こんなところでトマ・ピケティ | 杉原学の哲学ブログ「独唱しながら読書しろ!」
いま話題沸騰中の
トマ・ピケティ『21世紀の資本』
(山形浩生ほか訳、みすず書房)。





彼の来日インタビューが
東京新聞で特集されていたので、
その部分を切り抜いて、
行きつけの喫茶店で読んでいた。

焼き菓子と珈琲のセットを
ひとしきり満喫してからレジに行くと、
ふいにマスターが声をかけてきた。

「ピケティの切り抜き、読まれてましたね」

まさかこんなところで
ピケティの名前を聞くとは。

「いやぁ、ずいぶん話題になってるんで、
 知ったかぶりくらい
 できるようにと思いまして(笑)」

と答えると、

「東京新聞ですよね?
 僕も今朝、気になって読んでました(笑)」

とのこと。

『21世紀の資本』のブレイクぶりを
思わぬところで実感することになった。

しかしこの本、
読む人の立場によって
実にさまざまに解釈されている。

早くもいろんな解説本が出ているが、
ピケティの意図を汲み取るというよりも、
自分自身の意見を主張するために、
我田引水的に利用されているケースも多いようだ。

これはおそらく新聞も同じで、
日経、読売あたりはおそらく
東京新聞とは全く違う紹介の仕方を
しているのではないか。
日経も読売も読んでないので知らないが(笑)。

ピケティの考え方を普通に読めば、
現在のアベノミクスは、
ピケティが考える処方箋の
逆をやっているようにしか見えない。

確かに安倍が言うように、
ピケティは経済成長を否定していない。

しかしそれは、
資産が多いほど
高い税率が課されるという
累進資本税の導入など、
格差縮小のための
再分配システムを前提としている。

そうしたことを無視して、
自分たちの都合のよい点のみを
取り上げる解釈は不誠実であろう。

いずれにせよ、
僕はピケティの理論が
社会のあらゆる問題を
解決するとは思わないが、

「トリクルダウンの理論が
 実現した例は過去にありません」

というような
彼が明らかにしてきた事実は
もっと広く浸透してよいと思う。

佐々木毅氏が述べているように、

「ピケティ氏の言明は
 古き良き時代を知らない世代には
 自明のことである」。