「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ | 杉原学の哲学ブログ「独唱しながら読書しろ!」
「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ (文春新書)/谷岡 一郎

¥725
Amazon.co.jp


今までほとんど疑うことなく信じてきた「社会調査」の実態が、
まさかここまでひどいものとは思わなかった。

新聞社が、自社の社説を強化するために意図的に
調査結果を誘導するなどは言語道断である。

しかし、自分が論文などを書く際に、
意識する、しないにかかわらず、私たちも同じような
過ちを犯してしまう可能性はけっこう高いのではないだろうか。

「果たして自分が調査する立場になったとき、
この本で突っ込まれない内容にすることは可能なのか?」
という不安を抱くことになった。

また、自分が調査を行うときだけでなく、
他の文献などからデータを引用するときにも
細心の注意を払う必要があると感じた。

自分の論旨を補強してくれるデータが、
苦労の末やっと見つけたものだった場合、
ついその調査の妥当性などには
目をつぶってしまいがちになるのではないだろうか。

それが「ゴミ」だったとわかったとき、
潔く捨てるのはなかなか勇気のいることだろう。

早い段階で、何を知りたいのか、
どのような調査をするべきなのかを確認し、
間違いのない「リサーチ・デザイン」を
構築することが重要である。

「社会調査のすべてのプロセスは、
 このバイアスの連続体だといっても過言ではない。
 逆に言えば、社会調査方法論とは、
 いかにしてこのズレを最小にできるかを
 追求するための方法論のことで、
 完璧な調査などありえないという視点からスタートする。」

という部分は、正しい社会調査を行うために、
常に意識しておかなければならない言葉だろう。

以下、引用メモです。
---------------
本書の論点は、次の五点に要約できる。
①世の中のいわゆる「社会調査」は過半数がゴミである。
②始末が悪いことに、ゴミは(引用されたり参考にされたりして)
 新たなゴミを生み、さらに増殖を続ける。
③ゴミが作られる理由はいろいろあり、調査のすべての
 プロセスにわたる(いろいろと例示するつもりである)。
④ゴミを作らないための正しい方法論を学ぶ。
⑤ゴミを見分ける方法(リサーチ・リテラシー/research literacy)を学ぶ。
(p9)

よく「指標(indicator)」と「指数」とが混同される
ことがあるが、指標というのはまだ数量化できていない
段階における、指数の構成概念にすぎない。(p15)

マスコミの皆さんにお願いがある。
他人の調査を引用する時は、最低、
次の三点だけはチェックし、それを記事の中に入れるか、
読者からの請求があれば答えられるようにしてほしい。
◎何を目的とする調査か(主催者は誰か。仮説は何か)。
◎サンプル総数と有効回答数は何人か。どう抽出したか。
◎導き出された推論は妥当なものか。(p65)

記事において全体の印象を操作する方法としては、
(a)見出しや小見出しを有効に使う「言葉」によるものと、
(b)写真やグラフなどを応用した「視覚(ヴィジュアル)」
によるものとに大別できる。(p77)

大先生という人種は自我が強く、自分は世界で一番頭が良く、
しかも正しいと信じているため、性格的に合わない者にとっては、
たとえどんなに優秀であっても不幸な環境といえるかもしれない
(これは旧帝大を中心とする有名校での
一世代前の一般論であることをお断りしておく。
現在では大学院生のオプションはより多様化している)。(p95)

日本では、若い研究者は大先生と同じ学問をし、
同じ教科書を使い、同じ講座を教えるようになるだけである。
思いきって新しい分野を創り出そうと思っても、
職もなければ研究費ももらえない仕組みになっているのである。(p99)

事前にきちんと理論と仮説とその検証プロセスがあって、
そのとおりのプロセスで検証された結果を見なければならない。(p108)

社会調査をおこなう者は、まずもって人間の
あやふやな記憶を相手にしていることを前提にして、
計画をスタートしなくてはならない(p122)

社会調査のすべてのプロセスは、このバイアスの
連続体だといっても過言ではない。逆に言えば、
社会調査方法論とは、いかにしてこのズレを
最小にできるかを追求するための方法論のことで、
完璧な調査などありえないという視点からスタートする。(p124)

「相関関係」ではどちらが原因で結果かは不明で、
時間的にどちらが先行するかはわからない。
「因果関係」においては「原因」となる変数と
「結果」となる変数が明確化され、時間的にも
原因(X)が結果(Y)に先行する。(p126)

選択肢は「相互に排他的(mutually exclusive)」
でなくてはならない、つまり二つ以上の回答が
あってはならないということと、選択肢は
「相互に補完的(mutually exhaustive)」
でなければならない、つまり選ぶものが何もないような
状況を作ってはならない、の二点がある。(p174)

どのようなサンプリングであれば、理想的もしくは
検証に耐えうるものとされるのであろうか。
それは、次の四つの条件を満たしたものである。
★十分な数がある(「十分」であるための数は、検証内容などで変化する)。
★母集団が(一般的に)定義されている。
★回収率が高い(100パーセントを理想とする。
60パーセント以下になると、かなりのバイアスが存在すると考えた方がよい)。
★確率標本(probability sampling)である。(p186)

今後は情報を得る能力よりも捨てる能力の方が、
はるかに重要な素養となってくる。(p194)


満足度
★★★★☆


【お知らせ】
『考えない論』コラム連載中!