしまう。
だからもう一度、「みんなの時間」を考え直そうと呼びかけます。
腕時計が嫌いな私にはとても共感できます。
時間は共有されてこそ、生きているのです。

内山さんは最初の章で、「幸せを感じる条件は暮らしのなかに充足感のある居場所があるということだ」と書いています。
とても共感できます。
本書は、そうした「充足感のある居場所」を目指して生きている4人の実践者たちの論が有機的に絡み合いながら、「これからの社会」「これからの生き方」を浮き立たせてくれます。

気軽に読める本ですが、たくさんの示唆を与えてくれる本です。
ぜひ多くの人に読んでいただき、「充足感のある居場所」づくりに活かしていただきたいと思います。
「充足感のある居場所」のある人たちが増えれば、それだけで社会は豊かになっていくでしょうから。
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内山節『半市場経済 成長だけでない「共創社会」の時代』 (角川新書)


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