・この世界の片隅に 上・中・下
「来週から海兵団で軍事教練を受けることんなった 三月は戻れん」
「…………その後は?戻って来れるんですか?」
「たぶん…文官から武官へ肩書きが変わるだけじゃ 心配いらん」
「……………………」
「…すずさん 大丈夫かのすずさん こがいに小もうて こがいに細うて
わしも父ちゃんもおらん事なって この家を守り切れるかいの?」
「無理です 絶対無理」
(周作、すずの即答にハッとする)
「…………ごめんなさいうそです 周作さん うちはあんたがすきです
ほいでも三月も会わんかったら周作さんの顔を忘れてしまうかもしれん
じゃけえ大丈夫 大丈夫です この家を守ってこの家で待っとります」
「すずさん…」
「この家におらんと周作さんを見つけられんかもしれんもん……」
(下巻P21-23)
このシーン、やっぱり1番好きな場面です。うるっときてしまいました。
映画では予算の関係などで削られた、リンさんの話がやっぱり印象に残りましたね。純朴な好青年のように描かれていた周作さんが、実は遊郭の女性とじっこんの間柄だったとは。知り合いに無理やり連れてこられて、免疫がないからのめりこんてしまったとかなのかな。すずさんも、ある種の三角関係の中で揺れる女性としての一面が描かれていて、意外というか。
筆で書かれた、あたたかくも素朴なタッチのすずさんの日常は、地味なんだけど頭の中に実体験のようにしみついて離れない何かがあります。
ただ、これはこれで素晴らしいのですが、正直あのアニメはマジですごいと再確認できました。特に終盤の晴美さんと二人きりでいるときに空襲に遭う場面、そして余韻のある最終回などはあまりにもアニメでしか出来ない表現で構築されていて、改めて舌を巻きました。
とはいえこの物語を一から組み立て完成させたこうの史代先生の偉大さは揺るぎないわけで、改めて「本当に素晴らしいものは伝わる」んだなあということを再認識させられました。早く映画の完全版が観たい……。