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自殺予防の大枠について知るにはいい本。
著者が精神科医だということもあり、
精神科への信頼度の高さが印象的。
自死をした人、残された遺族の心理なども描かれており、
そのような立場の人たちへの偏見を持たないためにも、
一読の価値があると思う。
【引用メモ】
日本では、「自殺は覚悟の行為である」とか、
「予防などできない」という考えが今でも根強い。
しかし、自殺はけっして自由意志に基づいて選択された死ではなく、
むしろ、ほとんどの場合、さまざまな問題を抱えた末の
「強制された死」であるというのが精神科医としての私の実感である。(piv)
一九九〇年代末以来もっとも問題になっているのは、
働き盛りの世代の自殺の増加だ。
図1-3に示すように、男女の合計で五〇歳代が二三・一パーセント、
四〇歳代が一六・〇パーセントと、この働き盛りの世代だけで
約四割を占めるのは、最近の日本の自殺の特徴ともいえる。(p12)
うつ病の有病率は女性が高いのだから、
自殺率も女性に高いはずであるのだが、
実際にははるかに男性のほうが高率である。(p15)
一九八六年には中学生のいわゆるいじめ自殺も大きく報道された。
その結果、一九八六年には未成年者の自殺数は八〇二人を数え、
その前後の年と比べて四割も増えてしまった
(一九八五年:五五七人、一九八七年:五七七人)。(p57)
WHOなどによる自殺報道に関するガイドラインが発表されているが、
その骨子について以下にまとめておこう。(中略)
①短期的に過剰な報道をすることを控える。
②自殺は複雑な原因からなる現象であるので、
自殺の原因と結果を単純に説明するのを控える。
③自殺報道は中立的に伝える。元来自殺の危険を抱えた人が
自殺者に同一化する可能性があるので、自殺をことさら
美しいものとして取り扱ったり、大袈裟な描写をしない。
嘆き悲しんでいる他の人々、葬式、追悼集会、
飾られた花などの写真や映像を添付しない。
④自殺手段を詳細に報道しない。
自殺の場所や手段を写真や映像で紹介したりしない。
どのような場所でどのような方法で自殺したか
といった情報はできるだけ簡潔にする。
⑤(とくに青少年の自殺の場合には)実名報道を控える。
⑥自殺の背後にはしばしば心の病が潜んでいるが、
それに対して効果的な治療法があることを強調する。
同じような問題を抱えながらも、適切な対応を取ることによって、
自殺の危機を乗り越えた例を紹介する。
⑦具体的な問題解決の方法を掲げておく。
自殺の危険因子や直前のサインなどを解説し、
どのような人に注意を払い、どのような対策を取るべきかを示す。
専門の医療機関や電話相談などについてもかならず付記しておく。
⑧日頃から地域の精神保健の専門家とマスメディアとの連携を緊密に取る。
このようにすることで、群発自殺の危険が高まった時でも、
適切な助言を時機を逸することなく得られるような体制を作っておく。
⑨短期的・集中的な報道に終わらせず、
根源的な問題に対する息の長い取り組みをする。
(p63)
「受診しろ」ではなく、「私も行くから、一緒に受診してみよう」
という働きかけがよい。(p131)
自殺は最終的な悲劇であり、それまでに起きる可能性のある
多くの問題を解決する能力を育てるように手助けするのが重要である(p169)
フィンランドで出会った関係者が異口同音にして強調していた点は、
自殺予防は短期間では十分な効果が上がらないので、
長期的な視点が必要であるということである。(p174)
自殺のキーワードは「孤立」である。
困ったときには、誰かに助けを求めても構わない、
むしろ、それが適切な対応なのだという点を強調したい。(p222)
満足度
★★★☆☆