人生を変えた言葉(2) | 杉原学の哲学ブログ「独唱しながら読書しろ!」
24歳くらいのころだっただろうか。

当時の僕は、大阪の
宣伝会議コピーライター養成講座に通っていた。

大学を中退して、
劇団ひまわりに1年いたあと、
アルバイトで生活をつなぎながら
将来を模索していたころである。

たまたま宣伝会議の講師の方が
ラジオCM制作会社の社長を紹介してくれて、
その人からアルバイト的に
仕事を振ってもらったりしていた。

当時の僕はなんの実績もなくて、
しかも技術も未熟なたんなる若造。
(今でもピュアだが。)

そんな若造をわざわざ
手を焼いて世話してくれたんだから、
あらためてすごい人だなあと思う。

じっさい、その人のもとから
スタークリエイターが何人も巣立っている。
彼らがいかに努力してスターになったか、
という話もよく聞かせてくれた。

その社長に晩飯をごちそうになったときだった。


社長「杉原君は彼女いてるんか。」

僕「はい、いてますけど。」

社長「まだ結婚せえへんのか?」

僕「(飯を吹きそうになりながら)
  無理ですよ!僕なんかまだプータローですし、
  将来の道筋も全く見えてないですもん。
  いまの状態で結婚なんて考えられないですし、
  なんの責任も持てないです。」

社長「…杉原君。そんなな、
   人の道踏み外さんとこうと思わんでええで。」

僕「??」

社長「ワシもちゃんと仕事しようと思ったのは
   結婚してからやからな。
   結婚してもーたらええで。」

僕「そんなもんですか…。」


大学を中退して、人生のレールを
踏み外した気がしていた当時の僕は、
そこからどうやって「まっとうに生きていくか」
ということばかり考えていた気がする。

そんなときに、
「人の道踏み外さんとこうと思わんでええで」
という言葉はものすごく衝撃的だったし、
ものすごく救いになった。

そもそも、そんな「道徳的じゃないこと」
を若い人に言う大人に出会ったのは
初めてだったのかもしれない(親父除く)。

その後も、この言葉に
どれだけ救われてきたかわからない。

重要な決断をするとき、
社会的にマズイことをしたとき(笑)、
いつもこの言葉を思い出してきた。

そうすると、いつでもニュートラルな気分で
自分自身を見つめられる気がするのである。


「人の道踏み外さんとこうと思わんでええで。」


それが正しいかどうかにかかわらず、
「そういう考え方もあるんだ」
ということを知っているだけで、
ずいぶんと楽な気持ちになれるものである。


僕が本来いかにまっとうな人間なのかが
このことからもわかる。(論文風に)